3
去年の十一月上旬。和葉は地元の個人病院に入院していたことがあった。
原因は左足首の骨折で、手術のために入院しただけだったため期間は二週間程度だった。後遺症が出るほど酷いものでもなく、医師からは手術さえ無事に終わればなにも心配することはないと慰められた。職務的な優しさを羽織った言葉だったが、和葉にとっては胸中の喪失感をいたずらに助長させるだけの戯言にしか思えなかった。
心にぽかりと空いた穴は、病室に独りきりでいる時間が長くなるほど広がっていくようだった。松葉杖による歩行に慣れると、和葉はなるべく病室から離れるようにした。徘徊できる場所は院内に限られていたため、特に意味もなくほかの階や売店を見に行くなどしたのち、最終的に辿り着いたのは病院の敷地内にある寂れた中庭だった。
その病院は建物がドーナツ型の構造をしており、中央部分がそのまま広場のようになっている。真ん中にある庭だから中庭ということだった。中庭の端には手入れが行き届いているとは思えない花壇や古びた木製のベンチ、中央には一枚の葉も身に着けていない大きな樹が寂寞と佇んでいる。
冬枯れた庭の景色に、和葉以外の人影は見当たらない。十一月に入ったばかりの外気は先月よりも確実に冷えていたが、風がないせいか肌寒いほどでもなかった。まだ昼時で日差しも在り、風がないことも理由かもしれない。
和葉は近くのベンチに腰掛け、悄気たように枝を垂らしている大樹を見上げた。幹は太く立派だが、木肌は焼け焦げたように変色していて所々が剥がれかけている。ほとんど精気を失ってなお、どうにか立つだけは立っているような危うい姿に思えた。こんな樹でも昔はもっと活き活きとしていたのだろうか……。
ぼんやりと樹を見上げていた時、腰掛けていたベンチが妙な具合に揺れた。
ハッと視線を向けると、和葉が座っていたベンチの右端に、病衣の上から厚手のジャンパーを羽織った見知らぬ少年が座っていた。
横顔だけでも整った顔立ちと分かるほど、美しい容貌をした少年だった。中性的な雰囲気で、髪が長ければ少女と見間違っていたかもしれない。座っているからはっきりとは分からないが、160センチの自分とほぼ変わらない上背だから、童顔の割に中学生くらいだろうかと和葉は思った。
「見ない顔ですね」
儚げな笑みを湛えた顔が和葉の方を向く。
少年の声は声変わりがまだなのか、軽く鳴らしたヴァイオリンのように細くて綺麗な音色でできていた。「最近、入院してきたんですか?」
突然話しかけられたことには面食らった和葉だったが、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。
「はい、数日前に」
和葉が素直に答えると、少年は「そうですか」と返してしばらく黙り込んだのち、
「あの、不躾なこと、訊くのですが」
「え?」
「歳、いくつですか?」
本当に不躾な質問だったが、和葉はまだ誤魔化したくなるほどの年齢ではない。
「十七ですけど」
「やっぱり。僕も十七なんです。なんとなく同い年くらいかと思ったから」
少年は嬉しそうに言った。それが話しかけてきた理由であるかのような言葉尻だったが、そんなことよりもこの幼く見える少年が、自分と同い年であるという事実が和葉には信じられなかった。
「十七? 本当に?」
「うん、よくびっくりされるんだけど」
「そう、なんだ……」
和葉も少年に合わせ、敬語で話すのをやめた。「そっちは、この病院に来て長いの?」
「え?」
「見ない顔ですねって訊いてきたから。なんとなく古株っぽい台詞だと思って」
「古株……うん、少なくとも、君より長いことは確かだよ。このベンチだって」
「ベンチ?」
「君が座ってるところは、僕の特等席だったんだ。この樹を見上げるための……ここはあんまり人が来ないから、このベンチに座る人は珍しいんだ」
「ごめんなさい、場所を変わりましょうか?」
「ううん、別にいいんだよ。それに……」
少年の視線が、和葉の左足に落ちる。「それ、骨折してるんだよね?」
「ええ……やっぱり分かるわよね」
和葉はどうしてか照れくさいに気持ちになった。「そっちは、どうして入院しているの?」
「大したことじゃないよ。昔から少し体が弱いんだ」
「そうなの? なら、あんまり外にいない方がいいんじゃない?」
「うん、いない方がいい」
少年はやけにきっぱりと言った。「でも、せめてお昼の間はここにいたくて……この樹を見ていたいから」
「樹を?」
「うん。この樹は、僕そのものだから」
混じり気のない純粋な眼差しが、朽ちかけた大樹をジッと見つめている。
なにか、この樹に特別な思い入れでもあるのだろう、――そう思うとやはり、特等席に座ってしまったことが申し訳なく思えた。
「じゃあ、今度からは気をつけるわ」
「え?」少年が和葉の方を振り向く。
