第1話 雪の中に旅人二人

「さぁっむ!」



雪がしんしんと降る中で、一つの声が響いた。


「ホントに寒いね…。雪、降ってきたし。」


そしてもう一つ、声が響いた。



互いの口から白い息が漏れる。白いローブに身を包んだ二人は、今すぐにでもこの

先が見えないほどに降る雪の風景に溶けてしまいそうだ。


「ったく……、なんでだよ、私が冬嫌いなの知ってんだろリヒト!なぁんでわざわざただいま絶賛冬真っ只中ですぅ、っていう国から周るんだよ!!現在春夏秋のどれかがある国から周れよ!てか南半球から周ろう?!ココ冬なら向こう夏だろ!!」

「いや……、ラビエルさんに「まずは“クラーク家”に行ってみては」って言われたんだよ、サラ?確かこっちの地方なんだけどなぁ」


サラと呼ばれた人物はバサ、と頭にかぶせていたフードを手で掴んで揺らしながら

リヒトと呼んだ人物へ抗議するように声を荒げた。強く揺らすフードから、桜色の

髪が覗く。肩につくかつかないかぐらいの長さの髪は、揺れるフードに合わせて

はためいていた。


「なんだよクラーク家って……。聞いたことないしなんかクラゲみたいな名前だし嫌な思い出しかないクラゲを思い出して最悪だわ」

「僕もわからないけど、「」って……。」


サラの明るく力強い若葉色の瞳と、リヒトの澄んだサファイア色の瞳が合う。


白い雪よりも、白いフードよりも、真っ白な色をしたリヒトの髪は、そんな青い瞳と

よく似合っていた。


「力って何さ力って。なーんか言ってた気はするけど」

「ちゃんと話聞いとかないからだよサラ……。」


サラのほうがリヒトより5cmほど背が高いため、サラを見上げる形になっている

リヒトは、雪が積もる道を裸足でさくさくと歩く。寒さを感じさせない歩き方で、

サラも寒い寒いと文句を言っているものの、裸足で雪の中を抵抗なく歩いていた。


「てかココどこよマジで…。」

「北半球「それは知ってんぞ」」


リヒトの解答に素早く返事するサラは、もしかしたら芸人の才能があるかも

しれない。


「ったく、南半球にしろよ…。あわよくば東の国へ…、あそこは冬でも暖かいって聞いたんだ…。」

「太平洋側限定だけどね。まだ名もないけど、ある島国の左側の海じゃ極寒らしいよ」

「あーっ、ヤダヤダヤダ!冬マジ無理死ぬ寒いってば!!」

「あっ、ちょ、バタバタしないで降った雪がこっちにくるから……」


しばらく止みそうにない雪に、誰も外にいない。二人の周りには誰もいないのだ。

冬なのに裸足である時点でおかしいが、旅人のような服装をした二人には、旅に

必須である荷物もまた、何も持っていなかった。手ぶらで雪の中を歩く二人は、

どんどん目的地へ近づいていく。



「!リヒト、あれ、あれ!!」

「え?な、なに…。」


雪のせいであまり遠くが見えないが、サラが何かに気づいたようで、目の前をずっと

指さしている。しかしリヒトには見えていないようで、その雪の中に目をこらした。


「ほら、人!人倒れてるでしょ!!」

「え、ちょ、雪が邪魔で見えな…。」

「あーっ、もう!私、さき見てくる!!」

「サ、サラ!」


見えず理解が追いつかないリヒトに、人が倒れているからと早々にしびれを切らした

―それが正しいと言えば正しいのだが―サラは、指をさした方向へ一目散に走って

いった。先程まで寒い寒いと脇の下にやっていた手は、今は走るために振っている。


「リヒトー!ここ、ここ!!」

「ま、待って、顔に雪が…、目に染みる……。」


自身の名を呼ぶサラの声を頼りに、リヒトは目の前で降る雪を顔に当てられながら

駆け足で走っていく。もっとも、少しの風でもフードがとれ、髪や顔にさらに雪が

当たってしまうため、フードを抑えながら駆け足をする姿になっているが。


「!え、その子……!」


顔の体温で溶け、水になった雪を手でぬぐいながらサラの元になんとか辿り着いた

リヒトは、少しずつ強くなり、吹雪になり始めていた天候を心配しつつもサラが肩を

つかんで倒れていた姿から立たせたその人物を見た。




「サ、サラ、もしかして、この子……」

「あー?一概にはそうだと私には言えないっすけどね。この容姿はおそらく……」

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