第4話 パジェロ
狙った場所に見事当てた王立魔法学園の副学園長にして王族であるレオ様。何故か大喜びです。
「アハハハ、やったぜ、コミュ。見ろよ! イヤッホー! 見事にパジェロだパジェロ! アハハハ、俺ってナイフ投げの天才じゃねえか?」
「お見事です、レオ様」
いい年してガッツポーズ。良いねえ、このノリ。
だが、学園長のガブリエル様は浮かぬ顔だった。
「コミュ・ショーリナ君。本当にこれで大事な就職先を決めて良いのかね?」
「たしかに、たしかに。就職する気になったのはいいが、こんなので選ぶのはなあ。お前さん、少し適当すぎだわ」
ガブリエル様に続いて実質ナンバー2の学園生主幹ヴィクトール教授が苦言を漏らす。
たしかにダーツで就職先を決めたのは不真面目でしたね。すみません。
「それに、パジェロですからねえ。コミュ君は世間の評判とか気にしないタイプなのは知ってるけど……」
おっと、今度は学園教務主幹のモアメッド教授。就職先を選んだ方法じゃなく、就職先であるパジェロそのものへの批判だ。
「しかし、せっかくコミュ君が当たりにくいように作ってたのに。レオ副学園長も空気読んでくださいね!?」
「お、俺かよ?」
あ、いえ、パジェロを狭くしたのは前世の記憶に従ったまでで、パジェロが嫌いって訳ではありませんよ?
最後の学園寮務主幹ラファエル教授の言葉に心の中で言い訳するが声には出さない。
だって、矛先がレオ様へ行ったから。
ごめんなさい、副学園長のレオ様。俺の代わりに怒られてください。
しかし、実権が無いとはいえ、一応副学園長。しかも王族だ。
それなのに、KY(空気読めない)ってだけで普通に叱られてるよ?
流石は俺の目標。理想のお方。
こういう気楽な人生を俺も歩みたい。
誰にも忖度しない。
でも、周囲をビビらせたりもしない。
レオ様のそこに痺れる、憧れるー!
「いや、だってコミュがパジェロがいいって……それに、お前らも手拍子してパジェロパジェロ言ってたし……ごめん、やり直そうか?」
あっ、忖度しやがったー!
レオ様、ガンガレ。
超ガンガレ。
「やはり、こういうのは真面目に考えて選んだ方が良いのではないかの……」
ええっ、ガブリエル様!
王立魔法学園の自由な校風はどこに行ったのですかー?
「然り然り。私もガブリエル学園長に賛成です。コミュよ、お前さん一度部屋に戻って真面目に考えた方が良い。パジェロはちょっとな」
学園生主幹のヴィクトール教授まで!
あれ?
学園教務主幹のモアメッド教授と学園寮務主幹のラファエル教授も頷いてる。
あれあれ?
そんなに駄目なのパジェロ?
「俺は面白いと思うけどなあ」
俺が尊敬する副学園長のレオ様だけが賛成かよ。
まあ、シゲイズ副宰相が書いてた俺の就職先候補の中でパジェロだけがお堅くなかったからね。
レオ様なら気に入るだろう。
俺も元日本人としては気になってた職業なんだ。
パジェロ。
分かりやすく言えば冒険者。
そう、パジェロは冒険者を指す隠語なんだ。日本で言えば土木作業員をドカタと呼んでた感じだね。
あまり上品な呼び名じゃない。
そもそも、本来こっちの世界でのパジェロって遠い東の大陸から貿易船に乗って運ばれてきた猫のこと。
気まぐれで、普段はぐうたらしてるのに、いざ戦うとカーレン王国のどの猫より強いのだ。
ペットとして輸入されたのに、自由気ままであまり人になつかない。野生を好み飼い主に抵抗する事も多々ある。
それがパジェロっていう猫。
これが冒険者にそっくりだという事で、いつしか冒険者はパジェロと呼ばれるようになったんだ。
あくまで隠語であり多くは使われていないけどさ。
だけど、パジェロ。冒険者か……
カーレン王国ではブルーカラーの代名詞的な職業だけど、元日本人としては惹かれるよ。
冒険者。うん、俺のイメージは全然悪くない。
パーティー組んで仲間と一緒に冒険とかカッコいいし。
仕事内容を選べるのも良いよね?
働く時間も自由だしさ。嫌な上司も存在しない。
基本、俺は引きこもり。たま~に働くくらいでちょうどいいんだ。
そういう意味でも冒険者はいい。
俺も昔はよく読んだよなあ。冒険者物のラノベ。アニメも好きだったし。
楽しかった……
よし、俺の就職先は冒険者パジェロにしよう。
「俺、冒険者になります!」
「おお、コミュがパジェロか? おもしれー、頑張れよ!」
「コミュ・ショーリナ君。本当に良いのですね? もう一度、考えてみては?」
「あちゃー、お前さん頭は良いのに性急なとこあるよなー」
「王立魔法学園の主席卒業生が冒険者ですか? うーん、これはまた前代未聞の珍事だ」
「やれやれ、コミュ君を焚き付けたレオ副学園長は反省してくださいね?」
「うぐっ……」
最後はまたレオ副学園長が叱られたけど気にしない。
俺は新しい道へと進むのだ!
「じゃあ、俺はこれで失礼します」
俺は学園長を始めとする幹部の先生方へ頭を下げる。
「おや、まさかもう冒険者ギルドへ登録に向かうのかね?」
何故か不安そうなガブリエル学園長の言葉に俺は首を横に振ってこう答える。
「あ、いえ、卒業式まであと十日ありますから冒険者登録は後日にしときます」
「そ、そうか。良かった」
「あんまりノンビリしてると、シゲイズがまた怒鳴りこんで来るぜ?」
学園長の安堵の呟きに被せるようにして副学園長のレオ様が言う。
俺はギリギリまでダラダラしたかったんだ。だって、冒険者は元日本人としては好きだけど働くのは嫌いなんだもん。
慌てることはないと思ってた。
でも、レオ様にそう突っ込まれると考えてしまう。
あの短気なシゲイズ副宰相は卒業式まで待ってくれるだろうか?
答えは否だ。
待つわけねえ……
あの人、絶対に明後日あたりに来る。
「お、俺、今から冒険者ギルドへ行ってきます!」
「おう、行ってこい」
俺とレオ様がそんな会話を交わしてると、先生方が割って入ってきた。
「も、もっとゆっくり考えた方が良いのではないのかねえ、コミュ・ショーリナ君」
「全くお前さんは性急すぎだ。冷静になってもう一度考えてみろ」
「パジェロ、いや冒険者は色々と評判良くないよ?」
「レオ副学園長も空気読んで!」
「ま、また俺?」
おおっと、反対だらけだ。そして、レオ様がまたしても叱られております。
王族なのに。
あれ?
これ、俺が就職しないって言った時より反対してね?
冒険者って人気無いんだなあ。
でも、すみません、先生方。
俺はもう決めたんです。
俺は冒険者になって脱サラして引きこもります。
これは前世から決まっていたこと。
そう、運命なんですよ!
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