「特等席よ。明日からは、空けておくようにするから」
和葉の言葉に、少年はぽかんと口を開けていた。
どうしたのだろう、と和葉は思ったが、やがて少年は薄く目を細め、
「それって、明日もここに来てくれるってこと?」
「え? ……あたしは、別に構わないけど」
「約束、だよね?」
随分念入りな確認だと思ったが、否定する理由はなかった。和葉は「うん」と何気なく頷いた。
「あたし、八坂和葉よ。八つの坂に、平和の和と葉っぱで和葉」
少年は「分かりやすい説明だね」とおかしそうに笑い、
「僕は、深山夏樹。深い山に、夏に、樹木の樹の方の樹」
「なつき……?」
――よりにもよって、あの人と同じ名前なんて。
和葉の中に苦い思いが立ち込めたが、別に珍しい名前でもなんでもない。
単なる偶然なのだから、気にする方がどうかしている。
「どうしたの?」夏樹が不思議そうに訊いてくる。
「あ、ううん……」
和葉は取り繕うような声を出し、「もしかして、夏生まれなの?」
「うん、七月生まれ。それがなに?」
「いや、あたしは、十二月生まれだから……」
和葉は苦笑いを浮かべた。
しばらくして、夏樹も「あっ」と気づいて、
「……今から敬語は、今更過ぎるよね?」
と、微かに頬を染めてはにかんだ。
約束通り、和葉は翌日も昼時に中庭へ赴き、夏樹と会って話をした。
夏樹は和葉と同い年だが、正確には和葉よりも学年が一つ下だった。けれど夏樹は、「敬語は苦手だから」と言って、和葉を年上のようには扱わなかった。時間が経つにつれ夏樹は和葉を「八坂さん」と呼び、和葉は夏樹を「深山君」と呼ぶようになった。
「少し意外。深山君が敬語、苦手なんて」
和葉が不思議そうに言うと、夏樹は「そうかな」と目をぱちぱちさせる。
「ええ。だって初めて会った時は、ちゃんと使えていたじゃない」
「うん……でも、やっぱり苦手だよ。あんまり学校にも行けてないし」
「あんまりってどれくらい?」
「人並の敬語が身につかないくらい」
小粋な冗句のように夏樹は言った。「小さい時からなんだ。それに、根がサボり魔だから」
「サボり魔?」
「病み上がりなのに寒空の下に出て、またぶり返したりなんかして」
「なんだかサボり魔というより、ただの馬鹿みたい」
和葉は呆れたように言って、「まあ別に、あたしは敬語なんてどうでもいいけどね」
「もしかして、八坂さんも敬語は不得意?」
「もしかしてってなによ。少なくともあなたよりは自信があるわ。ずっと体育会系で、上下関係が厳しい中でやってきてるんだから」
「あ、やっぱり。八坂さん、運動部なんだ」
「やっぱり?」
「すらってしてて、綺麗なスタイルだから。なにか運動してるのかなって思って」
思いも寄らない言葉だった。同い年の男子から綺麗なんて、面と向かって言われることはまずない。
たとえお世辞だとしても……いや、夏樹の両目は限りなく純粋な色で満ちていて、思ったことをそのまま口にしてしまう少年らしさがある。だからこそ余計に、照れくさい気持ちで体が火照る。
「別に、あたしはそんな、背が高い方でもないし」
「そうかな?」
「大体、あなたが小さ過ぎるのよ。男子の割には……」
「それは言えてるかも。でも今は、比べられる友達もいないから」
悲しい言葉とは裏腹に、夏樹の声は普段通りだった。そのことが和葉の胸をちくりと刺したが、せめて顔には出さないようにと努め、
「あたしはね、陸上部なの。長距離の選手だった」と、さりげなく話題を変える。
「長距離……あ、マラソンのことだよね? 僕が大嫌いなやつ」
夏樹はわざと困ったように苦笑し、「あ、やるのが嫌いってだけだよ。見るのは結構好きだから。お正月にやってるやつとか」
箱根駅伝か、ニューイヤー駅伝のことだろうか。
いずれにせよマラソンではないが、夏樹の中では大した違いはないのだろう。
「みんな凄いよね。あんなに長い距離を物凄いスピードで走っていくんだから。全然自慢にならないけど、たぶん僕だったら十メートルくらいで息切れしちゃうかな……」
「そりゃ、練習してなかったら、誰でもはあんなに走れないわ」
「僕はきっと、練習してもダメだと思う。そういう子って、必ず一定数いるでしょ?」
夏樹の口元に寂しげな笑みが浮かんだ。「みんなが百メートルとか二百メートルとか、ずっと先にあるゴールまで走っていく中で、僕だけが三十メートルくらいで倒れちゃうんだ。なんなくとだけど、そう思うんだ」
和葉は、そんなことない、とは言えなかった。
夏樹の言う通り、走ることが得意ではない子は何人か見てきた。けれど和葉は、そういう子たちをいちいち気に留めたことはなかった。当然のように走り去って、その後彼らがきちんとゴールできたかなど知ろうとはしなかった。
ゆえに夏樹が抱える不安を軽々しく否定することは、どこか無責任になるように思えてならなかった。
