余命1年の僕と空っぽな少女が恋に落ちるまで
雪白水夏
空っぽ同士の小さな恋
1
ふと窓を除くとどんよりとした雲が立ち込めた空が目に入った。どこまでも続いているそんな曇り空が僕のこれからの人生を暗示しているようで気味が悪く感じられてすぐに目を逸らす。
忘れ物がないか確認するため病院のベットに目を向けてみれば昨日まで僕が使っていたという事実などまるでなかったかのようになかったかのように皺一つないシーツに包まれたふかふかの状態で次の患者を受け入れる準備が整っていた。
個室だったので僕の退院で現在使っている人がおらず一つだけポツンと寂しげに置かれてあるベットを眺めているとそれが僕自身の未来なんじゃないかと考えてしまい無性に悲しくなった。
そんなことを考えていると病室の扉が開き担当医である雪原先生が入ってきた。彼は結構なベテランでもう初老に差し掛かっている。
「退院おめでとう春陽君。定期的に診察にきてもらわないといけないがそれ以外は無理のない程度になら普通の生活を送ってもらっても構わないからね」
優しげに話す雪原先生に対して両親は嬉しそうな表情で執拗なくらいお礼を告げていた。
確かに彼のおかげで今僕は生きているのだがどうしても素直にお礼を言う気持ちにはなれない。しかしここで何も言わずに去ってしまうのは社会的に失礼だということもわかっていたので表面上だけでも頭を下げてお礼の言葉を告げた。
雪原先生は『医者として当たり前のことをしただけだから気にしなくてもいいよ』とは言っているがまんざらでもないようだった。正直そんな雪原先生を殴りたいとさえ思ったがグッと堪えた。
僕は彼に余命一年を告げられている。
彼の手術によって病気の症状は抑えられているが決して治ったわけではない。正直な話僕自身は二週間前に倒れたときにそのまま死んでしまっていればよかったとさえ思っていた。
どうせ現代の医学では治せないのならばイタズラに寿命を延ばしたところで僕や家族、知り合いが苦しむ時間が増えるだけだ。それならばさっさと死んでしまって一瞬の苦しみで終わらせて欲しかった。
そう思うと感謝の気持ちなんて持てるはずもなく逆に憎悪の気持ちばかりが湧いてきていた。
自殺も考えたが結局自分の意思で死ぬのは怖くてできなかった。死ぬのが怖いくせにあの時死んでいればという矛盾に捻くれているなと感じながらも恨めしい気持ちを感じずにはいられなかった。
高校に復帰してからも相変わらずで誰に対してもそっけない態度を取ってしまう。時間が経てば経つほど自分のことが嫌いになっていくのが日に日に分かった。いっそのことこの場で病気が悪化して仕舞えばいいのにと何度も願ったがそんなことあるはずもなく半年が過ぎた。
その日は朝からクラス中転校生がやってくるという話題が持ちきりで騒がしかったのだが、担任である青木先生が入ってくると一気に教室が静まり返った。
転校生はすでに教室の扉の前に待機しているのか先生が『入ってきて』というと教室の扉が開き1人の少女が入ってきた。
教卓の前に立つ少女は吸い込まれるような澄んだ青い瞳を持ち、一つにまとめられた日本人離れしたプラチナブロンドの髪が特徴的だった。
男女問わずクラス中の生徒がその神秘的な美しさに目を奪われていた。
だからこそ僕以外誰も気づかなかった———
いや、僕だからこそ気づいたのかもしれない。
彼女の瞳に何も写っていないことに——
僕と同じで何もかも諦めたようにまるで何も感じていない空っぽの抜け殻のようであることに……
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