クソガキが転生しました

サムライ・ビジョン

第1話 知らないし、知っている天井

 我ながら散々な出来だったぜ…いやな? さっき面接受けてきたんだよ。ハタチともなりゃいい加減テーショクに就けって母ちゃんからケツ叩かれたんだけどよ…

まぁぁぁあ最悪でしたな、おう。

つい気が緩んでタメ口になるわ終わりがけにデカい溜め息は出るわで…これで3社目だぜ? しんどいわバカタレが!


 ——成人したばかりの花道はなみちアキラは、その名字とは裏腹にろくでもない人生を送っていた。——

 高校を卒業して社会に出た彼は、人生初の仕事先であるコンビニで警察沙汰の揉め事を起こし、早々に首を切られた。脛かじりの完成である。

彼は今しがた3社目の面接が終わり、9月の残暑に汗ばみながら帰路についていた。

 彼の運命が大きく変わるのは、そんな矢先のことである。


「…あれ?」

なんだこれ…は? どこだよここ!

ドラキュラでも住んでんのか? 誰の家だ?

…あ! あれだな!? 熱中症で倒れちまって…そんで誰かの家で休ませてもらってると! だからベッドの上にいるんだな! うん…


 路上を歩いていたアキラは、気づけば豪邸にいた。

キングサイズのベッドからむくりと体を起こした彼は、部屋を観察してみた。

大きな窓からは薄い紫色の空が見え、木目調の机やぎっしり詰まった本棚。そしてベッドの正面には両面扉がある。

「いい部屋だな…」

アキラは思わずつぶやいた。古めかしいが、広くて洋風な部屋は、団地住まいの彼には憧れのものだった。


 「…ん?」

誰か来る…この家の人か? 助けてくれたんならまずはお礼言わな…

 「ハナミチアキラは見つけ次第すぐに始末する」


 ドアに耳を近づけていたアキラは驚愕した。名前が知られているだけではない。淡々と殺害予告をされている。


 おいおいマジかよ!? 俺なんか恨み買うようなこと…いや、そんなことよりひとまず隠れるか…?

[ガチャッ]

あっ…


 ——見つかってしまった。しかもその家主は…——


「あ…え…?」

「うん?」

おいおい…見た目までやべぇじゃねぇかよ! 悪魔? ツノとかキバとか…はぁ? 夢これ?


 残念ながら夢ではなかった。目の前にいるのは身長190センチはあろうかと思われる男…黒いマントを羽織り、スーツこそ着ているものの顔立ちは人間離れしていた。

赤い目をしたその男は黒い前髪の中から2本の角が生えており、下顎の牙は唇からはみ出している。


 「…何者だ」

「へっ?」

こいつ今…「何者」って言ったよな?

「ここが私の…魔王の部屋だと知っての愚行か? もう一度問うぞ。貴様は何者だ?」

魔王!? いやいや魔王とかそんな…この見た目だとありえるけど…でもこいつ…「花道アキラを始末する」とか言ってた割には俺のこと…

「えっと…俺は田中です…」

とっさに幼馴染の名前が出てきた。ごめんな田中…

「タナカ…ハナミチといい、またしても聞き慣れない名前だな」

やっぱりこいつ俺のこと…

「あの…ハナミチっていうのは、なんすか?」

とりあえず鎌をかけてみる。

「今のお前と同じように私の部屋に突然現れ、まではたらいた悪ガキだ。家臣に探させたが見失ってしまったのだよ…」

盗みを…あっ…!


 アキラは思い出した。

…否、ただ「思い出した」と呼ぶには語弊があるだろう。

正確には「今までになかった記憶が生まれた」といったところか。過去が変わってしまった…ともいえる。

 のちにアキラは、この記憶のせいで無駄な責任感を持つことになるのだが、無論アキラは知らなかったし、それこそが「ケジメ」だと思っている。


 …あったわ。すっかり忘れてた…

確か俺が小4の頃…10歳くらいだったかな。記憶はあやふやなんだけど、ちょうど今みたいな感じで知らない家のベッドにいたんだよ。

そっから家を(というか城みたいだったけど)探検して、そしたら宝の地図みたいなのを見つけて…

それにしたって、なんでまたあのときみたいな状況になってるんだ?

 「あ…それは災難でしたね! ところで…なんで俺、ここにいるんすかね?」

おかしいだろうよ…スーツ姿のまま魔王のベッドにいたんだぜ?

「それは私が一番知りたい。なんの目的だ? 返答次第ではこの場で八つ裂きに…」

「いやいやいや! 違うんすよ待ってください! 実は俺も何が何だか分からなくて…気がついたらここにいたんです! 目的なんか何もありませんよ! 信じてください!」

なんておっかねぇ野郎なんだ!

「…頭を出せ」

「え?」

「いいから頭をこちらへ差し出せ」

…拝啓、母ちゃん、父ちゃん、そして名前を貸してもらってる田中…俺は今から死ぬかもしれません…


 しかし、頭を差し出したところで斬首されるわけではなかった。魔王の迫力に思わず床にへたり込んだ田中…失礼、アキラの前髪を右手でかきあげ、額と額を合わせたのだ。


 これは…なんだ?

おでこくっ付けて…熱測ってるみてぇな…マジでなに?

「…嘘はついていないようだな」

なんだって?

「えっと…おでこをくっ付けたら、嘘ついてるかどうかが分かるんすか…?」

「当たり前じゃないか。私は魔王だぞ?」

いや…魔王ならおでこで分かるとか意味わかんねぇから…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る