第29話 不審者

 5階。魔法陣以外は特になにも見当たらなかった。

「支部長、メシアのものらしき魔法陣を発見したぞ」

『チッ、あのゴミ共のか。そのままにしてくれ。他に何かあるか』

「特になにもなし」

『わかった。帰還してくれ』

「ということだ。帰るぞ」

 荷物を持ち上げる。

「りょーかい。まほうじんそのまま?」

 階段に向かう。

「らしいぞ。ほら、モンスターどもが復活してるとめんどいから早く帰るぞ」

「そうだよ、虫ってあれじゃん。えっと、キモイから」

 確かに虫はキモイ、な……。

 誰だ今の。 

 声をした方を向くと魔法陣の中央にあぐらを掻きながらこちらを見ている人がいる。なんの変哲もない、何も不自然なことは無い、ただの一般人。まるで下校中の学生のような姿をしながらこちらをみてくる誰か。

 ヌッと、なんの変哲もない雰囲気を醸し出し、普通に溶け込んでくる。

 ここにいる誰もがこいつの気配を不自然に思わなかった。

「おいおいおい、なんだよ。どいつもこいつも、僕の事を怪しい目で睨んできて、僕はただの一般人だぜ、そんな、なぁ」

 立ち上がり、大げさに手を振ってくる。ごく普通の学ラン、とても一般的なそれがここではとても異質に見える。

「お前は誰だ」

 峨々が近づいていく。キララもすぐに飛びかかれる体勢をとっており、僕の足元の影もすぐ近くまで這い寄っている。

「ちょっと、ねぇ。いやぁ暴力をすぐに振るうのは良くないんじゃない?ほら、ラブ&ピースだよ、平和的な解決をしようぜ。な?」

「名を名乗れ」

「いやぁ、ちょっと名乗れない名を名乗ってますから、みたいな?」

「とりあえず拘束をする」

 峨々のバックの中からロープを取り出す。不自然なところはないが、逆にそこが不自然。こいつの言葉を信じるなら一般人だが、怪しいところしか見当たらない。

「いや、ちょーっと、まってくださいよ。僕もやることがあるんでね、待っていただけるとありがたいなーって」

 ロープで縛ろうとすると、どんどん後ろに下がっていく。

「とりあえず縛られてくれ。そして身元の確認をするために名前を言って」

「そーれは、ちょっと出来なさそうですね」

 ピタッと止まりしゃがむ。手を前につけ、脚を思い切り踏み込み、

「逃げまーす」

思いっきり走り出した。僕の影を迂回しながら階段のほうに向かっていく。

 逃げる判断。メシアの魔法陣のところにいた。関係者かもしれない。峨々に手で合図を出す。

「了解、足を抉る」

 ポンっと、自分の右膝を叩く峨々。次の瞬間、

走り出したやつがこけた。

「は?いやいやいや、え?なに?」

 困惑している隙に距離を詰め、ロープで縛る。

「うわあぁぁぁ、膝にポッカリとが空いてる!!!」 

 驚いてる不審者をよそに、後輩ちゃんから連絡を受ける。

「加賀原さんに確認しましたけど、救出対象にも、救助隊にも、このような人がいないそうです」

「うわぁ、血が流れなーい。ねぇねぇねぇ探索者さん達、一般人の膝を抉るってどういうことなの!?」

「お前が一般人かどうかを知りたいけどな」

 見た目は高校生。それが虫の蔓延るダンジョンに手ぶらで登ってこれるわけがない。

「もう一度聞く、名前は何ていう?」

「えぇ、同じ質問ばっかするじゃん。ユーモアのカケラもないのかよ。能力ばっか持ってるヘンテコ集団なんだからさ、もっと面白いこと言ってよ」

 自分の体に穴が空いてもピンピンしている不審者。

「なぐってはかせる?」

「やめとけ、キララ」

 キャンディを構え、いつでも準備満タンといいうポーズをとっているキララ。

「偉く平気そうだな」

「いやぁ、むっちゃ後ろ髪長い人。あなたのせいですか、これ?けど、まぁ何とかなりますし」

 そう言った次の瞬間、穴が綺麗に

 は?こいつの能力か?随分と余裕そうな表情していたのは回復できるからか?

「他にもこういうこともできるんですよ」

 ニコニコしながらこちらを向くと、僕の足元の影が元に戻った。

「……何をした」

「いや、何をしたかって、元に戻しただけですよ。元通りにしただけです」

 元に戻す?時間に干渉するタイプの能力か?

「ふっふっふ、これに驚いたら縄を解くんだな!!!」

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