これが俺の告白だー!!

光影

第1話 これが俺の告白!


 俺は重大なミスをしてしまった。

 人が溢れた校庭の中で君を探そうとしたが何処にいるかわからない。

 卒業式を迎えた今日が終われば、多分俺は君と疎遠になると思い焦っていた。

 早く君を見つけないと。


「どこだ、何処にいる早紀……」


 諦めるな。

 君にまだこの想いを伝えていない。

 胸に抱えたこの想いを下手でもいいから必ず伝える。

 毎日君のことを思い、友達としての距離感に満足できない俺の鼓動が熱くなる。

 もし失敗した時の恐怖が邪魔して今まで伝えることができなかったこの想いに今日こそ決着を付ける。

 君の可愛い無邪気な笑顔が本当に大好き。

 だから勇気を出して今日告白するって決めた。


 散るのは桜の花びらだけでいい。

 花びらは切ないから散るのではなく、春の訪れを祝福して、俺達の旅路を祝福して、なにより俺の人生を祝福して、今日校庭の桜が沢山舞っていると信じて、ただ魂の声に従って俺は行動をする。


 好きになった理由なんて単純で、顔がタイプ、スタイルがタイプ、性格がタイプ、無邪気な笑顔がドストライクってだけ。それ以上でもそれ以外でもない。

 恋は理屈じゃない。

 好きになったらひたすらその人のことを知ろうと思うし独占したいと思う。

 君が夢を叶える姿を隣で見たい、そう思った。

 初めて会ったのは高校二年生の春。


 抑えきれない想いが風船のように膨れ上がる。

 割れることなんて一切考えずにただひたすらに膨れて今日割れた。

 中の空気は自由になって、俺の中で自由奔放に暴れ始めた。

 好きだ、好きだ、大好きだ!

 そう思ったらいてもたってもいられなかった。


「和人! 早紀を見なかったか?」


 俺は教室で友人と最後の談笑を楽しんで居た親友に質問した。


「いや、卒業式終わってから此処には来てないみたいだぜ?」


「そうか」


 俺は急いで教室を出て再び走り始めようと足に力を入れた時だった。


「待て」


 和人が俺の手を強く握りそう言った。


「下手したらもう帰ってるかもしれねぇ」


「うるせぇ! それでも俺は――」


「わかってるって、だから付いてこい。こんなこともあろうかと後輩に鍵を借りたからよ」


 いつもは全然頼りならない親友はそのまま俺の腕を掴んだまま急ぎ足で動き始めた。廊下を抜け、たどり着いた場所は俺にとって意外な所で、だけどそこは考え方によっては絶好の場所だった。

 高校生なら誰もが知っている場所で、サプライズとしては破壊力がある場所。

 ここでの告白はある意味人生を賭けた戦いになると直感でわかった。

 でも人生を賭けるに値すると判断した俺は和人とその後輩たちの意図を汲んで「ありがとう」と伝えた。

 準備は既に完璧で後は俺が声を出すだけだった。


 上手く伝えられるかわからない。

 この溢れる気持ちを言葉にどう表現していいかわからない。


「あ~、あ~、テステス」


 マイクに声を入れて、最後の確認をする。

 今まで臆病風に吹かれていた心がここぞとばかりに挑戦的に立ち向かう勇気をくれる。

 後のことなんて、その時になって考えればいい。


 有名な言葉で後悔先に立たずとあるが、正にそうだと思う。

 だけど人生は後悔してなんぼ、ぐらいの気持ちで飾らない気持ちに素直になった方が人生が豊かになるんじゃないかと思うときがある。

 それがまさに今だ。


 俺は大きく息を吸い込んで、

 恐くて不安になりそうな気持を押し殺して、


「早紀! 大好きだ! ずっとずっと前から好きでした! だから俺の彼女になってください!」


 シンプルに全校放送で伝えた。

 ただそれだけ。

 なのに、全身から溢れ出る汗の量が尋常じゃない。

 気持ちを吐き出して冷静さを取り戻した俺は挙動不審になり、辺りを見渡す。


「まぁ先生が来たら素直に謝ればいいさ、もう卒業したしそんなに怒られないだろうしな。それより良い返事がくるといいな」


 拳を握り親指を見せて微笑む和人はどこかこの状況を面白がっているように見えた。

 苦笑いしかでない俺の意識を刺激したのはスマートフォンの着信音。

 そこに表示された名前は――早紀。


「もしもし」


 恐る恐る俺は返事を待った。


「…………」


 返事がない。

 不安になった。


「さ、早紀?」


「…………」


 これ以上にないぐらい俺の心の中が不安に煽られた。

 心臓の鼓動が今まで経験したことがないぐらい早くなって、汗が床に零れ落ちる。

 俺が待つ答えは一つ。

 ここに来て、すぐに返事がないことから心が戸惑い始めた。

 恋の花は咲くのか、蕾のまま枯れるのか。

 俺の恋の花を咲かせることが出来るのは太陽であり雨でもある早紀だけ。

 俺はずっと心の奥底で望んでいた。

 モノクロだった俺の心に春が舞い込む瞬間を。


「告白ありがとう」


 ようやく聞けた言葉に安堵する心と焦る心。

 二つの感情が同時にやってきた。


「――返事今した方がいい?」


 大好きな人の声がこんなにも鋭く危険な刃のように俺の心に突きたてられた。


「う、うん」


「準備するからちょっと待って」


 早紀の声を待っていると電話が切られた。

 すぐに掛けなおすが電話に出てくれない。

 戸惑う俺は和人の顔を見たが答えは返ってこなかった。

 つまりフラれた……そう言うことだろうと察した俺は大泣きした。

 掠れる声が、うめき声が、なんとも言えない感情が同時に外に出てきた。

 俺には春が来ないと思った時だった。


「ばかぁーーー! 好きなら好きってもっと早く言え! 私で良かったら喜んで彼女になってあげるわよ!」


 別の校舎からとても大きな声が聞こえた。

 放送室の窓を開け、慌てて声がした方向に顔を向けるとブイサインをして無邪気な笑顔が似合う早紀が居た。

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