「ねえ、八坂さん。走ってる時って、どんな感じ?」
「え?」
「僕は、三十メートルまでの景色しか知らないから。だから聞いてみたいんだ。もっとずっと、遠いところまで走っていける人には、どんな景色が見えているんだろうって」
夏樹の双眸が真っ直ぐこちらを捉える。子供が向けるような無垢な興味と、少しばかりの羨望が入り混じった綺麗な眼差しだった。
和葉は、わけもなく高鳴る拍動を自覚しながら、「……景色なんて、そんなに変わるものじゃないわ。三十メートルでも百メートルでも、もっと長く走ったって」
「そうなの?」
「そうよ。ただ、道が長く続いているだけ。辛いだけよ。でもゴールしなきゃいけないから走っているだけ……」
夏樹は「そっか」と、やや落胆したように言って、
「だけど、僕はやっぱり、長い距離も走ってみたかったかな。体が弱いからもう無理かもしれないけど」
「辛いだけだって分かっていてもそう思うの?」
「途中で倒れているばかりだと、辛さの先に待ってる楽しさにも、一生辿り着けないと思うんだ」
それに、と夏樹はこぢんまりと微笑んで、「走ってる途中だって、辛いばかりじゃないと思うよ。八坂さんが気づいていないだけで、楽しいこともきっとあるはずよ」
「どうして、そんな風に言い切れるのよ……」
走ったこともないくせに――、そう続けようとして、和葉は自身の声色が低くなったことに気づいた。
夏樹の微笑みは、また寂しい色を帯びていた。「ごめん、僕、無責任なこと言ったよね」
「いえ……」
「結局僕は、羨ましいだけなのかもしれない。自分では絶対に感じることのできない景色だから……だからきっと、楽しいものなんだろうなって、そう思いたいだけなのかもしれない」
憂いに侵された笑みと共に、夏樹は目を伏せて俯いた。
走ることは大嫌いだと言った彼が、なぜそこまで走りたがるのか和葉には理解しがたかった。あるいはこれも、なんとなく言っているだけなのだろうか。彼が時折見せる気まぐれの一端に過ぎないのだろうか。
だとすれば、彼の微笑みの節々に蔓延る寂寞とした色合いの説明がつかず、和葉は二の句を継ぐことができないでいた。
「あれ? そういえば……」
ふと、夏樹は顔を上げて、「八坂さんって今、三年生ってことだよね?」
「ええ、そうだけど」
「じゃあ、もうすぐ最後の大会なんじゃないの? マラソンって冬に在るんだよね?」
和葉は返答に窮した。
恐らく夏樹はマラソンと駅伝を混同しているが、実際のところ和葉が目指しているのは後者である。確かに高校駅伝の全国大会は十二月に行われるため、『冬に在る』という彼の言葉は的を射ている。
しかし全国大会に進むためにはまず、県大会を突破する必要がある。
県大会が行われるのは例年、全国大会がある日からおよそ一ヶ月前――つまり、
「明日なの、大会」
和葉は正直に答えた。「あたしにとって最後の県駅伝、明日のはずだったの」
「え……?」夏樹が、言葉を失う。
言うべきではなかったのかもしれない。それでも和葉の中で、言ってしまいたいという気持ちが勝ってしまった。
やり場のない悲しみ、それを愚痴として彼に聞いてもらえば、いくらか気が楽になれるだろうから……そんな風に思って、縋るように夏樹を見つめた時だった。
「――和葉?」
聞き覚えのある声。それだけで、条件反射のように鼓動が強く脈打つ。
恐る恐る中庭の出入り口を見ると、母親である八坂
大きなハンドバッグを手に提げていて、苛立ちと疲弊感がひしめき合った渋い面持ちでベンチまで歩いてくる。
「和葉、どうしてこんなところにいるの? 勝手に病室を抜け出したらダメだって、何回言ったら分かるの? どうしてお母さんの言うことが聞けないのよ?」
目の前まで来るや、問い詰めてくる那月。
鋭い声を放つ渋面に、和葉は目を合わせることなく黙り込む。
「あ、あの……」
和葉の異変を見かねてか、夏樹が悚然と声を上げ、「八坂さんの、お母さんですか?」
「なに、あなた」
「えっと、深山夏樹と言います。八坂さんとは、よくここで話を……」
「あなたも、『なつき』って言うのね」
「はい?」
「私も『なつき』と言うのよ。八坂那月、那覇市の那に、お月様の月で那月」
「そう、なんですか……」
「ほら和葉、外はもう寒いんだから。早く病室に戻るわよ――なにしてるの、遊んでくれたお兄さんに挨拶しなさい。和葉?」
「お兄さん……?」
奇妙な言い回しに、夏樹が疑問の声を上げる。
――やめて。
和葉はぎゅっと唇を噛んだ。一方的に言葉を振りかざしてくる母親に対し、未だ目を合わせられずにいた。
那月は不機嫌な顔のまま、ベンチの前で屈み、
「お願いだから言うことを聞いて……これ以上、お母さんを困らせないでよ。あなたは病気なんだから。お母さん、また仕事を休まなきゃいけなくなるでしょう? ねえ、和葉?」
――やめて!
