第10話 ループ5回めの力①

 私がトラヴィスを見る目が相当に怪しかったのだろう。一度目の人生の相棒・バージルが苦々しく毒づく。


「アナタ、トラヴィス様が美しいから見とれているのね?」


 違いますそうではないです。



 女子を見る目がとても厳しいバージル。隣国への留学期間を除き、彼とは一度目の人生で一緒に行動した仲である。


 初対面の日、スコールズ子爵家を追い出され着の身着のまま神殿に現れた私の髪を無言で梳いてくれた。継母による『ひどい姉』の評判を知っていたはずなのに。


 けれど、数日で私におしゃれをする気がないと悟ると『宝の持ち腐れだわ』と嘆き距離を置かれるようになった。評判に関する誤解は割と早く解けた方だったけれど、美容に関しては相容れない仲だと判断されたらしい。


 巫女として神殿を訪れた異母妹・クリスティーナを見ながら『女子と組むならもっとキラキラしたご令嬢がよかったわ』と、つぶやいていた気がする。


 ……悲しくなってきたので話を戻したい。


「いいえ! あの、トラヴィス……様は、普段からこちらにいらっしゃるのですか。なんだか、神官様ぽくないので」

「今日は手伝いです。諸事情により、神官としての任務にはつけませんので」


 本人から非常に胡散臭い笑顔と答えが返ってきた。


 けれど、きれいな人が言うとなんでもそうなのか、という気分になる。現に、さっきまで私に鋭い視線を送っていた4人の神官たちは彼の笑顔に見惚れている様子だ。


 彼が神官だったなんて知らなかった。私が知っている限り、そんな素振りは全くなかったのだ。


 大神官様への振る舞いを見ても『何者なの』と聞きたいけれど、それが許される空気でもない。


「トラヴィスは神官の中でも特に神力が強い。そこに関しては私よりも上なのじゃ。神力を相手の体の中に通して、聖なる力の種類を探ることができるんじゃよ」

「では、トラヴィス様に判定していただいた後、私がどの神官と組んでどんなお仕事につくのかを決めるということですね」

「如何にも」


 5回目の人生を送る私としては、意外と吞み込みが早いな、という顔をした後ろの4人に申し訳ない気持ちになる。


 少しは『性悪なひどい姉』のイメージを忘れてくれたらいいな。まぁ無理だろうけれど。

 

 パートナーへの特別な想いを馳せていた私に、トラヴィスが手を差し出した。


「早速、やってみましょう。御手をお借りしてもよろしいですか」

「……はい」


 私が右手を差し出すと、トラヴィスは私の手のひらを優しく両手で包んだ。指先が白く光ったかと思えば、手のひら・腕と伝って神力が入り込んでいく。


 体がぽかぽかと温かい。神力、ってこういうものなんだ、と感動する。神力は聖女が使う聖属性の魔力ともまた違う。守りしものを育む神の力。


 聖女の場合は聖属性の魔力が空っぽになれば動けなくなるけれど、神官の場合は違う。


 聖女と神を守るために、神力は続く。


 だから使い方や加減を知らないととても怖いものになる。


「体調に変化はありませんか」

「はい、何も」


 予想外なことに、不快さや不思議な感覚はない。大人しくされるがままになっていると、トラヴィスの表情が険しくなった。なにか異常が見つかったのだろうか。


 彼の額には汗が浮かんでいて、少しだけ呼吸も上がっている。私が聖属性の魔力を使うときはかなり疲弊しないとここまではならない。能力鑑定をするのには相当な神力が必要なのだろう。


 けれど、それだけではない気もする。何というか……そんな目で見ているつもりはないのに、すごく煽情的に見えてしまって。背後に並ぶバージルもそれを察知したらしく身を乗り出している。本当にやめてほしい。


 もし仮に『聖女』だけれど4つの能力のどれも持たないと証明されると、困ったことになってしまう。


 私がスコールズ子爵家を出るためには、神殿の配下にある機関に配属して聖女としての仕事を得る必要があるからだ。実際には聖女としての力を使えるのにそれができないなら、いろいろな弊害も生まれる。


 そんなことを考えているうちにトラヴィスは私の手をゆっくりと放した。


「彼女は、先見・戦い・癒し・豊穣……すべてへの適性を持っているようですね」


 予想……というか事実通り、聖女4種類、無事コンプリートだった。

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