第21話 ドラゴンの卵と事案発生

 モンスターの卵は貴重品だ。

 なぜなら、採取が難しいから。

 生態系がよく分かっていない事も理由の一つ。何処で卵を産み育てるのか未だに謎の種族が多いのだ。

 また、近くに親モンスターがいて妨害されることも難易度に拍車をかける。

 強いモンスターであればあるほど、卵の採取は難しくなると言えよう。

 つまり、ドラゴンの卵。それは……


「異世界の宝石箱や~」


 元日本人のクセで、思わずピコマロっぽく呟いてしまった。

 だが、これは事実だ。

 ドラゴン。

 それは、全モンスターの頂点に立つ存在。

 そして、ドラゴンの卵。

 それはもう、キング・オブ・エッグ。

 まさにお宝だ。

 しかも、五個もある!

 ああ、美しい。

 色は白じゃないんだあ。

 赤、青、金、銀、そして、黒。

 大きいなあ。前世で子供の頃の遠足で行った動物園の展示コーナーで見たダチョウの卵よりはるかに大きいよ。


 これ、あれだ、人間の赤ちゃんが入れるくらいの大きさだぞ!


「ガハハハハ、おい、コミュショー。どうやら気に入ったようだな?」


 シゲイズ副宰相がニヤリと笑ってこっちを見ている。

 くそっ、このおっさんのせいで冒険者ギルドのギルマスに就職させられたってのに……


「嫌なら持って帰るぜ?」

「凄く嬉しいです! 本当にありがとうございました!」


 アブねえ。ちょっと不満な顔見せたらこれだよ。

 シゲイズ副宰相の前ではいつもニコニコしていよう。


「つまり、コミュさんはカーレン王国の王都冒険者ギルドのギルマスになってくれるという事で良いのかしら?」

「………………………………………………ハイッ! なります!」


 キリン副ギルマスの言葉に笑顔で沈黙してたら、シゲイズ副宰相がドラゴンの卵を持って行こうとした。だから、慌てて返事したよ。

 くそっ、冒険者になるつもりが冒険者のトップになってしまった。

 でも、俺、ギルドマスターの仕事なんてできねえぞ?


「安心しろ、コミュショー。お前はココ、王都冒険者ギルドのギルマス部屋に引きこもってりゃいい。面倒くさい事務仕事は全部キリンがやってくれる。どうだ、嬉しかろ?」


 マジか?

 俺の不安そうな顔を見て察してくれたのか、シゲイズ副宰相が嬉しいことを言ってくれた。

 つまり、合法的にヒキニートができるってことかよ。


「えっ、ギルマスって、そんな楽な仕事なんですか!?」


 シゲイズ副宰相が力強く頷く。

 やだ、このおじ様。超ステキ。


「できれば、魔法使いの冒険者が他の冒険者達を虐めてた場合に叱って欲しいわ」

「えっ、ギルマスって、そんな楽な仕事なんですか!?」


 キリンの言葉は嫌じゃなかった。

 元いじめられっ子として、いじめをする奴は今でも大嫌いだからな。

 タマタマやシェケナみたいに魔法が使えることを鼻に掛けて偉そうにする奴らには、大魔導師アーク・ウィザードであるこの俺が天誅を下してやる!


「じゃあ、コミュ・ショーリナ君。魔法学園の卒業式後にここへ引っ越し、基本的にはドラゴンの卵と一緒に引きこもって生活するという事で良いな?」


 ガブリエル学園長の確認に俺は笑顔で答えたよ。


「はいっ。俺はドラゴンの卵と一緒にココでヒキニートを頑張ります!」


 全ては丸く収まった。

 ように見えたのだが……


「ちょっと待つにゃ。コミュはあたし達と一緒に冒険するにゃあ。何でギルマスになってるにゃ?」

「そうだぜ、コミュ。だいたい、お前の冒険者ランクを決める実技試験はどうなってんだ!?」

「で、でも、ギルドマスターにコミュさんがなってくれれば、魔法使いのワガママな振る舞いが良くなるかも! ねっ、サーシャ?」

「オーガ怖いオーガ怖いオーガ怖いオーガ怖いオーガ怖いオーガ怖いオーガ怖いオーガ怖い……」


 妖精女王ティターニアのこと忘れてた。

 若干一名、情緒不安定なエルフがいるが気にしない。


「ガハハハハ、おおっ、コミュショーにはもう仲間ができたんだったな。よしよし、お嬢ちゃんたち。こいつが冒険に出るくらいは許してやるぜ。遠慮なく連れ出してくれ!」


 なに言ってんだ、このおっさん?


「なら問題ないにゃあ」

「おっしゃっ、コミュの妖精女王正式加入が決定だな!」

「良かったですねえ、サーシャ」

「オーガ怖いオーガ怖いオーガ怖いオーガ怖い……えっ?」


 いや、もう、ヒキニートができる就職先が見つかったんで冒険者はやりませんけどね?

 ドラゴンの卵も心配だし。

 そんな事を思ってたら、シゲイズ副宰相がノシノシとエルフに近付き彼女を抱っこした。

 そして、そのまま頭をグリグリなで回す。


「ガハハハハ、いやあ、仕事も終わったしサーシャちゃんと触れ合えるな。ガハハハハ、相変わらずカワユイのう!」

「 くぁwせdrftgyふじこlp」

「ガハハハハ、そうかそうか、サーシャちゃんもおじちゃんと会えて嬉しいかい? ガハハハハ、おじちゃんも嬉しいぞい!」

「 くぁwせdrftgyふじこlp」

「ガハハハハ、そうかそうか、チューもしてやろう」

「 んっ! プハッ、くぁwせdrftgyふじこlpーーー!」


 事案発生である。

 どう見ても小学生に無理やり接触を図るおっさん。

 まっ、知り合いみたいだし放っておこう。

 そんなことより、ドラゴンの卵を俺は愛でていたい。


「あれ、これって魔法使いのワガママな振る舞いじゃないのかにゃあ?」

「確かにそうだな!」

「キリン様。これは新ギルドマスターの初仕事では?」

「そうねえ。ガブリエル、どうかしら?」

「そうじゃな。コミュ・ショーリナ君。あの狼藉者をやっておしまいなさい」

「ちょっと。ちょっとちょっと!」


 なんなの、この展開。

 あんな超VIP(副宰相)にして高貴な(伯爵)オーガに喧嘩売ったら俺が死ぬわ!

 今日は閉店休業です。

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