堪え切れず、和葉はベンチに立てかけていた松葉杖を持ち、――地面に叩きつけた。
その拍子に、那月はおののくように腰を上げ、
「和、葉……?」
「あなたには、それが見えないの?」
倒れた松葉杖を見つめながら、和葉は言った。「この足のギプスも、あたしのことも、なにも見えないって言うの?」
「和葉、なにを言って……」
「ふざけないでよ! 誰のせいで、こんな風になったと思ってるのよ!」
衝動的な怒りに操られ、和葉は立ち上がろうとする。
しかし左足が地に着いた瞬間、激しい痛みに駆られ、和葉は苦悶の表情になってその場に倒れ込んだ。
「八坂さん!」
夏樹の声が寄り添ってくる。普段よりも切迫した声色だった。
「なによ、それ……なんなのよ!」
他方、那月は虚ろな眼差しで取り乱し、手にしていたハンドバッグを地面に落としていた。「なんで、言うことを聞いてくれないのよ! これ以上どうしろって言うのよ! こんなことになるなら……あなたなんか、産むんじゃなかった!」
慟哭に限りなく近い、悲鳴のような声だった。
和葉の隣にいる夏樹が、信じられないような目で那月を見上げている。最悪だ……、和葉は力なく目を伏せた。
一頻り和葉を睨めつけると、那月はハッと我に返ったように後ずさり、足早に中庭から去っていった。取り残された二人は沈黙し、気鬱な静寂が辺りを支配した。
「……あの、八坂さん」
やがて堪りかねたか、夏樹が恐々と切り出し、「さっきの人、八坂さんのお母さんって」
「うん、そう。あたしのお母さん……」
低い声しか出せなかった。頭の芯が痺れたような感覚があり、平静を装うとすると涙が零れかけた。
「なんだか、様子がおかしかったよ。僕のこと、お兄さんって言ったり、それに、八坂さんのことも病気だって。骨折なんじゃないの?」
「ううん、間違いなく骨折よ。……病気なのは、あの人の方なの」
和葉はなんとか上体を起こし、左足を庇いながら松葉杖や夏樹の手を頼りに再びベンチに腰掛けた。夏樹も、地面に落ちているハンドバッグを拾い、和葉の隣に座った。
「あの人は、あたしを自分の世界から外したがってるの……でも、できないから、おかしくなってしまったの。あたしを骨折させた日から」
「じゃあ、その足って……」
「ちょっとしたことで口論になって、そういう喧嘩は日常的にあったんだけど、今回は特に酷くって……気づいたら、階段の踊り場から突き飛ばされていて、あたしは泣いていた」
和葉は左足に視線を落とした。呼吸する度に鋭い痛みがドクドクと鳴っている。
「それ以来、あの人は今のあたしを受け入れられなくなったの。たまにあたしのことを、小さな子供のように扱ったりして……骨折で入院しているのに、病気だって言ってるのもそのせいよ。記憶が混乱しているの」
「どうして、そんなことに……」
「きっと、タイミングが悪かったのよ。高校最後の大会前に致命的な怪我をさせて、あたしの努力を水の泡にしたから。それがあの人にとっては、壊れるのに充分過ぎたんだと思う。自業自得よ……」
吐き捨てるように、和葉は言った。
夏樹はなにも言わず、抱えていたハンドバッグに視線を落としている。
「その、御守りの裏、見てみて」
そう和葉が促すと、夏樹はバッグに結ばれている群青色の御守りを手に取った。
表には金糸で『
夏樹は首を捻り、「八坂さん、これって……」
「あたしの父親が残していった御守りらしいの。父親の名前が
「逃げていったって……」
「どうせならこんな御守りだって、さっさと捨ててしまえばよかったのに……字が違うんだから、効力なんてありっこないわ。あたしは父親には会ったことがないからどんな人かは知らないけど、あんな人が奥さんじゃ逃げ出したくなる気持ちも分かるわ。自分の子供に向かってあんなこと言う人なんて……あたしも、高校を出たら逃げるつもりだし」
「逃げる? 家を出るってこと?」
「ええ。アパートを見つけて、大学に通うの。生活費や学費は、バイトと奨学金でなんとかして……」
和葉は一瞬、声を詰まらせた。「そういえば、これが口論のきっかけだった。あたしが家を出ていくって言って、あの人が凄い剣幕になって反対してきたんだったわ。産むんじゃなかったなんて言うくせして、あたしがいなくなろうとすると……きっと怖ろしいのよ、独りになるのが。また自分の前から逃げ出されてしまうみたいで……ほんと、馬鹿みたい」
溜まっていたなにかを吐き出すように、和葉は言った。
夏樹はなにも言ってくれなかった。再び、庭の中に重たい静けさが張り詰めた。
――やっぱり、話すべきじゃなかった。
