第9話 いざ、冒険者ギルドへ
俺は冒険者チーム『妖精女王(ティターニア)』の勧誘をなんとか振り切り冒険者ギルドへ向かっていた。
「あたしらの誘いを断るにゃんて……コミュはひょっとして恋人でもいるのかにゃ?」
「いえ、いませんよ」
ミーシャの質問にきっぱりと答える。前世を含めて五十年、完全なるお一人様ですからね。
「じゃあ、何で断るんだよ? いいじゃねえか、コミュ。あたいらと一緒にやろうぜ!?」
「ああ……最初はノンビリとソロでやりたくて」
元日本人のヒキニートに、女性たちとの集団生活はちょっと敷居が高いですわ。
特にグレタレベルの美女と一緒は理性が持たない自信あり。
ちなみに、王立魔法学園の寮では個室をもらえてました。トイレとシャワー付き。デリバリーサービスもあって引きこもりに優しい設計でしたよ!
「コミュさんは凄い魔法使いなのに慎重なんですね」
「ははは、石橋を叩いて渡る性格でして」
むしろ、魔法使いは慎重な人間が多いんですよ?
シゲイズ副宰相みたいな賢者(マギ)にして脳筋(ノーキン)って人が珍しい。
マリエが知ってる魔法使いはどんな人間なのか気になってしまうよ。
「「「はあっ、せっかく有能な魔法使いを見つけたのになあ」」」
女性三人の愚痴を聞きながら歩くのも、俺にはちょっと新鮮だ。
「ところで、コミュは冒険者ランクどのくらいになると思うにゃ?」
突然のミーシャの問いかけに俺は首を捻ってしまう。
たしか、冒険者ランクの一番下がGランクだったはず。ならば、新人冒険者はGランクなのでは?
「ああ、コミュの奴わかってねえぜ」
「まあ、一般の人にはあまり知られてない制度ですから」
おっと、グレタとマリエの言葉からすると俺の認識には誤りがありそうだ。
「冒険者には資格試験があるにゃ」
「試験……ですか?」
「そうだ! これが難しいんだ!」
「まあ、グレタはCランク昇格試験を三回連続で落ちてますから」
「ほう、三回連続で? 相当難しいんですね!」
「そうなんだよ! あれ、ぜってえギルド職員が意地悪であたいに難しい問題ばかり出してんだ!」
グレタの怒りが凄まじい。かなり悔しかったのかな。
「試験には簡単な口答試験と難しい実技試験があります。グレタは実技は文句なく突破しているのですが……」
「馬鹿だから知識がゼロにゃ。前回は『冒険者の戦士職に求められるものは何か?』って質問に『よく食べてよく寝ること!』って答えてたにゃ」
「うふふ、グレタらしい答えですね」
「うっせー。あんなもん分かるかってんだ!」
グレタは身長も高くほどよい筋肉もあり、キリッとした有能社長秘書みたいな感じだけど……
残念美人だって事は理解できた。
「あっ、見えてきたにゃ」
「おお、コミュの家と違ってこっちは混んでんな」
「冒険者ギルドが混んでるのはいつもの事ですよ」
ミーシャの言葉通り冒険者ギルドの建物が見えてきた。
やはり、王都にあるギルドだけあって大きい。
そして、グレタの言う通り様々な冒険者で溢れている。
まだまだ明るいが太陽はかなり傾いた。
依頼を終えた冒険者が報告のため、または素材を納めるためにギルドへ来たのだろう。
マリエも言っているが、王都ではいつもの光景。
さあ、これからが本番だ!
俺たちは勇んでギルドの門をくぐった。
☆
「ようよう、ティターニアの姉ちゃん達じゃねえか」
「かーっ、やっぱお前ら良い身体してるぜー」
「お、おではチッパイが好きだべ」
入るなり三人のおっさん冒険者が妖精女王(ティターニア)の面々に絡んできた。
かなり濃厚な接触。うらやましい。まさか、恋人か?
「キャー、なにするにゃ!?」
「ちょっ、てめえケツにさわんじゃねえ!」
「やめてください。誰か助けてー」
へ?
これって友達同士の悪ふざけじゃなく、ただのセクハラなのか?
こんなに堂々とやれるもんなの、セクハラ?
さすがは異世界!
「グヘヘヘ、何だよお前ら。たかだかCランクパーティーのくせに俺らに逆らうのかあ?」
「しかも、今は唯一の魔法使い(マジック・ユーザー)であるリーダーがいねえんだろ?」
「じゃあ、おでたちと組もう。ミーシャはおでの物!」
ええっと、セリフからしてこのおっさん達ってランクが高いチームなの?
