第17話 パブロフのエルフ
「こんないやらしい男をチームに入れるのは反対よ!」
まだ、夜明け前だというのに俺と冒険者チーム『妖精女王ティターニア』の面々は打ち上げパーティーをした客間に集っていた。
議題は俺のチーム加入の是非ぜひ。いや、加入したいとか一言も言ってないけど、何か流れでこうなっていた。
でも、強硬に反対するエルフが面白いから黙っておこう。
しかし、サーシャことアレクサンドラは本当に綺麗だ。
リアルな球体関節人形?
前世の知識じゃそんな感じ。
まあ、まだ子供みたいだから恋愛対象にできないのは残念ではあるが。
いや、待てよ。ここは異世界。
歳の差なんて気にする必要は……
なんて思ってたら、みんながこんな事を言い出した。
「えー、確かにコミュはエッチだけど、許容範囲と思うにゃよ?」
「許容するな、ミーシャ!」
「ああ、そうだな。コミュはスケコマシではあるが、良いスケコマシだ」
「グレタ、性犯罪者に良いも悪いもないんだぞ!」
「そうですよ。コミュさんは素晴らしいエッチな人です。だいたい、サーシャがコミュさんの寝ているベッドに潜り込んだのでしょう?」
「あたしのベッドだ! 潜り込んで何が悪い? あと、マリエ。素晴らしいエッチな人は誉め言葉じゃないぞ?」
「しかしよう、普通、ベッドに大の男が寝てたら気付くよなあ?」
「うぐっ……」
「だいたい、メイドのチュアラも気付かなかったって事は、どうせドロボーみたいに窓から入ったにゃ?」
「あたしの部屋だ! 窓から入って何が悪い?」
「ダメですよ、アレクサンドラ様。あなたはエルフ王国の歴史ある貴族、パブロフ家の御令嬢なのです。もっと品のある振る舞いをしてくださいませ」
「うぐっ……」
「あと、全裸にならないと眠れないのも如何なものにゃ?」
「知ってるか? サーシャはトイレでも全裸になるんだぜ? あたいは見た!」
「サーシャ、それはちょっとはしたないですよ?」
「アレクサンドラ様は子供の頃からそうでしたもんね」
「ぐぬぬぬっ」
貴族エルフ様、フルボッコ。
正式名称は、アレクサンドラ・フォン・パブロフ。
歳は俺よりは上っぽいが見かけはまだ子供。長命種のエルフあるあるだね。
日本で言えば合法ロリか。
良いよねえ、高貴な生まれのエルフお嬢様。
あれ、でも、なんか王立魔法学園の副学園長にして王族でもあるレオ様に扱いが似てるな。
意外と気が合うやもしれん。
最後になったが俺がエッチなのは規定路線なの?
解せぬ……
「ところで、サーシャの目的は果たせたの?」
神官のマリエが話題を変える。
すると、エルフのアレクサンドラ(通称サーシャ)が悔しそうに首を振った。
「ダメだ。冒険者ギルド世界本部に掛け合ったが相手にしてくれなかった。カーレン王国王都冒険者ギルドのギルドマスターはすぐ変わるから待てと言われただけだ」
「良かったじゃない!」
「ふん、信じられるか」
話の流れからすると、王都冒険者ギルドのギルマスを変更してもらいにサーシャは旅に出てたのか……
しかし、また何で?
要望書とか送れば良かったのに。
貴族なら羊皮紙代とかもあるんじゃね?
「ちょっと、ギルマスのシェケナにケツ触られたくらいで旅に出やがってよう。こっちは冒険できなくて苦労したぜ!」
「うぐっ……」
「サーシャは箱入り娘にゃあ。男に免疫がないからちょっとした事ですぐキレるんだにゃあ」
「うぐぐっ……」
「それに、自分の魔法を防がれるとすぐに取り乱すのも直さなきゃいけませんよ、サーシャ?」
「うぐぐぐっ……」
「アレクサンドラ様は御幼少の砌みぎり、オーガだと勘違いした人間の男に向け一番自信のある精霊魔法を放ったのですが、見事に防がれた挙げ句に身体中を触られまくった経験があるとお聞きしたことがございます。なので、魔法を防がれるとその事を思い出すのでしょう」
メイドのチュアラが可哀想に、といった目で主人を見てるが……
可哀想なのはオーガに間違えられた人間の男じゃねえか?
「ギルマスのシェケナとやった時は、防御魔法で防がれてはいたがダメージは与えてたのによう。防がれた途端にすぐ逃げ出しやがって」
「本当に頼りにならないリーダーにゃ」
「残された私たちは大変だったんですよ?」
「まあまあ、皆さん。ヘタレなアレクサンドラ様いじりはそれくらいで」
「うぐぐぐぐっ!」
再びエルフの貴族様がフルボッコ。
ちょっと面白い。
「そういや、あのあとシェケナがサーシャの冒険者資格を剥奪するとか言ってなかったにゃあ?」
「ああ、あれか? そういや、どうなったんだ?」
「大丈夫ですよ。冒険者ギルド世界本部から来ておられたキリン様に確認したら、Aランク冒険者はギルマス権限では資格剥奪とかできないんですって。そこは世界本部が管轄みたい。だから、サーシャは大丈夫ですよ」
「良かったですね、アレクサンドラ様」
「……うん」
あっ、エルフがちょっとだけ素直になった。
しかし、俺との魔法戦であんなに取り乱したのには理由があったのね。
魔法を防がれるとトラウマが発動するのか……
いわゆる条件反射ってやつ。
なら、いっそのこと魔法使うの止めたらいいのに。
「いっそのこと、魔法使うの止めたらいいにゃ」
おっと、猫獣人のミーシャが俺と同じ意見だ。
「少なくとも、対人戦での魔法はやめとけや」
グレタの言葉も一理あるな。対人戦で魔法が防がれるからパニックになるんだろうし。
「サーシャは弓も得意ですしね」
そういや、精霊弓士って言ってたっけな?
「絶対に嫌だ。あたしはエルフ王国随一の精霊魔法使いになるんだもん!」
そう言うと彼女はまた精霊魔法の呪文を唱え始めた。
「サラマンダー! あたしの友達。小さな火の精霊よ……」
こいつ、また火の精霊呼び出そうとしてやがる。
室内ではやめろっての。
「マナ・ドレイン!」
俺は再び魔力吸収の魔法を使った。
みるみる精霊サラマンダーは消えていき……
「アンギャーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
エルフの絶叫が鳴り響く。
本当に条件反射のようだ。
さすがはパブロフの犬エルフ。
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