第10話 冒険者登録は難しい

 冒険者で溢れかえる冒険者ギルド。

 さっきまで、色々と騒がしかったのに今はだいぶ静かになっていた。

 まあ、その理由の大半は俺のせいなんだろう。

 そこかしこから、ひそひそ話が聞こえてくる。


「おいおい、どうなったんだ『タマタマ』の奴ら?」

「分からん。突然消えたとしか言えん」

「見ろよ、あいつの服。ありゃ王立魔法学園の制服じゃねえか?」

「何で魔法学園の生徒が冒険者ギルドなんかにいるんだ?」

「あの女だけの冒険者チーム『ティターニア』と仲良さげだよな」

「ひょっとしたらあいつ、ティターニアを専属冒険者として雇ってるんじゃねえか? 貴族っぽいし」

「なるほど。美人冒険者チームとの愛人契約か。これは有り得るな」

「それだ! そんで自分の女にちょっかいかけた『タマタマ』の奴らを皆殺しにしたと……」


 全然違う。

 なに、その羨ましい契約。

 童貞ヒキニートには想像もできん生活様式だ。

 まあ、魔法学園の学園生には貴族の子弟が多い。

 当然、貴族には金もあるわけで、俺が冒険者チーム『妖精女王ティターニア』を金で雇ったと勘違いするのも分からなくは無い。


 だが、あの『タマタマ』なる冒険者チームのおっさん達は生きてるぞ。

 とある場所に転移させてやっただけ。

 危険な所だが、死ぬことはなかろう。

 というか、冒険者ってそんな簡単に殺し合うの?

 怖いわあ。

 俺のイメージしてた冒険者と違うわあ。

 冒険者になったらすぐに辞めよう。うん、そうしよう。

 俺がそんなことを考えていたら、ギルドの奥から偉そうな男が登場した。


「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい、おいぃぃぃ! 俺の弟分『タマタマ』を痛い目にあわせたってガキはどいつだーー!?」


 周りの冒険者が「ギルマスのシェケナだ」とか「そういや『タマタマ』はシェケナのお気に入り」とか「こりゃ血を見るぞ」とか「キリンの姉さん呼んでくるか?」とか噂話してる。


 どうやら、あの男が王都冒険者ギルドのマスターであるシェケナで間違いないようだ。

 だが、この男が着ているローブに違和感を感じる。

 黒地に金の刺繍が入ったローブ。

 ええっ!?

 たしかギルマスのシェケナって王立魔法学園を卒業できなかったんだよな?

 つまり、大魔導師(アーク・ウィザード)どころか魔導師(ウィザード)にすらなれなかったわけだ。


 だって、魔法学園の卒業生には魔導師(ウィザード)の資格が必要で、魔導師の資格を持った学園生が中退したとか聞いたことないもん。

 だから、シェケナはまず間違いなく魔道士(ソーサラー)だ。

 そんな彼が黒のローブ。うん、変だね。


 実は、これカーレン王国では大魔導師(アーク・ウィザード)以上しか着ないローブなんだ。魔導師(ウィザード)でも着ない。

 黒のローブは高位魔法使い専用なのだわ。

 まあ、昔から続く習慣みたいなものだ。法律で決まってるとかではない。

 一応、誰でも着れるんだけど常識のある人は着用しない。

 そんな服なんだよね。

 分かりづらいかな?

 うーん、例えて言えば……


 平安時代に宮中で公家の女性が着ていた十二単衣(じゅうにひとえ)みたいな感じかな?

 今でも皇室の行事とかで皇族の皆さんが着る分には違和感無い。

 けど、もし中継の女性アナウンサーとかが着てたら違和感だらけ。

 ちょっ、おま、頑張りすぎ(苦笑)。

 まあ、こんな感じ。

 大魔導師(アーク・ウィザード)でもない、ただの魔道士(ソーサラー)なのに黒のマントは苦笑いしかでないよ。 


「貴様か!?」


 ついにギルマスのシェケナが俺の前にきた。第一印象はやせ形で眼光鋭いお爺ちゃん。

 白髪頭をオールバックにしてて気合いが入ってる。

 黒のローブと合わさって、劇場の悪役大魔導師を演じる俳優に見えなくもないな。


「お前が……」

「……はい?」


 俺の前で仁王立ちになって問い詰めようとしてたのに、急に押し黙るシェケナ。

 どうした、お爺ちゃん?

