3. First battle
月ヶ瀬先輩から逃げて、廊下の突き当たりで、私は左に曲がる。そのすぐ横にあった部屋に飛び込むと、私はガチャッと内側から鍵をかける。
混乱したままの頭を整理しようと思うけれどやはり情報量が多すぎて考えれば考えるほど分からなくなっていく。私が彼の嫁になって、それでどうして寮のみんなに勝てるんだろうか。分からない。
その時、ガチャッと鍵の開く音がした。
「っ……?! 私、鍵……」
「俺がここのリーダーなんだよ、鍵なんておちゃのこさいさいだって」
扉の陰から顔を覗かせる先輩。
「逃げられないって分かったでしょ? さ、こっちへおいで」
先輩は私の手を引くと、部屋を出る。その手は先程と変わらず、とても冷たい。
「……そうだな、この辺りで大丈夫か」
と、呟く声が聞こえる。
「お客様の登場のようだね」
「……お、客? あっ」
そこには、寮にいるはずのみんなが、傷ついた姿で立っていた。
「みんなっ、どうして……!」
「ふふっ、アジトの護兵たちはどうだったかな? まあ、その様子じゃ軽く苦戦したみたいだけど」
「うるさいッ、そこを乗り越えて来たんだから正々堂々と勝負しろ!」
大和くんの一言に、少し驚いた表情をする先輩。
「勝負? 何のためのさ? 俺は、意味の無い勝負を吹っ掛けてくるヤツが一番嫌いだ」
冷えきった表情を浮かべ、そう言う。
「それはもちろん、夏美をかけて」
「わ、私……?」
先輩はそれを聞いて、薄く笑った。
「姫様をかけて、ね。ああ乗った。まあ、俺が前線に出て闘う必要は無いと思うけどね。俺に忠実な部下たちが君たちを伸してくれるはずだから」
先程私を取り囲んでいた面々が、寧音くんたちの前に立ちはだかる。みんなは、戦闘を始めた。
「さて、お姫様。うちの部下たちはヤワじゃないからねぇ、きっと“館”のヤツらは倒されちゃうだろうね?」
「そんなこと、ない」
「ふふっ、仲間のこと、信頼してるんだね。でもさ、よーく見てみなよ?」
そう言うと、先輩は階下を指差す。
「“館”のヤツら、押されてるよ?」
階下に見えるのは、背中を壁に打ち付ける寧音くん、膝をつく巳雲くんと大和くん、倒れ込むゆらくんの姿。ここから見る限り無事に思えた博人くんも、きっと辛そうな顔をしているのだろう。
「怖い? 怖くなった?」
「みんなは、大丈夫です」
「へぇ。強情だねぇ、震えてるっていうのに」
そう言われて初めて、震えていることを知る。
「怖いんでしょう。目を瞑ればいい」
「……私が先輩のところにいれば、みんなとの戦闘は止めてくれますか」
「分かった。約束するよ」
それを聞いて、私は覚悟を決めた。ゆっくりゆっくり、目を瞑る。
「そう、そのまま、俺に全てを委ねればいいんだ」
囁く声がだんだんと薄れ、遠ざかっていく。
「そして……いつか絶望を……」
そこまでで、意識は途切れた。
* * *
「俺に忠実な部下たちが君たちを伸してくれるはずだから」
面倒なことになったとオレは舌打ちし、臨戦体勢をとった。
「大丈夫だ、こっちは5人、向こうは4人。人数はこっちが勝ってる!」
「来いよ。迎え撃ってやる」
「へえ? 余裕だねえ、寧音くん。それならこっちから行くよ」
導琉は姿勢を低くし、ぐっと踏み込む。オレが一歩を踏み出すと、バネが跳ねるようにオレの懐に入り込んできた。導琉の一撃は、オレのみぞおちに綺麗に当たる。
「はや────っく」
「ふっ、クリーンヒット」
不敵に笑う導琉。オレは、派手に吹き飛んだ。壁と背中が強く衝突し、小さなうめき声が出る。
一触即発。今回の戦闘はまさしくその様子で、オレと導琉の交戦で、他の4人も戦闘を始めた。中には、幸とやらが巳雲と大和の2人を相手している。
「なかなか、ヤワじゃねぇな」
オレは、護兵との闘いと導琉の一発で傷ついた体を気力で押して、立ち上がった。
「へぇ、君もヤワじゃないねぇ」
「あの一発で、負けてたまるか」
「ふうん。ほら、来なよ」
「……言われなくとも」
「────ッ、はぁ……ッ」
オレを含めた5人全員が肩で息をしていたが、相手は多少傷ついているものの、まだ余裕があった。
「さあっ、来い……!」
「もう、悪あがきは無駄だよ」
「なんだ湊!!」
オレは1つ上の階にいる、湊と夏美を見た。
「───夏美……?!」
夏美は堅く目を瞑って、微動だにしない。
「お前……、夏美をどうした!!」
「姫が望んだことだ。君たちが傷つくのを見たくなかったようだね。俺が楽にさせてあげたんだ」
「まさか……っ」
知らない間に、殺されでもしていたら。そう思ってしまい、それはないと
「君が何を考えているのかは知らないけど、眠っているだけだよ」
「お前……ッ!」
「大和先輩、抑えて……!」
大和が一歩前に出ようとするのを、ゆらが引き戻す。
「君たちは負けたんだ。認めなきゃカッコ悪いよ? 大人しく俺たちに姫をしばらく預けておきなよ。そしてまた、ここで勝負しよう」
オレは舌打ちして、踵を返す。
「ちょっと、寧音!」
「あいつらの言う通りだろ。帰るぞ」
カッコ悪いとかはどうでもいい。負けは負けだと認めなければいけない。───次こそは。
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