第3話 就職ガチャ

 悪役令嬢アッキーさんとの結婚話を避けるため、俺はやむを得ず就職することになった。

 ヘタレ?

 ふん、言いたきゃ言え。

 だがな、シゲイズ副宰相は本気で怖いんだぞ?

 そうだな、日本で例えれば……


 そう、麻〇太郎副総理が学校に来て就職しろって脅すような感じだ!

 逆らえるか?

 俺は無理だ。

 人間としての格が違う。

 基本的に俺は引きこもり。

 対人関係はキング・オブ・ニガテーだ。


 しかも、相手は貴族。伯爵様だぜ?

 民主主義の日本と違い、こっちの世界は差別があって当然の社会。

 平民の俺が伯爵に勝てる訳がねえ。

 魔法が使えるから優遇されてるけどさ。本来なら無礼討ちになったっておかしくないんだ。魔法至上主義社会で本当に良かったよ。


 しかし、アッキーさんとの結婚話で止めを刺された。

 これでおしまい。ジ・エンドだ。

 よく分からない?


 うーん、そうだな。例えて言えば……

 ああっ、いい人いたよ!

 紅白歌合戦によく出てた大御所的な女性歌手。

 あだ名がリズム&暴力のあの人。

 芸能界のゴッド姉ちゃんだ。


 姿形は違うけど持ってるオーラは似ているからな。俺主観だけど。

 名前も似てるし、イメージしやすい。

 そう、日本人ならたいてい知ってるあの人との結婚話を勧められたと仮定しよう。

 喜んで受け入れるかい?


 そういや、あの人結婚してたっけ……

 ご主人はきっと神様みたいな人なんだろう。

 もしくは、あの人の表面はリズム&暴力でも本当は観音菩薩様のような穏やかな人だったりね。


 でも、アッキーさんは違う。ガチの悪役令嬢。俺に言わせればただの悪役だ。俺主観だけど。

 家の中でも一緒とか……

 マジで無理っす。


 だから、俺、就職するよ。

 前世から続く俺のプライドをかけた戦いはいったん休戦とする。

 正直、今はそれどころじゃない。

 俺の命と未来がかかってる。

 だから、俺、就職するんだ。


 一回はね。へへへへ。

 その後、脱サラという道が残されてるからさ。

 俺の理想。異世界でのヒキニートライフを諦めるのはまだ早い。

 一度就職すればシゲイズ副宰相の怒りも溶けるはず!

 ヒキニートライフはその後でも良い。

 だから、俺、就職するんだ。

 あとは、何処へ就職するかだが……


「おいおい、コミュ。見ろよシゲイズが残していった紙。お堅いとこばっかだぜ?」


 今、俺たちはシゲイズ副宰相が去った応接室で会談中。議題は俺の就職先。

 要するにシゲイズ副宰相が残した紙に書かれた所から一つを選ぶ話し合いだ。

 真っ先に口を開いたのは、王族であり副学園長でもあるレオ様。


「まず、王宮魔法技官だろ。次に王立魔法研究所。そして、王立魔法学園の講師。アハハ、お前がここの先生か! それも面白いな。あとは、魔道具開発結社ってのもあるぜ? いやあ、本当にお堅い所ばかりだな」


 王宮魔法技官とは日本で言えば国家公務員だ。魔道具開発結社は日本で言えば公団って感じかな。こっちは準公務員ってとこか。


「おお、コミュ君。王宮警備隊の上級護衛官もありますぞ。王族の皆さんとじかに接する故に、貴族の子弟がつく名誉職ですな」

「こっちは外交官か。各国を飛び回る大変な仕事だな。しかし、カーレン王国の外務大臣は外交官出身が多い。なので今や学園生の人気沸騰中の職だ。でもコミュよ、引きこもりたいお前さんには最悪の職かもな」


「あれ、これはなんだろう? 錬金協会研究員……ああ、そういえば最近できた組織でしたね。引きこもりがちな錬金術師達が技術の向上を目指すため、協会ギルドを作ったんでした。今は金属から魔石を生み出すって試みをしてるみたい。うーん、ちょっと面白そう」

「なんと、軍からも誘われてるね。魔法第三大隊所属の少佐だってさ。いきなり指揮官クラスの少佐とか凄いね。ええっと、なになに。週休二日。給料も良い。ただし、戦時下は休日なしと。うん、コミュ君にはキツいかな?」

「アハハハ、おい、コミュ。パジェロもあるぜ!」


 学園長を始め先生方が盛り上がっております。

 良いよなあ、気楽で。

 まあ、俺もすぐ辞めるつもりだから就職先は何処でも良いんだけどさ。

 じゃあ、どうやって決めよう?

 うーん、そうだなあ。


 よし、ここは転生した元日本人らしくテレビで見たあの方法でいこう!