涙を堪えるように鼻をすすり、和葉は顔を上げる。
「あたし、もうすぐ手術なの。それが終わったら、家に帰らないといけない」
「そう、なんだ」
月並みの相槌を打つ夏樹。
その声音に張りついた確かな寂しさに、和葉は相好を崩した。
「退院してからも、あなたに会いに来ていい?」
「うん、もちろん」
夏樹は、努めて嬉しそうに微笑み、「僕たちって、似た者同士なのかもしれない」
「え?」
「ううん、……なんでもないよ」
ちらりと垣間見えた虚しさの理由は、その時の和葉には分からなかった。
手術は無事に終わり、和葉は予定通り二週間で退院することになった。
退院後も、一ヶ月はギプスを外せないだろうと医師から言われている。外すことができればまたリハビリで病院へ行くことになるが、そうでなくとも和葉は、退院して二日後には松葉杖をつきながら病院へと赴いた。夏樹と交わした約束を守るために。
いつも通りの時間に中庭まで来たが、ベンチに夏樹の姿はなかった。衰弱した大樹だけが和葉を出迎えた。
退院後も会いに行くとは言ったが、日時を明確にしていたわけではない。せめて今日くらいは病室を訪ねた方がいいだろうかと思いつつも、和葉はひとまずベンチに腰掛けて待ってみることにした。
夏樹の病室は一応聞いてはいたが、なんとなく彼とは、この庭で会いたいと思っていた。入院していた間も、会うのは必ずこの庭の中でだけだった。それが互いにとっての暗黙のルールのような気がしていた。和葉はなにをするでもなく、庭の中央にある大樹を見つめながら無為な時間を過ごした。
――彼はどうして、こんな寂れた樹を見ていたいなんて言ったのだろう。
和葉の中で消えかけていた疑問が不意に甦る。
目の前にある大樹は、見れば見るほど衰弱化しているような気がして、あまり眺めていたいものではなかった。退廃的な中庭の景色を象徴するような存在にさえ思えた。
――『この樹は、僕そのものだから』
いつかの、夏樹の言葉が思い出される。
彼は、どういうつもりであんなことを言ったのだろうか、――そんな新たな疑問が脳裏をよぎった時だった。
「あの……」
ふと、入り口の方から声がした。「ちょっと、いいかな」
和葉に呼びかけながらやってきたのは、見覚えのない、四十代前後と思しき男性だった。
瘦せ型の体格でこざっぱりとした姿だが、容貌には疲弊感を刷り込ませたような小皺が薄く刻まれている。
「突然申し訳ない。君はここで、夏樹とよく一緒に話していた子じゃないかな」
「……はい、そうですけど」
警戒心を示しつつも、和葉は肯定した。
すると、男性は安堵したように相好を崩し、
「よかった。後ろ姿だからはっきりとは分からなかったんだが、松葉杖があったからね」
と、優しげな口調で言った。「申し遅れましたが、私は夏樹の父です。深山
「あ、いえ……こちらこそ。お世話にというか、あたしの方こそ、話し相手になってもらっているというか」
突然のことに、和葉は緊張の面持ちになりながら、「その、あたしは、八坂和葉と言います。深山君とは、歳が一緒で」
「ああ、そうだったのか。近そうだとは思っていたんだけど、そうか、同い年だったんだね」
「あ、いえ、学年はあたしの方が上らしいんですけど。深山君は、あんまり気にしてないというか、いつもタメ口で」
――なに話してるんだろう、あたし……。
どうしてか照れくさくなり、声は徐々に尻すぼみとなる。
久志は優しげな微笑みを崩さず、「そうか。許してあげてくれ。あの子は上下関係というものに疎いんだ」
「あ、本人もそう言ってました……」
「同い年の友人だってろくに作れなかったからね。年上の友人も君が初めてだろう。病院にいる間も、あの子はほとんど誰とも口を利こうとしないから」
「え……?」
夏樹が、病院では口を利かない? ――それは和葉にとって、想像しがたい光景に思えた。
久志は和葉の左足に視線を落としながら、「君もまだ、入院しているの?」
「いえ、もう退院して、今日はその、リハビリがてらと言いますか……」
「もしかして、夏樹に会いに来てくれた?」
「あ、はい……約束していたので」
久志は「そうかい」と、感慨深げに相槌を打ち、
「でも、本当によかったよ。……あの子が、最後に君のような友人を作ることができて」
和葉は、耳を疑った。
「最後にって、どういう意味ですか」
「……まさか、あの子の病気のこと、聞いていないのかい?」
「大したことじゃないって、ちょっと、体が弱いだけだって……」
久志の目が、途端に物憂げとなった。「そうか、通りで君は――」
「なにしてるの」
――冷たい声。
久志がハッと振り返った。夏樹の姿が在った。
