第6話 こんにちは子どもアキラ

真っ暗な階段が出てきた…あー…なんか思い出した気がする。怖かったんだよとにかく…

「どうします…? みんなを呼んだ方がいいっすかね?」

「いや、我々だけで構わない」

俺がちょっと構うんだけど…


石階段を降りると、そこから先には部屋のない一本道があった。ランプはあるが火はつけられていない。10数メートルほど歩いたところで、右側の壁に鉄格子が現れた。

「…誰!?」

牢屋は10畳ほどの広さだったが、暗闇の中には少年が1人いるのみであった。


「あっ…俺だ…! こいつガキんときの俺っすよ!」

「あまり大きな声を出すな。この子が怯えてしまうだろう?」


アキラはそのとき、頭の片隅にとある記憶があることに気づいた。

(そういえば俺、こんな風に知らねぇ人が急に入ってきてビビったことがあるような…)

子どものアキラは、大人のアキラに怖がっていたらしい。


「きさ…キミは花道アキラクンで間違いないカナ?」

ジェルフのやつ…慣れねぇ喋り方するもんだから言い方がかえって怪しいぞ…

「そうだけど…おじさん誰?」

家臣に探させたからジェルフのこと知らねぇのかな? てかその前に…初対面の相手に、しかも魔王になんつう言い草だ! まぁ、相手は昔の俺なんだけどさ…

「…私はジェルフという者だ。キミは怪しい男に捕まって、ここに閉じ込められたと聞いた。私たちはそんなキミを助けに来たのだ」

「そうなんだ…よかった…」


幼少期のアキラは助っ人の参上に胸を撫でおろした。

「ところで、ここを出る前に気になることがあるのだが…」

「なに?」

「聞くところによると、キミは荷物を持っていたらしいのだが、この部屋を見る限りその荷物がどこにもないんだ」

「あー…森の中に投げこんだよ」


…なんだって?

「…もう一度聞いてもいいかな?」

さすがの魔王もねぇ? いきなりそんなこと言われたら…

「だから…森の中に投げこんだの!」


魔王ジェルフは、鉄格子に手をかけるとスペースを作り、中へ入っていった。

「えっ…」

2人のアキラは同時に驚いた。

「なぜだ…なぜそんなことをした…?」

魔王はアキラの肩をがっしりと掴み、声を荒げこそしなかったものの、怒りをにじませた重低音をその小さな耳に注ぎこんだ。


「いや…あの…違いマス…理由があっテ…」

わかる…わかるぞ…あんなのにキレられたらチビりそうになるのは分かる…大人の俺ですらチビる寸前だもん…


「きちんとした理由があるのなら聞くぞ?」

肩から手を離した魔王は、しゃがみ込んで優しく言った。

「…この家の人に捕まったとき、あの荷物だけは見つかっちゃダメだって思ったんだ。その…珍しいものが入ってると思ったから…」

「なぁ? 珍しいものって、もしかして丸めた紙のことか…?」

大人アキラはおそるおそる聞いたが、その答えは分かりきったものだった。


「うん…宝の地図かと思って、つい…」


ああ、子どもは正直者だな…無理もないよな! 尋問してるやつが「これ」だもんな! うん! 気まずい…

「そうか…正直に話してくれて私は嬉しいぞ。森の中に投げこんだと言ったが、具体的にはどのあたりに?」


ジェルフはひと呼吸おくと、冷静に質問を始めた。

「どのあたりかはよく分かんないけど、木の上に乗っかるように投げたはず…馬車から投げたから、あんまり遠くにはないと思うよ」

申し訳なさそうに白状する子どもアキラを見て、ジェルフは立ち上がった。

「そう…か。キミの言うとおり、それは珍しくてとても大切なものなんだ。盗んだことはもちろん悪いことだが…この家の人間に見つからないようにしてくれたんだな。良い判断だ」

ジェルフは大きな手で頭を撫でる。


…魔王って、イメージしてたほど悪いやつじゃないのかもな…




「…けて!」

ん?


ちょうどその頃、地下室のどこかから子どものような声が聞こえてきた。

「ジェルフさん…今なんか…」

「子どもの声が聞こえたな」

子どもアキラも困惑している。

「オレの他にも誰か捕まってるの…?」

魔王は牢屋から出て、大人アキラが後ろに続き、そして子どもアキラも出てきた。

アキラが捕まっていた牢屋は通路の途中にあり、暗がりでよく見えないがまだ続きがある。

先頭にいる魔王の背中を見て、大人アキラはふとあることを思い立った。


せっかくだし、魔法使ってみようかな。

明かりを出す魔法…炎とか…

よし、玉にしてみるか! 硬式ボールくらいの!

いやでもヤケドしそうだし…でも魔王には盗んだ手前いろいろ申し訳ないし…

強くイメージするのが鉄則らしいからとりあえず両手をグッて構えて…

「ドラゴンバランスボール」の有名な技の構え…そこに小さな火種がまずできて、そこからゆっくりと大きくなっていって…


「アキラ、何をしている?」

「え…?」


大人アキラが目を開けると、両手の中に火の玉が浮かんでいた。ほんのりとあたたかく、大きくも小さくもならずに留まり続けている。

「いやあの…ちょっとでも役に立ちたくて、明かりを点せたらいいな〜! …的な」

次の瞬間、魔王はアキラの両手を掴んで言い放った。


「素晴らしい!」

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クソガキが転生しました サムライ・ビジョン @Samurai_Vision

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