 まさか発作か!?


「その服……」


 あっ、大丈夫そうだ。だが、シェケナは俺の服をガン見してるだけ。


「王立魔法学園の制服ですが、何か?」


 俺の返答にシェケナは目を丸くする。


「……お前……魔法学園……学園……生?」

「はい、もうすぐ卒業です」


 何てことない日常会話。

 そう思ってた。

 が、次の瞬間。

 目の前にいるシェケナの魔力が胎動するのを感じ取った。

 あっ、これ魔法を使うな。俺は即座に身構える。


「万能なるマナよ、我が求めに応じよ! ファイアースト……」

「おっと、転移!」


 あぶねえ、このお爺ちゃん。よりにもよってファイアーストームの魔法使おうとしてやがった。

 ファイアーストームは中級の火属性魔法。俺的にはたいした威力じゃないが、火弾を幾つも産み出すので火事になる危険性がある。

 冒険者ギルド内で火属性魔法を使うとかアホか?

 さっきの冒険者チーム『タマタマ』といい、魔法使いの冒険者は危なすぎる。

 俺はああはならないように気を付けよう。


「ひ、ひいいいい! ギルマスのシェケナがやられたぞ」

「あの凄腕のシェケナが瞬殺かよ」

「こいつ、噂に聞く暗殺者ギルド所属の冒険者潰しだろ!?」

「逃げろ、みんな! 皆殺しにされるぞーーーーーー!」


 その言葉に動揺したのか、いかつい冒険者のおっさんから可愛い若手の冒険者まで、一斉に外へと逃げ出した。

 中にはギルド職員までも一緒に走っているやつがいた。

 仕事、どうすんだよ?

 というか、暗殺者ギルドとかあるの?

 こわっ!


 残されたのは俺と冒険者チーム『妖精女王・ティターニア』の面々。あと、位置的に逃げ出せなかったカウンター内にいる受付嬢のお姉さん達だ。

 俺はすっかり広々とした冒険者ギルドの広間を進み、受付嬢の一人に声をかける。


「あのう?」

「ひゃい!」


 あっ、噛んだ。そんなに緊張しなくても良いのに。


「冒険者登録したいのですが?」

「だ、誰が?」

「俺がですよ」

「ど、どうして?」

「冒険者になるために」

「な、何で、ですか?」


 あれ?

 冒険者って簡単にはなれないのかな?

 やべえ、就職面接とか前世を含めやったことねえから緊張してきた。

 さて、何て答えよう。


「まあ、冒険者って気楽そうでいいかなって」

「で、でも、あなた、魔法、つ、使えますよね?」

「はい、使えますよ」

「じゃあ、何でここに?」

「冒険者になるためにです」

「どうして?」

「………………ええっと……」


 うーん、これは難しい面接だ。

 はっきり言って歓迎されてない。

 いや、まあ、ギルマスのシェケナを吹っ飛ばしたから当然か。

 しかし、困った。

 冒険者にならないとシゲイズ副宰相にまた就職しろと五月蝿く言われる。

 さて、どうしよう。

 すると、悩む俺に救いの手が。


「ちょっとお待ちになって。あなたが大魔導師(アーク・ウィザード)のコミュ・ショーリナさんね。少し、お話したいことがありますの」

「コミュ、副ギルドマスターのキリン様をお連れしたにゃ」

「コミュ、お前、やっぱスゲーな! タマタマだけじゃなくシェケナまでぶっ殺すとかよう!?」

「大丈夫ですよ、コミュさん。殺人罪にならないように、私達が弁護しますからね!」


 やって来たのは白髪混じりの上品そうなお婆ちゃんと妖精女王(ティターニア)の三人だ。

 おおっ、副ギルドマスター。

 お偉いさんを連れてきてくれたのか、ミーシャ。ありがたい。

 ただ、グレタにマリエ。

 俺は誰も殺してませんからね!

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