病衣とジャンパーを纏ったいつも通りの風貌だったが、久志を見つめる眼差しはあまりに無機質で、普段とは別人のような雰囲気だった。
久志は引きつった笑みを浮かべ、「やあ、夏樹。ちょっと、彼女と話をしていたんだ」
夏樹は、返事をすることなく和葉の隣に座り、無表情のまま俯いた。
「八坂さんは、夏樹の友達なんだろう? もう退院されたみたいだが、よかったじゃないか。友達ができて……心配していたんだよ、私も、母さんも――」
「帰って」
遮るような間で、夏樹は言った。「そこに立ってると、見えないから」
「見えないって、なにがだ?」
困惑する久志に、夏樹は再び沈黙する。目さえ合わせようとしなかった。
しばらくして、久志が小さく嘆息し、
「分かった。私はもう行くよ……八坂さんも、お大事に」
悲しげに言い置いて去っていく背中に、和葉はなんと声をかけていいのか分からなかった。
ガチャンと、扉の閉まる音が響くと、夏樹が「ふふ」と笑みを零し、
「嫌なとこ、見せちゃったね」
その瞳は、いつも通りの穏やかなものに戻っている。「ごめんね、八坂さん」
「深山君、今の人って……」
「うん、僕のお父さん。あの人のことだから、きちんとなんでも言っていたんでしょ? 自己紹介とか、――僕のこととか」
「それは、まあ」
「じゃあ、やっぱり病気のことも?」
和葉は言葉に詰まった。「……最後にって、言っていたわ。最後に、友人を作ることができてよかったって」
夏樹は「そっか」と、微笑みに落胆の色を足して、
「やっぱり、あの人はそんな風に言うんだ。僕にだけじゃなくて、みんなにも、言ってるんだ……」
「どういう意味なの、最後にって。あの人も結局、教えてはくれなかったから」
和葉は、祈るような声で訊ねていた。
自分が想像した答えを否定してほしいと。ただの思い違いであると、そう思いたくて。
――けれど。
「次の誕生日まで、生きられないかもしれません」
夏樹はどこか、他人事のような口調で言った。「今年の夏、医者からそう言われたんだ。ちょうど、十七歳の誕生日くらいだったと思う」
和葉は絶句した。
突然、喉の奥が締めつけられたような、苦しさを覚えた。
「それからなんだ。お父さんもお母さんも、周りの人たちみんなが、気持ち悪いくらい優しくなって。もう、最後かもしれないからって……なんでも、なんにでも、そんな風に言われ始めた。
だから僕、嫌になったんだ。お父さんもお母さんも、ほかのみんなも……もう誰も、僕に未来を期待しない。なんの約束もしてくれない。だったらもう、なにを話したって、虚しくなるだけだから」
「……大したことないって、言ってたじゃない。あれは、嘘だったの?」
かろうじて声を出した和葉に、夏樹は取り繕ったような微笑みを向け、
「なんていう病気かなんて、僕にとっては無意味なことだから。近いうちに死んでしまうなんて言われたら、覚えていたって仕方がないでしょ? だから、僕にとっては、大したことじゃないんだよ」
「あなたにとっては、そうかもしれないけど……詭弁よ、そんなの」
和葉は、言いようもない怒気を露わにして言った。
夏樹は「そうだね」と、簡単に同意して、
「本当は、知られたくなかったからかもしれない……八坂さんには」
「あたしには?」
「八坂さんは、約束してくれたから。明日も、ここで会いましょうって」
特別なことのように、夏樹は言った。
「別に、あたしはただ……」
「ただ?」
「深山君と、明日も、会いたかったから」
和葉は素直に答えた。
「……そっか」
寂しそうな笑みが、空気の中に溶けていく。「そんな風に言ってくれたのは、八坂さんが初めてかもしれない。友達自体、ほとんどいなかったから」
「なら、どこが似た者同士なのよ。違うところばっかりじゃない……あたしと深山君じゃ」
「確かに、そうかも。でも、なんとなくそう思ったんだ。初めてここで見かけた時の、八坂さんの目を見て」
「目……?」
「なんだか、とても悲しそうにこの樹を見上げていたから。そういうところが少し、昔の僕に似ている気がしたから」
――確かに、悲しみは抱えていた。
三年間打ち込んできた部活で、最後の大会に出られなかったのだから。
だけど……、
「あたしの悲しみなんて、ちっぽけなものよ」
和葉は、彼の言葉に頷けなかった。「左足と命では、あまりに違い過ぎるわ」
「ランナーなら、足は自分の命だ、みたいに言うんじゃないの?」
「言わないわ……骨折なんていずれ治るものだし、それにもう、走ることもないから」
「どうして?」
「もう、部活も引退だから。走る理由なんてないもの」
