第20話 就職祝い

 王都冒険者ギルドの地下へ冒険者ランクを決めるための試験を受けに来たのだが……

 何故かキリン副ギルマスとシゲイズ副宰相とガブリエル魔法学園長がいた。

 えっ、なんで?

 いや、キリンはまだ分かる。昨日、冒険者登録の手続きをしてくれたから。

 王立魔法学園の主席卒業生にして、大魔導師アーク・ウィザードである俺を歓迎してくれてるのだろう。

 でも、シゲイズとガブリエルはおかしいだろ!

 例えて言えば、日本の有名大学卒業生がブラック企業に就職するからといって、そこの副社長と副総理大臣と有名大学の学長が駆け付けるみたいなもんだ。

 おかしい。

 絶対に何かある。

 だから、俺は言ったんだ。

「一身上の都合により退職します!」って。

 それに対する返答がこちら。


「あらあら、困りましたねえ。もう、コミュさんの身分は変更不可能なのに。どうしましょう……」

「ガハハハハ、ナイスジョークだコミュショー。お前も冗談が言えるようになったか? ガハハハハ、ガーハハハハハ」

「すまないねえ、コミュ・ショーリナ君。それは無理だよ」


 な、なんだと……

 シゲイズの反応はまだ分かる。こいつは魔法界の頂点と言って良い賢者マギでありながらオーガそっくりな脳筋。マギノーキンなんだ!

 前世の感覚で言えば運動部のバカ顧問だな。「走れ! とにかく走れ! 水なんか飲む暇あったら走りやがれー!」って感じ。

 でも、キリンとガブリエルは違うはず。

 キリンはいつも微笑みを絶やさない優しく品のある初老の女性。ガブリエルは魔法学園の学園長の名に恥じぬ知的で冷静な初老の男性。

 それが何故だ?


「ガハハハハ、お前の不思議そうな顔もおもしれえな。ガハハハハ、ガハハハハ、ガーハハハハハ」

「笑いすぎよ、シゲイズ。本当にごめんなさいね、コミュさん。今はカーレン王国の王都冒険者ギルドのピンチなの。魔法が使える冒険者の振る舞いが目に余っててねえ。できれば助けて欲しいわ」

「そもそもだ、コミュ・ショーリナ君。君も良くないよ。書類に目を通さず署名などするからこうなる」


 えっ、なんの話?

 キリンは申し訳なさそうに、ガブリエルはちょっと怒りながら俺を諭す。

 いや、あの時キレイな眼鏡秘書さんに急かされたし可愛いメイドさんにも注意が行ってついつい……

 って、冒険者登録にそこまで気を使わなきゃいけないの?

 すると、突然シゲイズが両手を上げ皆の注目を集める。

 そして、こう宣言した。


「さあ、皆の衆。ここで重要な発表があるぜ。王立魔法学園の今期卒業生。ダントツの主席にして、歴代卒業生の中でも俺やこのガブリエルに勝るとも劣らない成績を残した優秀な大魔導師、偉大なるアーク・ウィザードのコミュ・ショーリナ君は……」


 な、なんだよ?


「ここカーレン王国の王都冒険者ギルドに招かれ、ギルドマスターに就任することが決まったのだーー!」

「はっ?」

「今までいたギルマスのシェケナは、多々ある違法行為を冒険者ギルド世界本部にて問題視され罷免になったわ」

「へ?」

「魔法学園としても冒険者ギルドへのテコ入れを考えておった矢先でな、コミュ・ショーリナ君がギルマス就任のための契約書に署名した以上しかたない。応援するよ」

「ほ?」


 三人の解説を聞き俺に言えることはこれしかなかった。


「 くぁwせdrftgyふじこlpーーーーーー!」

「あっ、コミュがサーシャになったにゃ」

「おい、サーシャ。今のはなんて言ったんだ?」

「エルフ語をコミュさんも使えたなんて」

「いや、エルフ語じゃないし」


 冒険者チーム『妖精女王ティターニア』のみんなが俺に突っ込んでいるが、今はそれどころじゃない。


「いや、俺、冒険者登録しただけですよね!?」

「ごめんなさいね、コミュさん。あれはギルマス就任の契約書だったの」

「よく読まんからじゃ」

「ガハハハハ、やーいやーい、コミュショーがコミュショーが、ギルマスになってやんのー! やーいやーい、コミュショーのギルマスー」

「ぐぬぬぬ」


 子供みたいなセリフのシゲイズ副宰相に本気で腹が立ってしまう。

 冒険者ギルドのギルマス?

 断固拒否だ!


「盛り上がってるところに水をさすようで申し訳ありませんが、お断り……」

「ブッブー! はい、ざんねーん。こっちには契約書があるんだぜー?」

「書類をよく読まんからこうなるのじゃよ、コミュ・ショーリナ君?」

「ごめんなさいね、シゲイズに唆されちゃって。でも、名前だけでもいいから協力してもらえないかしら?」


 そ、そんな詐欺みたいな書類に意味なんてない。

 俺は断固拒否する。

 だって、働きたくない。

 働きたくないんだーーーー!


「ちなみに、この契約書のココ。小さい字で読みにくいがこう書いてあるぜ。この契約に反した場合には、カーレン王国の副宰相シゲイズ伯爵の娘アッキー嬢との婚姻を約束するものである! ガハハハハ、さあ、コミュショー選ぶがいい。冒険者ギルドのギルマスになるか、俺の娘アッキーと結婚するか、さあ、どっちだ?」


「俺は冒険者ギルドのギルマスになります!」


 もう迷わない。


「即答じゃったのう」

「アッキーちゃん可愛いのに……意外ねえ」

「……そんなにアッキー嫌か?」


 シゲイズ副宰相の目が怖いが、嫌なものは嫌なのです。


「ま、まあいい。とにかく就職が決まったんだ。祝いの品をくれてやろうじゃねえか」

「な、なんです?」

「あれじゃよ」

「あれのどこが御祝品になるのか私にはよく分からないわ」


 ガブリエル学園長が俺たちがいる闘技場の一角を指差す。

 副ギルマスは不思議そうな顔だけど。

 さあ、はたして俺の就職祝いは何だ?

 もし、悪役令嬢のアッキーさんがいたらシゲイズをぶん殴る。

 勝てないまでもせめて一太刀は食らわせたい。

 さあ、そこにあるのは……


「ああっ、ド、ドラゴン! ドラゴンの卵だーー!」


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