第2話 魔族たちの前夜祭

「貴様が意図せずこちらに来たとして…『転界』させた魔法使いの正体と目的がまったく読めんな」

「転界? 転界ってなんですか?」

立ち上がった魔王に続くようにアキラは立ち上がった。


 「転界というのは、読んで字のごとくこの世『界』へ『転』じさせることだ。先ほどのアキラといい貴様といい…言動や服装がどうも現実離れしているものでな。十中八九、別の世界から転界してきたのだろうと思っていたのだが…違うのか?」

アキラって名前を出されるとつい体がビクついちまう…

「…たぶんそうっすね。俺のいた世界には魔王も魔法使いもいませんでしたし…ホント、道を歩いてたはずなのに気がついたらここにいたんすよ」

「…お前、どことなく花道アキラに似ているな」

ビックリしたぁ!?

「そ、そうっすかぁ? 俺その子のこと全然知らないっすけどね! …ちなみになんすけど、アキラって子が転界してきたのはいつ頃のことなんすか?」


 「ちょうど昨日の今頃だな。とにかくあいつはすばしっこくて…そのまま近隣の街へ逃げていったんだ。私や家臣では、人間の多い場所は居心地が悪いのだ」

アキラは迷っていたが、半分だけ嘘を混ぜてカミングアウトすることにした。

「あの…実は俺の名前、田中じゃないんです」

「どういうことだ?」

「さっき、花道アキラがどうとか言ってたと思んすけど…その子、俺の弟なんです!」

 それを聞いた魔王は、またしても額を合わせようとしてきた。

「ちょっと待ってください。嘘つきました。すいません」

浅はかな嘘はすぐにばれる。

アキラは堪忍して、花道アキラは自分のことだということ、昨日現れた子どもは幼少期の自分だということ、城を出たあとの動行はよく覚えていないこと…などなど、己のすべてを明かしたのだった。


 「なるほど…珍しい事例ではあるが本当なのだな」

「はい…なんかすいません…」

いくらガキの頃の俺がやったこととはいえ…ん? ちょっと待てよ?

「あの、よく考えたら昔の俺って…何を盗んだんすか? グルグルに巻かれた紙だってことは覚えてるんすけど…」

魔王たちが血眼で探すくらいだ…世界征服の計画とか!?

「悪いがそれは言えない」

恐ろしい…けど気になる! 昔の俺なに盗んだんだマジで!

…ダメ元で言ってみるか?


 「昔の俺を探すんなら、俺も同行させてくれませんか?」

「私たちと…魔族と行動を共にするつもりか?」

「昔の自分がやったことなんだし、探してる最中になにか思い出すかもしれません! なにより…盗まれたものって大事なものなんすよね? 俺も協力しないと肩身が狭いっす!」

ふたりの間にしばらく沈黙が訪れ、やがて魔王は口を開いた。


「…明日、朝一番に城を出るぞ。何日かかるか分からないが、それでもいいんだな?」

「はい! 何日かかってでも絶対に見つけ出して、盗まれたモノ…取り返します!」

よっしゃ! 魔王が折れた!

盗まれたものを探しに知らない世界をトーホーセーソー…しかも盗っ人はガキの頃の自分ときた。こんな経験なかなかないだろ!


 ——その日の晩、食堂にて——

「皆のもの、聞いてくれ。この人間は花道アキラ…」

案の定、人ならざるものはざわめいた。

「ハナミチアキラ!? あれが!?」

「冗談きついぜ旦那! あいつはもっと…」

「小さかったわよねぇ?」

暖炉の前の長いテーブル。席についた10名ほどの家臣たちがシャンデリアに照らされている。

「確かに顔は似てるけど…無理があるんじゃない?」

桃色ツインテールの少女はそう言った。

「ちょっとおめぇよ…おいらのセリフ取るなよなぁ」

白いローブを着た、緑色で耳の尖った男は隣にいる…

「ごめんなさいねぇ」

30代ほどの魔法使いに文句を垂れた。


 おいおいえらいことになったぞ!?

魔王の家臣だからクセモノ揃いだとは思ってたけど…それにしたってメンツ濃すぎだろ!

黒いローブでツインテールの女の子と、魔法使いみたいな格好した…男か女か分からんやつ、あの2人はかろうじて人間に近い…

魔法使いの隣にいるやつはなんだ? ス◯ーウォーズにあんなのいなかった?

それ以外にいたっては…妖怪? 猫っぽいやつとか消しゴムみたいなやつとか…

「アキラはここに座りなさい」

マジかよ…


 暖炉のすぐ前に魔王の席があり、右側には魔法使いと緑色の男、左側には空席とツインテール…アキラに用意された席は、魔王に一番近い席であった。

「失礼しゃっす…」

「はじめましてぇアキラくん…今日はたくさん食べてねぇ?」

「毒は入っていないさ、嘘ではない。…信じられないなら額で確かめてみるか?」

「いや、俺はおでこじゃ分からねぇっすよ…」

目の前に魔法使い、左隣には魔王…

「あんた仮にも盗っ人なんだから遠慮しなさいよね」

「特にローストビーフは控えめにするんだなぁ、若造くんよぉ?」

右隣にツインテール、斜め右には緑男…

「大丈夫なのかぁ?」

「もしやガキの自分と合流して結託するつもりじゃあ…」

その奥には人間離れした面々…


「アキラ、グラスは持ったか?」

「あ、はい…」

「この先…『どんな手を使ってでも』子どものお前を見つけ出し…『何があっても我々を裏切らない』という約束の意をこめて…乾杯」

「か、かんぱ〜い!」

「どうだアキラ? エルベージュ産のワインはなかなかいけるだろう?」

「あ、はい! そうっすね! 旨いっす!」

…味なんか感じてる余裕なんてねぇよ…

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