第4話 捜索と追憶

「幻覚魔法をかけた、それだけのことだ」

「魔法すげぇ…イギーさんって人間の姿だと結構イケメンっすね」

「どういう意味だぁ!?」

手綱を握る人間バージョンのイギーさん…見た感じ40代くらいだけど、思いのほか筋肉もついててシュッとしてるっぽい。


 「では、よい旅を。…いらっしゃいませ。ご来訪の目的とその期間をお聞かせください」

関所の女性職員が穏やかな口調でそう言うと、馬車の中でしばらく話し合いが起きたのちにイギーが代表して答えた。

「目的は人探し。期間は1日でたのんます」

イギーは名簿に全員分のサインをしている。


「そういえば、名前を書いても大丈…ジェルフさん?」

イギーさんに気を取られて魔王のこと全然見てなかったわ。なんだあのお面? 灰色のアイマスクみたいなの着けてる。

「イギーに書いてもらっているのは偽名にすぎない。そしてこの仮面はアシュリーからもらったものだ。角さえ隠れれば充分だろう?」

「アタシの力作よぉ、かっこいいでしょう?」


 「許可が下りやしたぜ。行きやしょう!」

そう言うとイギーは、開かれた門に向かって馬車を進めた。

「道せまくないっすか? 馬車で通ったら邪魔になりそうっすけど」

「心配ご無用!」

イギーは門に入ってすぐの広場に馬車を停め、ぞろぞろと降りていくメンバーを見てアキラも釣られて降りた。


「ストレージ」


 ほとんど同時だった。イギーとアシュリーが「ストレージ」と口にして手を叩くと、2頭の馬はイギーの腰袋に吸い込まれ、馬車と手綱はひとまとめになりアシュリーの手元に飛んでいった。

「なんですか今のは!?」

「馬はおいらの使い魔なんだ。使い魔は馬だけじゃないぜ? この袋にひと通り揃えてある」

イギーは腰袋をポンポンと叩いた。

「アシュリーさんも凄いじゃないっすか!」

「これくらいアタシには造作もないことよぉ」

先ほどの黒い馬車をそのままキューブにしたアシュリーは左手でそれを転がす。


 「よし、さっそく聞き込みを行おう」

ジェルフの一声で、俺たちは「第一街人」に声をかけた。おじいさんだった。

「すみませ〜ん…この子を探してるんすけど…」

「いいや、見てませんなぁ…この子とお兄さん、そっくりだけど兄弟か何かかい?」

「そんな感じっすね。…分かりました、ありがとうございます!」

1人目は通行人だったけど、通行人ひとりひとりに声をかけるのは効率が悪いから、ひとまず近くのカフェで聞いてみることにした。

 「あ〜! この子なら昨日うちに来ましたよ!」

マジかよ!?

「その子どもは丸めた紙を持っていたか?」

「丸めた紙…持ってましたよ? 牛乳の空き瓶はないかって聞かれて、何に使うんだろうと思ったら瓶の中に詰めてたんですよ」

瓶…ダメだ、覚えてない…

「ちなみになんすけど、この子がどこに行ったかは分かりますか?」

「ごめんなさい…それは分からないです。ただ、教会のある方…店を出て左の方なんですけど、そっちの方に行ってた気がします」

「教会っすね? ありがとうございます。それにしてもここのサンドイッチは美味しそうっすねぇ。朝ご飯まだなんでここで食べるっていうのは…」

「却下する。捜索が最優先だ。では我々はこれにて」


カランコロ その音すごく 切なくて

花道アキラ


 期待外れの想いを句にするアキラ。それを無視して、魔王一行はずんずんと進んでいく。

「失礼。このような子どもを見ていないか?」

「…俺のスマホいつの間に取ってんすか!」

「…これは子どもなんですかな? 成人女性のように見受けられるのですが…」

成人女性とはなんだと、アキラは慌てて画面を見た。そこにはアキラお気に入りのグラビアアイドルが。

「これ違います! …これです!」

アキラはジェルフからスマホを奪い取り本来の写真を見せた。

「アキラくぅん…なかなか扇情的な女の子じゃなぁい?」

「気にすることはない。お前くらいの年齢であれば普通のことであろう」

ぐいぐい来るアシュリーからアキラを擁護するジェルフ。それを見てヒソヒソと話すイギーとチェリー…

「あの…この子であれば昨日のお昼頃に教会を出ましたが…」

赤面するアキラがふと真面目な顔に戻った。


「教会を出て、そっからどこに行ったか分かりますか?」

「すみません…お清めは施しましたが、そのまま見送った次第でございまして…」


 そのときだった。アキラの両手と右足にずっしりとした「何か」が現れた。

「えっ…!? なんだこれ…」

突然現れた手錠と足枷…見慣れない光景を目の当たりにした魔王たちも怪訝な表情を浮かべた。

「ちょっとアキラ…何よそれ」

「おいおい…まさか教会の仕業じゃねぇだろうな?」

「不思議ねぇ…こんなことは初めてだわ…」

「これは私の憶測に過ぎないが、アキラは何者かに攫われた経験があるのではないか? …アキラ?」

このときアキラは、重く冷たい手錠と足枷、それに加えて…


「…思い出しました。俺…子どもの頃…」


青ざめた顔でうつむいたアキラは、震える手と声でからがら口にした。


「誰かに…攫われ…ました」

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