第4話 言い伝え
「……ん」
倒れていた人の口から漏れた言葉にいち早く反応したのはサラだった。
リヒト、と小声で呼び、二人で様子を見守る。
倒れていた人は、目を何回かまばたきした後、体を起こし、目をこすった。
その様子をジッと見ているためか静かで、二人の間には謎に緊迫があった。
目をこすり終えると、もう一度何回かまばたきをして、目線をリヒトとサラに
移した。
「……!」
その瞬間、眠気で細められていた目はまん丸に開き、警戒しているような顔つきに
なった。かけられ、起きたことではだけ落ちた毛布を無意識にギュッ、と握った。
「おっと…、お、おはようございます……?」
サラがおどおどした感じで右手を挙げる。
「……誰?」
その人物は、そう尋ねた。
「ああっと…あー、うーん……リヒト」
「え?!ああ、君、倒れてたんだよ。こんな寒い雪の中で……」
サラが説明をリヒトに押し付けると、リヒトは急激なことに驚きながらも倒れて
いたこと、それで助けたことを話した。
「……助けたの?」
そう残念そうな発音に、サラは助けちゃダメだったやつ?と心底思った。
「ま、まぁ。寒い中倒れてたら、助けるよ、それは……」
「ふぅん…。」
やっぱりまだ、“そっち”には行かしてくれないんだね。と、人物は小声でそう
言ったことが、耳の良いサラには分かった。
そっちって、なんのことだろう。と、サラは思った。家?村?町?国?それとも……
あの世?天国?だんだん不吉な感じに思えてきたサラは、
「……助けてくれて、ありがとう。」
その言葉に思考が止まる。しかしすぐさま巡りだしたものの、また不吉なことを
考えそうな気がして、思考を変えることにした。
「あー…、礼はありがたく受け取りますが、何故あそこで倒れていたのですか?」
手持ちぶさたなのか、洞窟でそこかしこに落ちていて、そばにあった石を出口へと
投げながらサラは敬語で問う。
「そりゃ、自分で命をうんぬんとかだったらもう止めはしないですけど…。単純に、あそこで倒れている原因というか発端を聞きたいんです」
失礼じゃなければですが、という言葉を付け加えて、サラは口を閉じる。リヒトは
ああ確かに、と小さく頷いた。
「…失礼ではないけど、あまり、いいものじゃない。それに、旅人のような恰好をしているけれど、貴方達はココに来たばかり?ここらじゃ有名だから、来たばかりじゃなければすぐ耳に入ると思うのだけれど」
そう言った人物は自分の髪と目を指した。
「赤毛金目……、“魔女伝説”、ですか?」
さきほどサラに押し付けられて動揺していたリヒトは、なんとか口調を丁寧にする。
他人なのだから、敬語でなければ失礼だというのが、リヒトとサラの身に染みて
きた“ルール”だ。
魔女伝説とは、伝説というより、言い伝えだった。赤毛金目で生まれてくる少女は
魔女の生まれ変わりで、やがて生まれたその国を、家族を、滅ぼすだろうという
言い伝え。
その人物は、赤毛金目の……少女だった。前髪をサラ達から見て右側に分けており、
赤いその髪は腰まであった。少し鋭い目つきの瞳の色が金色。まさしく言い伝えに
出てくる魔女の容姿とお揃いだ。寒い冬の中、半袖の白いワンピースを着ている。
「そう。私には…姉と妹が1人、両親がいた。けれど、父親はこの言い伝えを信じて、私を軽蔑した。いっそ死んでしまえばいいって。だから、その通りに死んでやろうと思ったの。」
その言葉になるほどなぁ、となるリヒトだったが、サラからわずかに感じる殺気に
肩をすくめた。サラはこういう迷信や言い伝えで人を差別したり軽蔑するのを
嫌う。そういう輩を見つけるたびに、言葉と力の二セットで殴りかかるのだ。
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