第22話 冒険者ランク試験 その1

 オーガに凌辱されていたエルフが死んだ。

 違った。

 シゲイズ副宰相に撫で回され可愛がられていた子供エルフのサーシャが気絶したの間違い。

 しかし、本気で嫌われてるよ、オーガ……

 じゃなくて、シゲイズ副宰相。


 しかし、サーシャもこの程度で気絶とか大袈裟すぎ。

 エルフって潔癖症なのかな?

 もしかしたら、俺と同じコミュ症とか。

 もちろん、今の俺は偉大なる大魔導師アーク・ウィザード。

 そんなもんは克服してます。


「さて、帰るとするか。おい、コミュショー。ドラゴンの卵をしっかり世話しろよ?」

「そうじゃのう。あっ、コミュ・ショーリナ君も早めに一度帰って引っ越しの準備をした方が良いぞ。あと、モンスター牧場に押し込めた魔法使い冒険者たちを何とかしたまえ。管理しているフレディ教授がモンスターの餌にして良いのか本気で悩んでおったからな」

「それが良いですね。コミュさんの部屋になるギルマス執務室も新たに作っておきましょう。本来なら二階の部屋なのですが、コミュさんはドラゴンの卵がありますからねえ。この地下闘技場を新しいギルマス執務室に改造しておきます」


 シゲイズ副宰相とガブリエル学園長の言葉に依存はない。

 ただ、キリン副ギルマスの発言が引っ掛かる。


「ええっと……このドラゴンの卵はここから動かせないのでしょうか?」


 と、口にしたが……

 本心では『そんなことはない!』と結論付けていた。

 俺の魔法学園での集大成とも言える卒業論文のテーマはドラゴンの生態に関するもの。

 俺は爬虫類型モンスターが大好き。特にドラゴンがたまらなく好き。

 卒論では特に卵について扱った。

 ドラゴンの卵は頑強で生半可な事では割れたりしない。

 そのせいか、ドラゴンは卵を産んだら放置して何処かに飛び立ってしまうのだ。

 そのくらい卵は強い。

 だから、持ち運ぶ事など容易いはずなのだが……


「実はこのドラゴンの卵は西の大国である神聖ガオシオン帝国にある魔法学校からの預かりものでね。色々と条件が厳しいんだよ、コミュ・ショーリナ君」

「魔法学校と魔法学園の交流の一環だな。うちがモンスター研究の第一人者であるフレディ教授を抱えているから寄越したんじゃねえか?」

「でも変よねえ。卵を冒険者ギルドの地下から動かすなとか、ドラゴン好きな魔法学園の学園生に世話させろとか……」

「向こうの女帝コンジー・スイからの手紙にゃあよう、女神ルナ様からの神託があったって書いてたぜ?」


 シゲイズ副宰相とガブリエル学園長、そしてキリン副ギルマスの雑談のような説明から全体像が見えてきた。


 あっ、これ宗教がらみだ。

 なんかヤバいかも。

 すると、冒険者チーム妖精女王ティターニアの回復役にして女神ルナの神官でもあるマリエが発言する。


「コンジー・スイ様は女神ルナ様の素晴らしい信者として有名です! 神聖ガオシオン帝国にあるルナ神殿もたいそう立派なものなんですよ。コミュさんが女神ルナ様の選ばれしお方なら、私は全身全霊で協力させていただきます!」


 うわあ、マリエさんの目が怖い。

 まあ、初めてのドラゴン飼育だから協力はありがたいけどさ。


「と言うわけでドラゴンの卵はここから動かすなよ、コミュショー。んじゃ、俺は帰るぜ」

「では、コミュ・ショーリナ君も早めに一度帰ってきたまえよ。また魔法学園で会おう」


 そんな言葉を俺にかけてきたシゲイズ副宰相とガブリエル学園長の二人が、次の瞬間に消えた。

 そう、転移魔法だ。

 賢者マギである二人なら当然のこと。

 キリン副ギルマスも慣れたもので平気な顔。

 しかし、妖精女王の面々は驚いていた。


「すごいにゃ! こんな魔法を使えるのはコミュだけかと思ってたにゃ」

「あいつら、何もんだ?」

「副宰相のシゲイズ伯爵様と魔法学園の学園長をしておられるガブリエル様ですよ」

「オーガが消えた……エルフのご先祖様に心からの感謝を!」


 最後のエルフは起きたのか。涙を流して喜んでるよ。

 さて、俺も一度帰って準備しよう。ドラゴンの卵を持っていけないのは残念だが。


「それじゃあ、俺も一回魔法学園に帰ります」


 みんなに一礼するとキリンに止められる。


「待って、コミュさん。いえ、コミュギルドマスター。冒険者のランク試験がまだですよ?」


 ええっと、ギルマスになったのにやらなきゃダメ?


「おおっ、忘れるところだったぜ。あたいはこれを見に来たんだ!」

「グレタは本当に戦いが好きにゃ」

「でも、私も興味津々です」

「……帰って寝たい」


 一人を除いてみんなワクワクしてる。


「コミュさんにしてもらうのは模擬戦です」


 キリンが俺を見て言う。

 ああ、模擬戦か。

 王宮前広場や衛兵詰め所で、騎士や衛兵たちが訓練でよくやってるあれな。

 限りなく実戦に近い練習試合って感じ。

 たいていは木製の剣や槍、あるいは矢じりを丸めた弓などを使って戦う。盾を使う場合も木製の盾だ。

 あとは実戦と同じ。


 でも、魔法使いの模擬戦はちょっと違う。

 お互いに防御魔法をまずかけてから交互に攻撃するんだ。相手の魔法を受け止めるのも魔法使いに求められる大切な技能だからね。

 まあ、単純だ。本格的にやると普通に死者が出ちゃうから。

 実戦とは程遠い単純な力比べ。

 前世で言えば腕相撲的な感じだね。

 さて、俺の模擬戦。相手は誰だ?

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