全然そうは見えないんだが。
それにしても不思議だ。
結構ベタベタ触られてるのに、ミーシャもグレタもマリエでさえも我慢してる。
何故?
彼女達は冒険者だけあって気が強い。
普通ならビンタの一つもかましそうなのに……
じっと耐えている。
意外とこういうの好きなの?
プレイの一環とか?
童貞の俺にはレベル高すぎてよく分からねえよ!
「くそっ、てめえら魔術士(メイジ)だけのチームだからってイイ気になりやがって!」
「耐えて、グレタ。冒険者ギルド禁止項目第一条。貴重なマジック・ユーザーとは揉め事を起こすべからず。これがあるから過度の抵抗はダメよ!」
「にゃー、ちょっ、本気でやめるにゃ。臭いにゃ、耳舐めるにゃ、尻尾掴むにゃーー!」
なるほど。冒険者になる魔法使いが少ないから優遇されてるのね。
しかし、たかが魔術士(メイジ)でここまで横暴に振る舞えるとは……
周りにたくさん冒険者がいるってのに誰も注意しない。
なんか、ギルド職員も見て見ぬふり。あっ、ニヤニヤ笑ってる男もいる。ひでえ奴等だ。
魔法使いとの揉め事はそこまでビビるものなのか。
あれ、じゃあ大魔導師(アーク・ウィザード)である俺なら大丈夫ってことだよな?
こいつらと揉め事を起こしても。
同じ魔法使いだし。
さすがに彼女達が可哀想になってきた。
それでは、初級魔法しか使えない魔術士であるメイジのおっさん達に超級魔法でも特別に難しい魔法を見せてやろう。
でも、いちおう一声かけてやるかな。同じ魔法使い。武士の情けってやつだ。
「おーい、おっさん達。いい加減にしとけよー。その辺にしとかないと泣かすよー?」
ちょっと子供みたいな警告になったが仕方ない。昔から口喧嘩とか苦手だったし。
でも、おっさん達には効果あったみたいだ。
「ゲヘヘヘ、って何だあ!?」
「おい、クソガキ。俺たちは魔術士(メイジ)だけのエリート冒険者チーム『タマタマ』だ! 舐めたこと言ってると、ファイアーボールで消し炭にしてやるぞ!」
「おでがやる。万能なるマナよ。炎となりて敵を食らいつくせ。ファイアーボール」
あっ、ミーシャに抱き付いてたおっさんが本当に撃ってきやがった。
冒険者ギルドの建物内で火属性魔法使うとかアホか?
でも、所詮は初級魔法。この程度ならわざわざ防御魔法を展開しなくても俺の豊富な魔力をもってすれば耐えられる。
「よ、避けるにゃコミュ!!」
「あ、当たりやがったー!?」
「コミュさん、どうして!?」
「グヘヘヘ、おでのファイアーボール命中しただ。絶対死んだでよ?」
事情を知らないティターニアの面々とおっさんは勘違いしてる。
この程度の魔法が俺にきくわけない。
いや、普通の人にはファイアーボールもなかなかの驚異ではあるか。
でも、大魔導師の俺には線香花火くらいの感覚だ。
実際、おっさんの撃ったファイアーボールは俺に触れた瞬間、フッと消火されてしまったし。
「き、消えたにゃ……」
「ファイアーボールの威力って、こんなショボかったか?」
「す、凄いですコミュさん」
「あ、あでぇ? おでのファイアーボールどこいったべ?」
魔力を使いこなせばこんなこと雑作もない。
まあ、魔法を使えない一般人なら不思議だろうね。
だが、おっさん。お前は魔術師メイジだろ。俺が魔力を使って防いだ事くらい感じとれよ。
しかし、まあ、これで正当防衛が成り立つな。
「じゃあ、おっさん達。警告通りおっさん達には罰を与えるよ。転移!」
「よし、今度はみんなでや……」
「分かった、ファ……」
「おで……」
俺は呪文の詠唱を省略し、たった一言で魔法を発動させる。
そう、詠唱破棄。あるいは無詠唱という技法を使ったのだ。
この異世界で、これができる魔法使いは滅多にいない。
でも、日本人としての前世を持つ俺には簡単なこと。
魔法はイメージが大事。詠唱など必要無いのだ。
俺には前世のアニメや漫画、ラノベやウェブで鍛えられた妄想力がある!
俺が転移と言ったその瞬間、三人のおっさん達は掻き消えた。
後には、不気味なほど静まり返ったギルド職員と冒険者達だけが残されたのだった。
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