第177話 Main_Kaiserの仰せのままに
西方都市の外郭から侵入した地下1階層は、3m幅の通路が延々と続いていた。
天井に埋め込まれている照明が、床に貼られている大判の石へ薄暗い明かりを落している。
ひんやりとした風に髪が揺れ、内部は塵一つなく清潔に手入れされていた。
背後には睡眠状態に陥っている斥候女子を私から引きはがすように、ボサボサ頭の先輩が引き摺っており、離れた位置から50歳過ぎの隊長が心配そうにこちらを見ている。
正面には、背丈が120cm程度の機械少女が立っていた。
この者こそが、ここの管理者であるルギアルプスアレクサンドラ。
少女は、ここを時代のニーズに合わせて迷宮だったここを、イベント会場に変えたという説明をしてくれていた。
「
「三華月様。やはり気になっちゃいましたか。実際のところは、名前を変えただけでして、中身は迷宮のままなんですよ。」
機械少女が口角を吊り上げている。
物凄く悪いことを思い描いているようだ。
少女の説明によると、迷宮の機能はそのまま。
名称をイベント会場へ変えただけ。
つまり、あれと同じだ。
小説の題名にエロイ単語を入れるだけで、読者のフォロー数が爆発的に増えていくと聞く。
その法則に従い、冒険者を誘導しようとしているわけか。
少女は笑いをこらえながら、現在開催している『魔王の秘宝』というイベントについての話しを始めてきた。
「とりあえずって感じで『魔王の秘宝』というイベントについて、ここの領主、それから水明郷という者へ告知をさせてもらいました。」
「二人へイベントの告知をしたわけですか。」
「はい。参加料は無料。いわゆる無課金で遊べるという内容としております。」
「いやいやいや。一般的には、迷宮攻略に有料のものはないはずですよ。」
「三華月様。人とは無課金という言葉に弱い生き物なんです。無課金という理由だけでとりあえず遊んでみようかなと思ってしまうお馬鹿な奴等なんですよ。そしてイベント攻略にハマったタイミングで、『課金ガチャ』の要素も取り入れようと考えております。」
「ガチァとは、カプセルトイと呼ばれる抽選方式のことですか。」
「そうです。公式には、S級アイテムが3%くらいで獲得できるように発表するつもりです。」
「確率的に1/33ですか。」
「ククククク。実際の出現確率は、0.001%以下に設定しようかと思っております。」
「公式には3%と告知するものの、実際には0.001%以下に設定するって。ルギアルプスアレクサンドラ、それは詐欺という行為ですよ。」
「三華月様。隠し事や嘘って、発覚しなければ問題ないじゃないですか。」
「…。」
「これでガチャ廃人が生まれてくるわけですよ。考えただけで、ワクワクとしてたまりません。」
機械少女は、物凄く邪悪な笑みを浮かべていた。
これまでの話しをまとめると、ここにいるS級の迷宮主と呼ばれている個体は、少女がつくったもの。
今更ながらではあるが、真の迷宮主はこの機械少女で間違いない。
まぁそれはさて置き、領主が安全であるのかが問題だ。
「
「簡単です。クリア条件は最下層にいるラスボスを倒すこと。とっつきやすいように一般的なルールにしています。」
「それではそのラスボスのクラスとは、どれくらいで設定されたのでしょうか。」
「S級にしておりますが、安全ストッパーを実装しました。参加者が死ぬことはありません。なんせ、奴等には再挑戦してもらわなければなりませんから。」
「難易度が高過ぎると、それはクソゲーと呼ばれ、過疎化が進んでいくと聞きます。」
「もちろん対応策は考えております。ここで登場するのが『課金ガチャ』てす。」
「課金ガチャですか。」
「迷宮主対策の特攻アイテムを課金ガチャで配るつもりなんです。」
「だが、S級アイテムは出ることはない?」
「A級アイテムまでなら排出するつもりです。」
機械少女は口角を吊り上げている。
三条家から領主の安否を確認し、救出する依頼を受けてここまでやってきた。
西方都市で、新賢者・水明郷の私設軍が革命を起こしたと聞いている。
事実関係がはっきりしていないが、領主が安全ならばとりあえず問題ない。
あとは本人を探し出し確保するだけ。
イベントのことは無視していいだろう。
「
「はい。全てお答えします。」
「イベントに参加している者の情報を教えてもらえませんか。」
「現在、2組のパーティが参加しています。1組は西方都市の領主。もう1組は新賢者・水明郷です。」
「領主と水明郷の二人がイベントに参加しているのですか。」
「そうです。」
「水明郷は、西方都市で革命を起こしたと聞きました。」
「表向きには革命を起こし、その私設軍が現在砦を占拠している状況です。」
「表向きとはどういうことですか?」
「はい。水明郷が領主の捕縛しようとした目的は、革命なんかではないということです。」
ここでいう革命とは、権力体制への反逆のこと。
邪悪に満ちた表情を浮かべている機械少女からの話しを聞いて不自然さを感じていた。
もっと言えば、ここへ降りる前から違和感があった。
西方都市に革命が起きたというが、それは領主が強権を発動していたことになる。
だが帝国貴族は地位的立場を利用して権力を振りかざすことはない。
何故ならそれをしてしまうと三条家に裁かれることになるからだ。
ここで言う三条家とは私のこと。
そう。過去に強権を発動したものはことごとく私の餌食になっていたのだ。
だが、西方都市では、神託が降りてくる気配が微塵も感じられない。
つまりそれは、民主が弾圧されているような事件は起きていないことを意味する。
機械少女は、私が抱えていた疑問を解消するためかのように話しを続けてきた。
「水明郷は、イベントに参加しようとしていた領主の寝込みを襲い拘束しようとしたのです。」
「水明郷が革命を起こした理由は、領主をイベントへ参加させないためだったということですか。」
「そうです。元々はこの西方都市の発展のために協力し尽力を注いでいた2人が、魔王の秘宝を巡って険悪な状態になってしまいました。」
「仲の良かった2人が秘宝を巡り、仲たがいをしたわけですか。」
「ククククク。人の友情って利害が無ければ簡単に壊れるもの。見ていて気持ちいいです。」
領主と水明郷の2人は都市の発展のために力を合わせていたが、機械少女にそそのかされてしまったわけか。
少女の趣味は人を悪い方向へおだてそそのかすこと。
つまり属性が邪悪。
善と対局に位置する者。
だからといって私の敵というわけではない。
実際に私に対しては従順で高い忠誠が感じられる。
「
「はい。まんまと私の口車にのってしまった次第です。」
「その報酬の内容について教えて下さい。」
「世界最強になれる秘宝と言う設定にしております。だが実際には、そんな報酬なんてあるわけが無いじゃないですか。」
「報酬がない?」
「はい。だって、三華月様を超えなければ、世界最強になれません。」
「…。」
「ホント、人ってお馬鹿ですよね。」
「…。」
「そもそも三華月様がいるこの地上世界に、魔王なんているわけがない。人間とは、何を考えているのでしょうか。」
「話しは分かりました。私は領主を保護するためにここへ来ました。」
「はい。存じております。」
「私を領主の元へ案内してもらえませんか。」
「もちろんです。Main_Kaiserの仰せのままに。」
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