第14話 打ち上げ(本番)

 グレタとメイドのチュアラが持ってきた料理は、当然ながら異世界風味に溢れたものばかりだった。

 まず、ドカンとテーブル中央に置かれた大皿には干した果物とナッツ類が山盛りになっている。

 ブドウ、イチジク、ナツメヤシみたいな異世界果実を乾燥させたもの。

 ナッツ類はアーモンドやクルミによく似たものが添えられていた。

 果実を乾燥させるのは日持ちさせるためだ。これ、カーレン王国じゃあ定番のつまみ。


 異世界にも冷蔵庫はあるのだが、それは全て魔道具であり高価な品々。

 普通の平民が持てるものじゃない。

 だから、乾き物が多いのは異世界飲み会では当然の事だった。


 と、思いきや。その横の皿には生の果物があるーー!

 バナナやマンゴーやリンゴっぽい異世界果実がそのまま置いてあるぞ。ちょっと触ってみたが冷えている。

 これは常温ではあり得ない冷たさだ。

 そっか、冒険者チーム『妖精女王ティターニア』は冷蔵庫の魔道具を持ってたか!

 たしかに、稼いでそうだもんな。


 いやいや、それどころかチームリーダーのアレクサンドラ(通称サーシャ)はエルフの貴族令嬢だった。

 お金持ちの貴族様なら魔道具の一つや二つ持っていてもおかしくない。

 うん、これだけでそこらの飲み屋とは比べ物にならない豪華さだわ。


 さて、別の大皿には魚介類が乗っている。

 白身魚の塩焼きに大きめの貝を蒸したもの。そして、海の魔物クラーケンの揚げ物が鎮座してた。

 そう、クラーケン。俺が転生して過去の記憶を取り戻し、初めてこの名を聞いた時はワクワクしたもんだ。

 母親が「今日はクラーケンと里芋の煮転がしよー」とか、父親が「今日は市場でクラーケンの足を売ってたから買ってきたぞー」なんて会話を聞くとテンションが上がったもんだよ。


 異世界キターーーーーーーー! って、感じ。

 でもね、ある程度大きくなると気付くんだな。

 あれ、これ、ただのイカじゃね? ってさ。

 カーレン王国のクラーケンって、二メートルくらいのイカみたいな魔物なんだよ。

 大きくなっても四メートル。

 微妙な大きさ。

 十メートルを余裕で越えるドラゴンや巨人族に比べると、どうしてもね。

 しかし、食材としては一級品だ。

 イカゲソならぬクラーケンゲソの揚げ物なんて超美味いんだから。

 更に別の皿に目を移すと、そこには肉料理が並んでいた。

 オーク肉のしょうが焼き。コカトリスの唐揚げ。ミノタウロスのステーキ。一角ウサギの串焼き。

 どれも、異世界ならではの食材。うまそうだ。


「じゃあ、早速やるにゃあ!」

「そうだな。乾杯の音頭はコミュでいいか?」

「そうね。なんと言っても大魔導師(アーク・ウィザード)のコミュさんが冒険者になったお祝いですからね!」

「わあっ、コミュさんは大魔導師なんですねえ。凄いです! ぜひお願いします」


 そんなこと言いながら、各自陶器製の自分のコップに好きな酒を注いでる。


「コミュはあたしと同じにゃー」

「あっ、はい」


 どうやら俺は半強制的にミーシャと同じキュケオンみたいだ。隣に座られた時点でこうなるかなと思ってたよ。

 グレタはエールを、マリエとチュアラは赤ワインのようだった。


「ご指名を頂きましたので不詳コミュ・ショーリナが音頭をとらせていただきます。ええー、冒険者チーム『妖精女王ティターニア』の皆さんとメイドのチュアラさんの御親切に心から感謝し、これからも我々の良い関係が続くことを切に願いつつ、乾杯の挨拶とさせていただきます。では、乾杯!」


「「「「かんぱーい!」」」」


 皆、勢いよくコップの酒を空ける。

 良い飲みっぷりだわ。俺は一口で挫折。

 キュケオンはウイスキーレベルの強い酒だからね。

 チビチビやろう。


「コミュー、もっとグイッといくにゃあ。グイッとー!」

「あははは、イヤです」


 猫獣人のミーシャがもう絡んできています。

 俺はこの異世界ではまだ十六歳。アルコール分解能力はまだまだ低いはず。無理はしたくないのだよ。

 というか、ミーシャは俺と同じくらいの年齢のように見えるが……

 キュケオンみたいな強い酒をイッキ飲みして大丈夫なのかよ?