「じゃあ八坂さんは、部活のために走ってたの?」
夏樹の何気ない問いに、和葉は即答できなかった。改めて考えると、そうかもしれないと思ってしまった。
好きで走っていたわけではない。中学生の頃に友達と一緒に入部して、なんとなく打ち込んできたに過ぎない。
だからこそ、今なお痛みと共に残り続ける蟠りに、どうしてこれほど苦しめられているのか分からなかった。また歩けるようになればすべて消えてなくなる、そう短絡的に思うことができればいいが、そんな未来は今の和葉には考えられない。どう足掻いてもこの苦しみからは逃れられないのではないか……、心のどこかでそう諦観している自分がいた。
「……深山君の方は、どうなのよ」
「僕?」
「次の誕生日まで生きられないとか、そんな風に言われて、どうしてそんな平気そうにしていられるの」
その問いはある種のはぐらかしだった。夏樹もきっと気づいているだろう。
それでも、夏樹は答える。
「僕はもう、倒れてしまったから。だけど、八坂さんみたいには、走れなくてもいいんだ」
「走れなくても、いい?」
「僕の名前、夏樹って、この樹のことだから」
吐息混じりの声で、夏樹は言った。「僕は、この病院の産婦人科で生まれたんだ。その時はまだ、この樹も立派だったらしいから、それであやかって名付けたんだって。お父さんがそう言ってた」
――『この樹は、僕そのものだから』
また、いつかの彼の言葉が思い出される。
同時に、和葉が抱えていた疑問が一つ、取り除かれた。
「その話を聞いてから、なんとなくこの樹を見るようになった……だけど、僕が今の病気になった頃には、この有様だった。枝が持つは葉ほとんどなくて、木肌はぼろぼろで……本当に、僕みたいだって。そう思ってしまったんだ」
夏樹の声は、悲しそうではなかったが、時折妙な掠れが表れていた。ノイズが入り混じるラジオのようだった。
和葉は黙り込んだ。彼がどういう意図でこんなことを言っているのか分かっているつもりだった。分かっているからこそ、なにも言うことができなかった。
「この樹ね、もうすぐここから抜かれてしまうって、医者が言ってた。病院ができた時に苗を植えて、ずっとここで生きて、ここで枯れていく。外の景色なんて知らないまま、建物で切り取られた空しか知らないまま死んでいく……。
そういうものなんだよ、きっと。生きていくということは、死んでいくということだから。それだけは、みんな変わらない」
「……それで、この樹は」
声を絞り出すように、和葉は言った。「幸せだったって言えるのかな。なにも知れないまま、ここで枯れていくことは、生きていてよかったって思えるのかな」
「どうだろう。樹は、病院の外にほかの景色があるなんて、知らないだろうから……だけどもし知っていたら、不幸だって思うかもしれない。ああ、もっと自由なら、色々できたのにって。もっとたくさん太陽を浴びたり、気持ちのいい風に当たったり、色々なところに行ったり……走ることも、できたのかな」
「深山君……」
「ううん、なに言ってるんだろう、僕。樹の話をしてるんだから、走れるわけないよね。樹は動くことができない、だからどこへも行けず、ここで死んでいくんだ」
夏樹はふっと、息を零すように笑った。
和葉は目を逸らしかけたが、見つめていなければならないと思った。あどけない彼の瞳の奥が、小さく揺れているように見えた。
「八坂さんに、話があるんだ……もう、ここには来ないでほしい」
「え……?」
「もうすぐ僕は、この病院を離れるんだ。市内に在る大きな病院に移らないといけないから」
きっと、四つ先の駅の近くにある総合病院だ。和葉はすぐに見当がついた。
「あたし、そこ知ってるわ。そんなに遠くないし、今度はちゃんと、病室までお見舞いに行くから」
「悪いよ、わざわざ。それに……」
優しげな微笑みが、途端にしおらしく変わる。「お互い、悲しくなるだけだから」
「転院したら、病気が治る可能性が上がるんじゃないの? だからあなたは移るんでしょう?」
「僕はそう願ってるよ。医者も、たぶんお父さんたちも……手術をするって言ってたから。でも、仮に成功しても、半分くらいの人は一年も持たずに亡くなるって……そういうものなんだってさ」
「そんな……」
「結局、僕が一番諦めているのかもしれない。医者やお父さんたちや、ほかの誰よりも……この病院から消えてしまったら、あとは枯れていくだけなんだって、そんな風に考えてしまう」
揺らぐ双眸が、再び和葉に突きつけられる。「明日って、残酷だよね。こっちが立ち止まっていても、向こうからずかずかとやってきて、いつの間にか追い抜いていくんだ。ほんと、酷い奴だよ、明日っていうのはさ」
