祖母と私の内緒話

第1話

その日は私の大好きなアイドルがネットで動画を配信する日だった。

そんな日に運悪く、家が停電。

私は愛用のタブレットをひっつかむと自転車を飛ばしておばあちゃんの家に飛び込んだ。

「おばあちゃん!電気貸して!」

私はおばあちゃんの返事も待たずに上がり込んで、電源をつないだ。

続いてネット接続を開始。

「あれあれ、なんだいこの子は挨拶もなしで」

おばあちゃんは今となっては珍しくすらある家電の受話器の通話口を手でふさぎながら声をかけてきた。

「こんばんは!電気貸してください!」

私は焦りのあまり視線も向けずにに受け答えしながら視聴の準備を始める。


見えないとはわかっていてもつい持ってしまうお手製の団扇も忘れない。

それから、おばあちゃんをほったらかして奇声を上げる私を、おばあちゃんはあきらめ顔で見守ってくれた。


「ふー、」

配信は30分ほどで終わり、私は高ぶった自分の気持ちと鼓動を抑える方にエネルギーを使っていた。

「最近の子はテレビじゃなくてパソコンでご贔屓さんを応援するんだねぇ」

おばあちゃんはそう言ってお茶を入れてくれた。

熱すぎずぬるくないちょうどいい感じのお茶と、おばあちゃんの嫌味のないにこにこ笑顔に私の胸が少し傷んだ。

「ごめんね、おばあちゃん。急に停電になっちゃって、びっくりしちゃって、」

「わかってるよ。ちょうどあんたのお母さんから電話もらったしね」

それに、と、おばあちゃんはつづけた。

「好きなアイドルに夢中になる気持ちは、私もわかるからね」

そういって、少女のようにウインクした。


「へぇー!」

私はおばあちゃんが持ってきた箱の中身に釘付けになった。

それは、おばあちゃんが若かりし頃夢中になったスタアのグッズで、かなり古いものもあった。

「大人になってからだって、好きな歌手や俳優はいたけれど、あんたと同じくらいのころに好きだった気持ちに比べたら、やっぱりそれほど熱くはなれなかったねぇ」

今となっては個人でもパソコンを使って余裕で作れてしまいそうなそれらは、当時はお小遣いをためてやっと買えたりしていたのだとか、

田舎に住んでいた自分にとってはコンサートに行くなんて夢のまた夢で、それこそテレビが(それも生放送)貴重な情報源だったとか、おばあちゃんの昔話を興味津々で聞いた。

自分がおばあちゃんになるころはどうなっているんだろうと思う。

「ね、おばあちゃんの最推しって誰?」

私が聞くと、おばあちゃんは少し考えて、写真の山の中から一枚の古い写真を引っ張り出した。

それは、他の写真とはちょっと色合いも違っていて、売られていたものというより、普通に撮った写真みたいだった。

写っている男性も、衣装じゃなくて普通の白いシャツを着ている。

その目の下には見覚えのある特徴的な泣きぼくろがあった。

「あ、」

「おーい、帰ったぞ」

「はあい」

私が気づいた瞬間、玄関から声がした。

おじいちゃんだ。

おばあちゃんはぱたぱたと駆けていきかけて、一度、私を振り返り、人差し指を唇へ持って行って小さく息を吐くと、笑った。

私は黙って頷いた。

そうか。

おばあちゃんは、日常的にずっと推し活中なんだな。


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祖母と私の内緒話 @reimitsuki

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