「おい、コミュ。あたいの酒が飲めねえってのかー!?」


 今度は女戦士のグレタだ。

 まったく、相手が美女だから許せるがおっさんだったら間違いなくアルハラだぞ?

 グレタはエールがお好みのようで、あっという間に三杯飲み干し四杯目を自分のコップへ入れていた。

 ついでに俺のコップにも入れようとしてやがる。

 駄目だ駄目だ。さすがにキュケオンとエールのブレンドは無いだろう?

 元日本人の感覚で言えば、ウイスキーにビール入れる感じだ。

 あれ、ウイスキーとビール……

 そんなに悪くないのかな?

 うーん、前世の引きこもり時代はあんまり酒に興味なくてよく分からん。

 ちょっと、試してみようか。


「じゃあ、グレタさん。少しだけください」

「よーし、コミュー、良い心がけだー」


 キュケオンが半分以上残る俺のコップにグレタがエールをドバドバ入れる。

 あ~あ。完璧に混ざっちゃった。

 おい、こぼれたぞ!

 この酔っぱらいめ。

 気を取り直して、まずは一口。


「おっ、けっこうイケるかも」

「そ、そうにゃ?」


 まあ、酒精が強いキュケオンがエールのおかげで飲みやすくはなったな。

 味はそんなに美味くはない。

 キュケオン好きのミーシャが変人を見るような目で見てるが、気にせずどんどん飲もう。


「それにしても、コミュさんの魔法は凄いですよねえ。あの魔術士(メイジ)だけの冒険者チーム『タマタマ』を一瞬で消し去るなんて!」


 赤ワインを上品に口へ運びながら、神官のマリエが先程の事件に触れてくる。

 あの、いちおう言っときますが消し去ったわけじゃないですよ?

 あくまで、転移魔法。移動させただけ。


「そうにゃ! コミュは魔法の天才にゃあ」

「よし、今日からコミュはあたいらの仲間だ」


 ミーシャとグレタが楽しそうに会話してる。

 働かなくていいなら喜んで……なんだけど。

 そうはいかんだろうな。


「しかし、ギルマスのシェケナも消えたのは最高だったな! あいつは自分が魔道士(ソーサラー)な事を鼻にかけてたからよう。いつか痛い目見せてやりたかったんだ!」

「そうにゃそうにゃ。シェケナはギルドで会うと絶対に尻尾に触ってくる嫌な奴にゃあ」

「私もよくお尻を触られてました!」


 うわあ、ギルマスが一番風紀を乱してたのか……

 そりゃ、タマタマとか言うおっさん冒険者チームがああなる訳だ。


「だけど、もうあいつらはいねえ!」

「そうにゃ。もう心配いらないにゃ」

「ええ、コミュさんが悪を滅ぼしてくれたおかげです。これで、王都冒険者ギルドも良い方へ変わるでしょう」

「良かったですねえ」

「……いや、待って」


 なんか、ギルマスのシェケナと冒険者チーム『タマタマ』がもういない事になってるんだが?


「ええっと、彼らはまだ生きてますからね?」


 俺が王立魔法学園に戻ったらモンスター牧場に転移させた彼らを解放してやろうと思ってたんだけど。


「にゃはは、もう死んだも同然にゃあ」

「そうだぜ。シェケナはギルマスを解雇されるし、タマタマの奴らは冒険者カード剥奪の上で王都から追放らしいぜ?」

「新しいギルドマスターはまだ若い魔法使いになる予定だとキリン様が言っておられました!」


 ええっ?

 何言ってんのかよく分からん。

 いや、ギルマスのシェケナを始め不良冒険者チーム『タマタマ』の奴らはクビってこと?

 今回の件で?

』行動早いな。

 なら、俺も連座してクビになるのかもなあ……

 別に良いけど。


「まあまあ、堅苦しいお話はまた今度にして、今はコミュ様の冒険者登録祝いをいたしましょう。コミュ様、飲んでばかりじゃなく料理もたんと召し上がってくださいね?」

「おお、そうだコミュ。この貝の蒸したやつは、あたいの自信作だ。じゃんじゃん食ってくれ!」

「あたしは白身魚の塩焼きがオススメにゃあ」

「定番ですけど、オーク肉のしょうが焼きも絶品です」


 こんな感じで俺の就職決定を祝う打ち上げパーティーは進むのだった。

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