第18話 喜怒哀楽エルフ

 冒険者チーム『妖精女王ティターニア』のリーダーであるエルフ貴族令嬢アレクサンドラ。通称、サーシャ。

 早速、彼女と会えたのは良かったが、俺の理想のエルフ像とはかけ離れてて戸惑っている。

 もっと、こう、冷静沈着な気品のあるカッコいい大人の女性をイメージしてたんだけどねえ。


「イヤイヤイヤイヤ、イヤーーーーーー! 防御魔法怖い防御魔法怖い防御魔法怖い防御魔法怖い防御魔法怖い防御魔法怖い防御魔法怖い防御魔法怖いコワーーーーーーイ!!」

「ああ、もう、五月蝿いにゃ!」

「何で、ここまでビビるんだ?」

「サーシャの発作は長いですから。困りましたねえ」

「あっ、外が明るくなって来ました。朝食の準備をしてきますね。今日は何にしようかしら?」


 メイドのチュアラがそんなことを呟きながら台所へと向かう。

 パニックエルフとの差がすごい。チュアラだけじゃなく、みんなも落ち着いてるよなあ。

 慣れかな?


「ところで、もう、朝だけどコミュはこれからどうするにゃ?」


 チームの斥候役である猫獣人のミーシャが俺に声をかけてきた。


「そうですね。いったん魔法学園に戻ろうかと」


 色々あって疲れたから。寮の俺の部屋でぐっすり寝たい。


「おいおい、コミュ! 冒険者カードのこと忘れてねえか?」


 ここで女戦士グレタのツッコミが入る。

 ああっ、忘れてた。

 そういや、昨日副ギルマスのキリンがそんなこと言ってたな。めんどくさい……


「そうですよ、コミュさん。冒険者カードを渡される日はランクを決める大事なテストがあります。今日は絶対に冒険者ギルドに行かなきゃいけません」


 ほう、冒険者カードをくれる時にランクを決めるのか?

 新人なのにGからじゃないんだったな。不思議だ。


「ああ、コミュはどのランクになるのかにゃあ? 楽しみにゃあ!」

「絶対にBは行くだろ! なにせ魔術師メイジだけの冒険者チーム『タマタマ』の奴らを瞬殺したんだからな!」


 いや、だから殺してないって……

 内心、グレタに反論するも声には出さない。

 もう、諦めの境地だ。何度言っても聞いてくれないんだよなあ。


「でも、コミュさんは魔道士ソーサラーであるギルマスのシェケナも吹き飛ばしました。本部からいらした副ギルマスのキリン様は『これで問題児を処分できる』と喜んでましたからねえ。Aランクの可能性もありますよ?」


 どんだけ悪さしてたんだよシェケナ……

 タマタマのおっさん達といい、冒険者の魔法使いが悪すぎるぞ。

 まったく、王立魔法学園では『魔法使いたるもの常に紳士であれ!』って、どこぞの読〇巨人軍みたいな校則があるってのに。

 魔法使いよ、紳士たれ! みたいな。

 そんな会話を続けていると、さっきまで泣きわめいてた子供エルフが泣くのをやめてこちらを見ていた。


「┅┅ええっと、何かな?」

「今、シェケナぶっ殺したって……」

「殺してませんよ。転移魔法で移動しただけです」


 まあ、飛ばした先はフレディ教授の実験棟。通称、モンスター牧場の空いてた檻おり。周囲には巨大魔獣もいるからきっと楽しんでくれてるだろう。


「転移魔法?」


 おっと、エルフのお嬢様は転移魔法をご存じないか。


「ええ。対象を強制的に瞬間移動させる魔法ですよ。もちろん、自分にかけることもできます」


 簡単に説明してやる。さらにミーシャが追加してこう言った。


「それだけじゃないにゃあ。コミュは空も飛べるにゃ!」

「えっ、空も飛べる?」


 ちょっと、口を半開きにして唖然としてる子供エルフが可愛い。


「そうだぜ。スーっと空に上がって下りてきたんだ!」

「あれはお見事でしたねえ」


 続けて発言するグレタとマリエ。

 やっぱり飛行魔法はインパクトがあったみたい。披露して良かった。

 だが、サーシャはまだ理解が追い付いてない様子。


「……う、嘘だよね?」

「いえ、本当です」


 エルフのお嬢様が今度は目をカッと見開き俺を睨む。

 うーん、エルフなのに喜怒哀楽が激しいよなあ。この子は本当に面白い。


「いいえ、嘘よ! だって飛行魔法フライは超級魔法だもん!」


 おっと、こっちは知ってたか。まあ、飛行魔法フライは物語にもよく出てくる魔法だしね。


「あたしは見たにゃ」

「あたいもこの目で見たぜ!」

「ええ、私も同じく見させていただきましたよサーシャ」


 みんなの証言にも首を振る少女エルフ。

 絶対に認めたくないようだ。

 そして、座っていたソファーから立ち上がると皆を見回し力説する。


「みんな知らないの? 飛行魔法が使えるのは大魔導師アーク・ウィザードだけなのよ! 大魔導師はそうそう簡単になれるもんじゃないわ。努力だけでは不可能。そう、とてつもない才能が必要なのよ! それをこんな痴漢が……」


 ひどい評価だな。だいたい俺は痴漢じゃねえし。

 反論しようと思ったが他のメンバーが言ってくれた。


「知ってるにゃ。コミュはアーク・ウィザードにゃ」

「知ってるぜ! コミュはアーク・ウィザードだ!」

「しってますよ、サーシャ。コミュさんはアーク・ウィザードです」


 サーシャの言葉に当然のように返すミーシャにグレタにマリエ。よし、俺もこの波にのっておこう。


「あっ、自己紹介が遅れました。俺は王立魔法学園の第十学年生で大魔導師であるアーク・ウィザードのコミュ・ショーリナと言います」


 エルフのサーシャはそれを聞くと、一呼吸おいてからこう言った。


「 くぁwせdrftgyふじこlp」


 いや、なに言ってるかわかんねえよ。

 そして、サーシャはソファーへ背中からダイブ。


「あっ、気絶したにゃ」

「またかよ!?」

「サーシャは自分より上の魔法使いが苦手なんですよねえ」


 めんどくさいエルフだなあ。

 エルフ好きの俺もドン引きしてた時、メイドドワーフのチュアラから声が聞こえた。


「みなさーん、朝食の準備ができましたー」


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