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「じゃあ自己紹介してもらえるかな」


 先生が少女に話を振るが少女は何も話そうとはせずじっと先生を見つめるだけだった。


「ほら!皆さんに自己紹介しないと話す時に困ってしまいます。だから自己紹介してください」

片桐光かたぎりひかり……」


 簡潔に短く名前だけを伝えるとそのまま光はだんまりとしてしまった。クラスメイト達も何やら異様な空気を感じ取ったのか今までの美しいものを見るような物から怪訝なものを見るような目に変わっていた。


「あっ、あの!ほら!何か無いんですか‼︎好きなものでも何でもいいんですよ」


 先生が何とか空気を変えようと光に話を振るが彼女はそれに応えることはなく沈黙を貫いた。先生もここまでくると流石に諦めたのか彼女を席に着くように促した。


 彼女が席に向かう間もクラスメイト達は彼女を変なものを見るような目で見続けてHRが終わってからも誰も彼女に近づこうとはしなかった。普通、彼女のようにだんまりになってしまうような娘は緊張したりしていることが多い。それが分かっているからこそ自分から話しかけようとクラスメイト達は転校生の周りに集まるものなのだが彼女の異様な雰囲気はみんなが感じ取っているようで転校生だというのに誰も近づく様子はなかった。


 そのまま授業は何事もないまま進み他クラスから転校生を見に来る以外今までの生活と変わった事は起きなかった。


 放課後になっても誰も彼女に声をかけようとはせず光は一人で学校の校門をくぐった。


 そんな彼女を僕は気づいたら追ってしまっていた。

 僕と同じで空っぽな雰囲気を醸し出している彼女に興味を持ったからだ。


 病気になってから何かに興味を持ったことはこれが初めてだった。今まではどうせ死ぬんだし何をしようが変わらないと何かに興味を持つことすらやめていた僕だが僕と同じ雰囲気を持つ彼女がどうしてそんな風になったのか気になったからだ。


「あのさ……一緒に帰らない?」


 光から話を聞きたい、その一心で僕は彼女に声をかけた。しかし彼女が僕の言葉に反応することはなくそのまま去ってしまった。


「あっ、あのさ!無視はしないでよ!どうしても君に聞きたいことがあるんだ!」


 僕がそう伝えるとようやく彼女は足を止めた。


「何?」


 少しキツイ口調で話してくる彼女に少し気圧されながらも僕は言葉を繋いだ。


「いや……なんか君が僕と似てるなって思ってさ。それで話を聞きたいなと…」


 僕の気持ちをそのまま述べるが彼女の表情は変わらず代わりにじっとこちらを見てくるだけだった。この時僕は『失敗した』と思っていた。そりゃあ見知らぬ男子にいきなり声をかけられて聞きたいことがあるなんて言われれば警戒もする。僕は彼女がこのまま行ってしまうのではないかと不安に思ったが彼女の反応はそのどれよりも予想外だった。


「どうして私があなたに自分の情報を伝えないといけないのですか?情報は私たち人間にとって最も大切な武器です。それを相手に与えるということは自分を命の危険に晒すということ。そんな危険を無償で犯せなどとあなたは一体何が目的ですか」


 そのいかにも戦時中みたいに話されて僕は固まってしまった。

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