第19話 冒険者ランク試験の前に

 俺とエルフ貴族令嬢サーシャが率いる冒険者チーム『妖精女王ティターニア』の面々は、ドワーフメイドのチュアラさんが作った朝食を食べた後、冒険者ギルドへ向かうことにした。

 ちなみに、チュアラさんが作った朝食は本格的な英国風ブレックファースト。

 ドワーフって大雑把なイメージあったけど、チュアラさんの料理は本当に美味い!

 実はこの人、長年エルフ貴族パブロフ家に仕えるドワーフ一家の出身らしい。

 なので、彼女が作る料理は代々受け継がれてきたパブロフ家の味なんだって。

 まさか異世界でこれが食べられるとは……


 紅茶も完璧だしスコーンも美味い。ああ、幸せだ。

 ひょっとして、エルフ王国にはイギリスからの転生者がいたのかも。

 あと、エルフとドワーフは仲が悪いってのは俺がいる異世界にはないのだろうか?

 謎だ。

 いずれにせよ、凄く美味しかったです。


 さて、夜が明けてまだ一時間半ほど。こんな朝早くからギルドはやってるのか心配になったが……やってるらしい。


「朝は一番ギルドが混む時間にゃ」

「儲けの良い依頼は早い者勝ちだからな」

「朝は取り合いです」


 そう言われて、俺は半信半疑ではあったが皆と一緒に屋敷を出て少し歩く。

 すぐに冒険者ギルドが見えてきたのだが……


「あっ、本当だ。冒険者の出入りが滅茶苦茶ありますね!」


 思わず感動してしまったよ。

 だって、カーレン王国では冒険者をパジェロと揶揄する。つまり、野良猫だ。自由気ままでルールに縛られず好きに生きてる怠け者。それがパジェロ。

 それなのに、一般人がようやく目覚める時間からもう働いているんだ。

 凄いよね?

 それと同時に嫌な気分になる。

 だって……

 俺、その冒険者になるんだったわ。

 嫌だよ、こんな朝早くから働くの。

 よし、冒険者カードをもらったらすぐに辞表を提出しよう。うん、そうしよう。

 そんなことを考えている間に俺たちは少し混雑してるギルド内へ。

 ミーシャを先頭に受付カウンターに向かう。



「おはよーにゃ、ララ。今日はコミュの冒険者カードを取りに来たにゃあ」

「それからランク試験だ。あたいはそれを楽しみで来た! さあて、どんな戦いをするんだ、アーク・ウィザードっていう大魔導師野郎はよ!?」

「ほらほら、みんな興奮しないの。アーク・ウィザードのコミュさんは逃げませんから」

「…………う、うそ?」


 約一名おとなしいが気にしない。

 あっ、受付嬢さんは昨日と同じ人だ。

 へえ、ララって言うのか。

 ちょっとオドオドしてた人。でも、俺をなかなか冒険者に登録してくれなかった厳しい受付嬢さんでもある。

 うん、今日もオドオドしてるな。


「ミ、ミーシャ。コミュさんってもしや昨日の……」

「そうにゃ。そこにいるコミュにゃ」

「ひっ!」


 ミーシャが俺を指差すと受付嬢のララさんが顔をひきつらせた。

 何故だ?

 俺は何もやってない。


「あ、あの、強かった魔法使い冒険者チーム『タマタマ』とギルマスのシェケナさんを人知れず殺害した……あのコミュさん?」

「そうにゃ」

「ああ、そうだぜ!」

「凄かったですねえ」

「………………う、うそ」

「いいえ、違います」


 キッパリと否定した。

 でも、聞いちゃいねえ。

 受付嬢のララさんがウンウンと頷いている。

 いや、あなたも昨日見てましたよね?

 奴らは生きてますよ。


「ララ、そんな些細な事はどうでもいいよ。そんなことより早くコミュの冒険者カードをくれ。そして、ランク試験をたのまあ!」

「は、はい。ただちに」


 なぜかグレタの仕切りで事が進む。

 おい、グレタ。本当に殺人事件が起きたんなら、それは些細な事じゃねえからな?

 そんなにランク試験が見たいのか?

 まあ、俺も気にはなってるけど。

 確かランク試験は難しい実技試験と簡単な口頭試験があるんだっけ?

 魔法職の実技って何するの?


「で、では、冒険者カードをお渡しする前に実技試験があります。地下一階の闘技場までお願いします。そこに担当者がいるはずですから」

「分かったにゃあ」

「よし、腕がなるぜ!」

「グレタの試験じゃありませんよ?」

「…………大魔導師とか絶対にウソよ」


 ほう、ギルドの地下には闘技場があるのか!

 凄いな。

 ちょっと中二病が再発しそうだ。

 俺は皆と一緒に地下へ向かう。

 そこは小さな町の剣道場くらいの広さがある闘技場だった。

 うん、この程度の広さがあれば戦えるか?

 そんなことを思ってたら闘技場の奥に人影が見えた。


「あっ、誰かいるにゃ!」

「たぶん、試験官だろ?」

「三人います。あれ、一人は副ギルドマスターのキリン様ですね」

「んなっ!?」


 確かに三人の内の一人はキリンだ。

 約一名、何故かキリン達を見て驚いてるか気にしない。

 さて、残る二人は……


「げげっ、あの二人は!?」


 俺が残る二人を確認し今度はこっちが驚いた瞬間、朗々たる精霊魔法の詠唱が始まった。


「レプラコーンよ、混乱の精霊よ。あのオーガの心をかき乱すのを手伝って! フューコンフューコン、エルエル、ニメーエル。乱れよ、心……」


 エルフのサーシャの声だ。

 おっ、今度は火属性魔法じゃない。

 よし、面白いから静観しとこう。

 攻撃目標はキリンの横に立っているオーガだしね。


「さあ、行ってレプラコーン! あいつの頭の中で踊っておやり!」


 呪文が完成した。

 さて、エルフ令嬢の魔法はあのオーガに通用するか?


「マナドレイン」


 オーガの冷静な一言。

 いや、本当は違うけど何となく。

 とにかく、オーガに似た男が放ったのはマナ、つまり魔力を吸収する魔法である。

 俺がサーシャにかけた魔法と同じ。

 エルフはまたしても魔法が防がれた。

 そして……


「くぁwせdrftgyふじこlpーーーーーーーー!」


 サーシャご乱心。何言ってるか全然分からん。


「ガハハハハ、なんだコミュショー。お前、パブロフ家の令嬢と知り合いか?」

「あらあら、サーシャさんは相変わらず元気ねえ」

「コミュ・ショーリナ君。もう仲間を見つけたのかね。感心な事じゃな」

「シゲイズ副宰相、キリン副ギルドマスター、そしてガブリエル学園長……」


 俺は何故か冒険者ギルド地下闘技場に登場した三人を見回しこう言った。


「一身上の都合により退職します!」


 絶対に何かある。やってられるか。


「何であの時のオー、くぁwせdrftgyふじこlpーーーーーーーーーー!」


 そして、サーシャ。まじ、五月蝿い。

 何故、お前が混乱してる?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る