 ちょうど、パジェロって言葉も出てきたからね。

 もちろん、パジェロって発音は同じだけど意味は全然違うんけどさ。たぶん……


 俺は応接室でワイワイ賑やかに話してる先生方を放って置き、土魔法を発動した。

 目の前に粘土質の土の塊が現れ、それに魔力を流しつつこねくり廻していく。


 あれをこうして、ここはこんな感じでと……

 俺は一心不乱に土魔法を駆使し目的の物体を形作る。

 大きな円盤にいくつもの線を引き、そこにシゲイズ副宰相が指定した職業を刻み込む。

 あと、回転しやすくするため軸の部分はツルツルにしておこう。


 魔力を更に込めて頑丈にしたら完成だ。

 おお、我ながら見事な出来映え!

 俺は全属性の魔法が使えるが、特に土魔法が大の得意なんだよね。

 この手の工作は昔からお手の物。


「おい、コミュ。お前、何作ってんだ?」


 俺が黙々と作業してると王族のレオ様が興味ありげに聞いてきた。

 たしかに、この世界にこれはないから気になるか。

 俺が作ってるもの、それはダーツだ。


「就職先を選ぶための小道具ですね」

「これで?」

「はい。この円盤ボードをこうやって回し、後はダーツを投げるだけ……」


 おっと、説明しながら気付いたが俺まだダーツ作ってなかったよ。どうしよう?


「おい、コミュ。ダーツってのは何だ?」


 急に黙ったのでレオ様が突っ込んでくる。

 今から作るの面倒くさいし、もうダーツの代用品で良いや。


「はい。このナイフを回るボードに投げるんです。そして、刺さった場所に俺は就職します」

「おおっ、面白そうだな!」


 俺は果物ナイフを手に取るとレオ様に渡した。

 これ、シゲイズ副宰相や俺たちのため、紅茶と一緒に出された果物に付いてきたやつ。


 王立魔法学園にはメイドさんを何人も雇っているので、こういう配慮は行き届いている。

 ちなみに、出された果物はシゲイズ副宰相が手掴みで全部食べたのでナイフは綺麗なもんだ。


「はいっ! 俺が最初にやりたい!」


 果物ナイフを握りニコニコしながらレオ様が手を上げる。

 ええっと、最初もなにも一回こっきりなんですが?

 ほんと、この人はいくつになっても子供っぽいよなあ。

 そんなに俺の就職先を決めたいかね?

 いや、単に遊びたいんだろうな。

 まあ、良い。どうせ、すぐ脱サラ予定なんだ。レオ様に投げてもらおう。

 それに、自分の力じゃなくて人任せなのも一興だ。

 前世でやったガチャみたいなもんか。

 俺もスマホのアプリでハマったなあ。

 十連ガチャとか何度回しただろう……

 お金?

 もちろん、当方ヒキニートでしたから両親のクレジットカード番号は記憶してます!


「よし、回してくれ」


 やる気満々のレオ様がダーツボードの前で言った。

 おっと、いつの間にか止まってたな。

 俺は円盤を回す。

 そして、この場合掛け声は決まってる。


「パジェロ、パジェロ、パジェロ、パジェロ、さあ、皆さんもご一緒に!」


 これがないと盛り上がらないからね。雰囲気を出すためにパジェロの所は間隔を狭くしている。ちなみに、タワシはない。


「そんなにパジェロが良いのかよ? じゃあ、いっちょ本気でパジェロを狙ってやんよ!」


 いえ、ただの雰囲気づくりです。でも、前世のテレビ番組の説明なんて無理だからそれは黙っておこう。


「ぜひお願いします」


 俺の言葉を聞いたレオ様が、今まで見たこともない真面目な表情で果物ナイフを構えた。

 俺は手拍子と共に再びパジェロコール。


「パジェロ、パジェロ、パジェロ、パジェロ、さあ、皆さんもご一緒に、パジェロ、パジェロ、パジェロ……」

「……わ、わかった。さあ、皆もやろう。パジェロ、パジェロ、パジェロ……」


 おお、ガブリエル学園長も乗ってくれた。そして、学園幹部の先生方も手拍子と共にパジェロコール。


「「「「「パジェロ、パジェロ、パジェロ、パジェロ、パジェロ、パジェロ、パジェロ、パジェロ」」」」」


 盛り上がってきたー。

 そして、レオ様の一投。ヒュンという音と共に突き刺さる果物ナイフ。

 スゲー。切れ味をあえて悪くしてる果物ナイフなのに、見事ダーツボードに突き刺さったよ。

 さて、俺の就職先は何処だ?


「やったぜ、コミュ。パジェロだ!」

「おお、凄いですレオ様」


 マジかよ、この人。

 流石は王族。魔法は使えないけど運は持ってるよなあ。

 でも、学園長を筆頭に『あちゃー』な顔してるのは何故なんだろう?

 ひょっとして俺、ハズレガチャ引いちゃったのかな……

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