力なく降り落ちる雪のように、夏樹の言葉が零れていく。
彼はすでに、絶望の遥か先を見つめている。
暗く、光の届かない場所――そういう『明日』が巡りくることを予感している。
和葉は見たくなかった。こんな風に笑う夏樹を……和葉が抱えていた苦しみ、痛みを和らげてくれたのは、この樹の下で無垢な微笑みを向けてくれた彼だったから。哀れみや同情ではない、ただ他愛ない時間を共有してくれたことが、和葉にとってなによりの励ましとなっていた。
だからこそ、こんな会話はするべきではないと思った。和葉は、彼にかけるべき言葉を探した。そのためにも、彼と過ごした時間のすべてを思い出そうとした。
――『それって、明日もここに来てくれるってこと?』
不意によぎったのは、いつかの軽やかな笑み。
初めてここで、夏樹と出会った日。その別れ際。
何気なく言い放った和葉の言葉を、夏樹はどこか嬉しそうに繰り返していた。
――『約束、だよね?』
ええ、そう、――和葉は、彼に言うべき言葉を見出した。
「深山君」
意を決して、夏樹を見つめた。「あたしと、約束しましょう」
「約束?」
「もし、深山君が十八歳になったら、走ってほしいの。あたしと一緒に」
なんでもないことのように言おうとしたが、高鳴る鼓動のせいか、語尾が微かに上ずっていた。
夏樹はきょとんとしていたが、やがて困ったように笑うと、「……その言い方だと、約束じゃなくて、お願いみたいだよ」
「確かに、そうね」
夏樹の笑みを真似たように、和葉も相好を崩した。「深山君は、前に訊いてきたよね? ずっと遠くまで走っていける人には、どんな景色が見えてるんだろうって」
「うん……訊いたよ」
「あたしはね、別に大したものじゃないって、道が続いているだけだって言った。それは、やっぱりその通りだと思うの。大した意味も待たずに走り続けたって、なにも感じないし、なにも楽しくない。
でも、もしも深山君が一緒にいてくれたら、楽しいって思える気がするの。つまらないと思っていた景色の中でも、楽しいことを気づかせてくれるような、そんな気がする」
「一緒になんて、無理だよ。僕は、途中で息切れしちゃうから。倒れて、八坂さんにも、ほかのみんなにも、置いていかれちゃうだけだから」
「それでも、あたしはあなたのことを待つわ。深山君が走れるようになるまで、あたしが傍にいて支えてあげる。そしたら、同じ景色を見られるでしょう?」
「……案外、強情なんだね。八坂さんって」
ほとんど吐息だけの声で、夏樹は笑った。「本当に、僕はどうしようもないくらい遅いよ? 八坂さんと違って」
「大丈夫よ。遅い分には、いくらでも合わせられるから」
「そもそも八坂さんだって、まだ松葉杖じゃないか」
「深山君、知らないの? 骨折は、いずれ治るのよ」
「知ってるよ、もちろん」
どこか観念したような顔で、夏樹は嘆息した。「僕とも、一つだけ約束してくれる?」
「なに?」
「もし、十八歳になれたら、お互いに名前で呼び合うこと。そういう約束」
「名前って、どうして?」
「ずっと、憧れだったんだ。僕は、友達だってろくに作れなかったから。名前で呼び合えるくらい仲のいい人、いなかったから。……ダメかな?」
そう訊ねながら、夏樹は嬉しそうに目を細めた。
――ああ、この笑顔だ。
和葉は小さくかぶりを振って、
「ダメじゃない。それも、約束ね」
「うん。じゃあ、はい」
小さく頷くと、夏樹は右手の小指を差し出してくる。「指切り、いいかな」
「あ、うん」
和葉も、左手の小指を彼に近づける。「あたし、こういうの初めてかも」
「友達としたことないの?」
「あたし、こういうの恥ずかしがるタイプだったから」
「そっか。僕も、初めてなんだけどね」
少しだけ、夏樹の頬が赤くなっているように見えた。「初めてばっかりだったね、僕たち」
そうして、お互いの指先が触れ合う。
二人の小指は互いに遠慮するように、弱い力で絡み合った。やはり気恥ずかしくなって和葉が苦笑すると、夏樹も同じタイミングではにかんでいた。
――この時はまだ、和葉は希望を持っていた。
信じていれば、祈り続けていれば、必ず奇跡が起きると。夏樹の病気が改善されて、共に外の世界を走れる日が来ることを。
けれど和葉は、遠からず知ることになる――夏樹が迎える最後の明日、死期を。
端なくも出遭ってしまった、少女の亡霊によって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます