第11話 就職決定?
王都冒険者ギルドの副ギルドマスターはキリンさんという女性だった。
白髪混じりの黒髪を上品に束ねている。体型は中肉中背、だがしっかりと筋肉は付いてそうで動きもキビキビと軽やかだ。
なんでも、過去にはSランク冒険者として活躍した剣士だったそうな。
落ち着きある佇まいと面倒見の良さで多くの冒険者から慕われる姉さん的な存在だったとか。
それは今でも変わっていないようで、残されたギルド職員や冒険者がキリンの動向を見守っているようだった。
「キリン様、コミュは殺人罪に問われるにゃあ?」
猫獣人族で盗賊(シーフ)のミーシャが不安そうに尋ねる。
「まあ、あたいはコミュの弁護してやるがな!」
「私もですよ、コミュさん。あれは絶対に正当防衛で無罪のはず!」
戦士のグレタと神官のマリエが何故か気合い入ってる。
いや、殺してないんだって。
なんだか、話が大袈裟になってきたな。
早めに誤解を解いておこう。
「ああ、皆さん。勘違いしているようですが、あれは転移魔法と言って場所を移動させただけですよ? もちろん、殺してなんていませんから」
「あら、そうなの? 私は現場を見てないから分からなかったけど……」
「キリン様。コミュは今動揺してるにゃあ」
「そうだそうだ。キリン姉さん。コミュの嘘を許してやってくれ」
「キリン副ギルドマスター。偉大なる女神ルナ様はこう言われました。『あなた方の言葉が常に塩で味付けた物であるようにしなさい。嘘も方便なのですから』と。コミュさんの言葉は嘘かもしれませんが、それは味のあるジョーク。あるいは、生き残るために必要不可欠なものだったのです。なにとぞ、寛大なる御慈悲を」
こいつら、どうしても俺を殺人犯にしたいらしいな。
よし、ならば証明してやろうじゃねえか。
俺の無実を!
「戻ってこい、おっさん達。転移!」
俺の一言で魔法が発動する。冒険者ギルドの床に魔法陣が現れ、すぐさま四人の男が出現した。
「ギャアーー! もういやだ、ここから出してくれーー!」
「死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ、死んでまうーーーー!」
「おで、死にたくない。おで、死にたくない。おで、死にたくない。おで、死にたくない。おで、おで、おで、死にたくなーい!!」
「シェケシェケシェケシェケシェケシェケシェケシェケシェケシェケシェケシェケシェケ、シェケナベイビーー!!」
「おっと、いかん。転移っと」
俺は再び転移魔法で四人を戻す。
タマタマのおっさん達とギルマスのシェケナはまたしても消えた。
まあ、ちょっと精神に異常が見られたが……
これで彼らが生きているのは理解しただろう。
俺は副ギルドマスターのキリンと、妖精女王ティターニアのミーシャとグレタとマリエの三人に向けて頷いてみせた。
ねっ、生きてたでしょ?
こんな意味を込めて。
だが、彼女達の反応は俺の予想とは正反対だった。
「こ、これは凄まじいですね……」
「キリン様。コミュをコミュを助けてあげてほしいにゃ!」
「キリン姉さん。あたいからも頼む。コミュは本当は良い奴なんだよ」
「そ、そうです。根は良い人なんです。ちょっと、危ない所は私達『妖精女王』が責任を持って管理しますのでなにとぞ寛大なる処置を!」
ええっ、今見たよね?
みんな生きてたよね?
それなのにどうして、俺まだ殺人犯的な扱いなの?
そりゃあ、送り込んだ先は素人にはトラウマ級のおっかない場所かもしれないけどさあ。
一応、安全には配慮してるんだよ?
それなのに、この対応はちょっとなあ……
解せぬ。
「コミュさん。冒険者ギルドは国際的な組織であることはご存じですよね?」
俺が少しビビってると、お上品なお婆ちゃん(キリン副ギルドマスター)が尋ねてくる。
「え、ええ。もちろん知ってます。各国の取り決めで冒険者が国家を跨ぐ移動も許されているくらいですから」
そうなのだ。
なんだかんだ言って冒険者は便利な人材。
国によっては騎士団より冒険者の方が頼りになる所もあるらしい。
だから、国家間の移動も平民に比べるとはるかにスムーズだという。
ちょうど、地球で言えばパスポート的な物がこっちの異世界にもあるのだが、冒険者には必要ない。冒険者カードと呼ばれる身分証だけで事足りる。
そのくらい、国際的に認められてる組織だった。
まあ、ここカーレン王国は大国であり魔法使いの人材も豊富なので、冒険者はどうしてもブルーカラー的な職業という認識なのだが……
「その通り。そして、あなたは冒険者四人。それも一人は冒険者ギルドのマスターを魔法で飛ばしてしまいました。恐ろしい場所へと」
「あ、あの、連中を転移させたのは王立魔法学園の敷地内にあるモンスター牧場ですよ? そこまで恐ろしくは無いと思うのですが」
そう。俺が奴等を転移させた先は通称モンスター牧場。
王立魔法学園の魔物調教、いわゆるモンスターテイム学のフレディ教授が管理する実験棟だ。
色んな魔物がいて俺は大好きなんだけど、ほとんどの学園生には不評の場所。
魔物嫌いな人間は発狂してしまうらしい。
さっきのギルマスのシェケナやタマタマのおっさん達のようにね。
ほんと、失礼だよ。みんな結構可愛いのにさ。特に爬虫類型モンスターはメチャクチャ可愛いと思う。
「とにかく、このままでは冒険者ギルド本部が黙っていない可能性があります。されど、あなたは大国であり冒険者ギルドへも多大な援助をしてくださっているカーレン王国が認めた大魔導師(アーク・ウィザード)。あなたと揉めるのは流石に不味い。さりとて、冒険者ギルド本部にもメンツが……」
副ギルドマスターのキリンが眉間にシワを寄せて話す。
そっか、俺は気楽な学園生気分でいるけど端から見ればカーレン王国の重要人物の一人になるのか。
迂闊な行動は慎まないといかん。
反省しないとね。
超級魔法使ったのはやりすぎだった。
せめて、上級魔法におさえときゃよかったよ。
よし、次回からはそうしよう。
「じゃあ、じゃあ、どうすれば良いにゃあ?」
「コミュはやっぱ死刑なのか?」
「そんな……あんまりです!」
いや、死刑は無いだろ。
俺は内心突っ込みの嵐だ。
あの程度で死刑とか、何処の独裁国家だよ?
「問題は彼が部外者な事です。冒険者ギルド本部は他所からの干渉を嫌いますからね。でも、もし、コミュさんが身内ならば問題ありません。ただの喧嘩として処理されます」
「おおっ、それはよかったにゃ! コミュはもともと冒険者になりにここへ来たにゃあ」
「あら、そうなの?」
「ああ、あたい達はそのための付き添いさ」
「まあ、それは嬉しいわ」
「なんと言ってもコミュさんは大魔導師ですからね!」
「うふふ、そうね。じゃあ、さっそく手続きしちゃいましょう。コミュさん、それにティターニアのみんなも付いてきてちょうだい。机と椅子がある場所へ案内するわ」
あれ?
トントン拍子に話が進んでる。しかし、さっき受付嬢さんには面接で渋られてたんだけど……
ま、いっか。俺は先へ進む四人の女性に付いていった。
案内されたのは冒険者ギルドの二階。かなり豪勢な部屋。
奥には大企業の社長でも座りそうな机と椅子。
その手前にソファーとテーブル。
おっと、眼鏡をかけた秘書っぽい人とメイドさんまでいる。どっちも美人だ。
妖精女王ティターニアの面々はソファーに座らされ、俺は一番奥の社長椅子に案内された。
秘書さんが俺の後ろから体を密着させて色々世話をしてくれる。
あっ、胸けっこう大きい。
ペンとか取ってくれたり、もうサイコーだわ。
「今、冒険者登録用の紙を持ってくるわね。それまでは紅茶でも飲んでてちょうだいな」
そう言うとキリンはいったん部屋を出た。
いやあ、スゲーな冒険者ギルド。
冒険者登録するのに、こんな豪勢な部屋を使わせてくれるのか。
「どうぞ、マスター」
「あ、どうも」
いつの間にかメイドさんが紅茶を入れてくれてた。
しかし、マスターか。これ、日本のメイド喫茶で御主人様って呼ばれるみたいなもんか。
良いねえ。異世界に来たって感じがするわ。
俺は内心の喜びを悟らせないように紅茶をすする。
「コミュはやっぱりメイドが好きみたいにゃ」
「秘書にも色目使ってやがったぜ! あいつはぜってえスケコマシだな」
「コミュさん、エッチな事はいけないと思います!」
いやいや、何故そうなる?
俺は単に妖艶な秘書さんのお世話に感謝したり、可愛いメイドさんが入れた紅茶を楽しんでるだけ。
エッチな事はしてないからね。
「こんど、リーダーにメイドの格好をさせるにゃあ!」
「そいつはいい。コミュはエルフ好きのメイドフェチだもんな。ぜってえ堕ちるぜ」
「コミュさんをチームに迎え入れるためです。サーシャに頼んでみましょう」
会ったこと無いけど冒険者チーム妖精女王ティターニアのリーダー、エルフのアレクサンドラ。通称サーシャさん。
なんか凄く可哀想な人なのかも……
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