第168話 召喚リスト②
夜空から落ちてくる月の明かりが、真っ黒な大海を照らしている。
私達が乗る小舟は、押し寄せてくる波に大きく揺られ、いつ転覆してもいい状況に陥っていた。
その小舟は穏やかな河を渡るための仕様で、容赦なく海水が侵入し続けてくる。
まさに船内はカクテルシェイカーのような状況になっており、スキル壁歩を発動していないと立っていられない状態だ。
チャラ男は姿勢を低くしながら海水を排出しているものの、明らかに入ってくる量が上回っている。
トナカイの角の着ぐるみを装備している鳳仙花については、びしょ濡れになりながらも検索エンジンタブレットを見ながら、紅蓮の英雄についての情報を検索していた。
深夜の海に、雷鳴が走るような轟音が断続的に聞こえてくる。
300m級の帆船で構成されている87隻の船団が、空飛ぶ巨大な魚へ向けて主砲を発射させ続けているためだ。
その音の衝撃波に静かだった海に波が立ち始め、私達が乗っている小舟がその影響をモロに受けていた。
そして、船団の向こうで空を飛んでいる魚こそが、探し求めていた伝説の架空艦だ。
その正体は、チャラ男の半身で、紅蓮の英雄でもある。
奴こそが鳳仙花を闇商人にスカウトし、新人狩りをしていたクソ外道だ。
闇商人の船団から砲撃は、空飛ぶ魚の姿をしている架空艦の周囲に展開させている重力場に吸収され無効化されていた。
そして、1000を超える幽霊船が空一面を覆う姿があった。
魚の姿をした架空艦が、死霊使いを発動させ、死んだ船を発生させたのだ。
客観的にみても闇商人達に勝機はない。
そうはいうものの、私に奴等を助ける動機はない。
はい。私は、最も神格に高い聖女ではあるが、公正名大でもないし、心は広くない。
そんな時である。
闇商人達を助けろと神託が降りてきたのだ。
YES_MY_GOD
クソのような闇商人ではあるが、同じ人間だ。
助けなければならないということか。
鳳仙花についても紅蓮の英雄である架空艦に恨みが有る。
チャラ男からは半身である兄弟は救うことが出来ない存在になり、破壊してほしいと言う。
奴を撃ち落とせば、全てがまるく収まるということだ。
ここで空飛ぶ船団を撃ち落として差し上げましょう。
私は運命の弓を召喚します。
3mを超える白銀の弓が姿を現した。
月の加護を受け、弓から光の粒子が漏れ、私の瞳が黄金色に輝き始めていた。
天空に輝く月の輝きが、私の力を神域にまで引き上げてくれており、スキル『真眼』が発動しているのだ。
巨大な魚の姿をした架空艦も運命の弓が姿を現したことを認識したようで、周囲に展開させている重力場を数百倍の数、一気に増やしてきた。
運命の矢から放たれる全ての攻略ラインを潰してきたか。
さすが伝説の船と言われることだけはある。
なかなかやるじゃないか。
召喚された白銀に輝く弓を見た鳳仙花が声を掛けてきた。
「三華月様。運命の弓を召喚されたのですか。」
「はい。今しがた、闇商人達を救えと神託が降りてきました。これより、空飛ぶ架空艦の船団を殲滅して差し上げます。」
「おおお。信仰心のためなら社会の屑である闇商人を救うとは。さすが、三華月様。」
「誉められているようには聞こえませんが、まぁいいでしょう。実際に、信仰心のためなら気持ち良く汚れ仕事もさせてもらう聖女ですから。」
「そこまで言ってないじゃないですか。でもこれで、紅蓮の英雄の命運も終わっちゃいますね。」
「そう簡単にはいきません。そう、奴を攻略するには問題が2つあるからです。」
「問題ですか。」
「1つは巨大な魚の周囲に展開されている重力場を攻略すること。」
「チャラ男が全ての物理攻撃を吸収すると言っていたやつのことですか。」
「はい。だが、それは、神々の戦いで使用されたという天空スキルを使えば、攻略は難しくないでしょう。」
「ということは、もう1つの問題の方が難易度が高いわけですね。」
「はい。それは闇商人達の船団に被害が出さないようにすること。」
「察するに、神々の戦いで使用された天空スキルを使用すれば架空艦を撃ち落とすことができるものの、闇商人の船団に被害が出てしまうということですか。」
「まぁそんなところです。」
「ゴミ屑のくせに、まったくもって面倒な奴等ですね。」
天空スキルにて、重力場の攻略と夜空を埋め尽くす幽霊船達を撃ち落とすことは難しくない。
だが、闇商人の船団への被害を考慮すると使いづらい。
元闇商人である少女が、奴等のことをゴミ屑と呼ぶところには違和感があるが、そこはスルーしていいだろう。
その時である。
検索エンジンタブレットで何かを調べていた鳳仙花が、架空艦の攻略について提案をしてきた。
「三華月様。
「嬢ちゃん。知っているぜ。それは全ての試練を乗り越えた英雄達の船のことだろ。」
鳳仙花の言葉にチャラ男が食いついてきた。
ドレッドテールの男は伝説の船の片割れだだし、その系統の話しに詳しくても当然か。
というか、私は召喚士ではない。
そう。ただの神格が高い鬼可愛い聖女なのだけどな。
おかっぱヘアーの少女と、ドレッドテールの男の会話が噛み合っていく。
「チャラ男。三華月様との話しに、お前ごときが入ってくるんじゃない!」
「嬢ちゃん。俺っちの話しも聞いてくれよ。」
「陽キャラの話しなんぞ聞きたくないわ!」
「なんでだよ。俺っちは伝説の船なんだぜ。」
「いや。だから、チャラ男は、駄目な方の船なんだろ。」
「マジでキツイ言葉だなー。でも全然OKだ。むしろ歓迎するぜ。英雄達の船と聞いて、俺っちの体に流れている荒くれ者の血が、『Here we go』と騒ぎ始めているんだよ!」
「おいおいおい。Here we goとは、『せーの』とか『始めよう』という意味だ。言葉の使い方が間違っていないか。」
「嬢ちゃん。そこは雰囲気重視で理解。よろしく頼むぜ。Are You Ready?」
「何でもいいが、ここは、船には船。架空艦には、英雄達の船ってところだろ。」
「俺は嬢ちゃんを超前面的に指示させてもらうぜ。」
「お前に指示なんて、何の役にも立たないわ!」
英雄達の船とやらを召喚しない選択肢が無くなっていくような会話だ。
船には船という発想が理解できない。
そもそも、英雄の船を呼ぶ方法が分からない。
どうしたものかと、鳳仙花達へ視線を移していると、チャラ男がその召喚について話してきた。
「聖女様。英雄達の船の召喚の仕方なら、俺っちが知っております。」
その刹那、世界の記憶アーカイブが展開され始めた。
チャラ男の言葉に反応したようだ。
アーカイブに新しい情報が追記されていく。
文字魔法を展開させれば、召喚可能である。
だが、この文字を書き上げるまで、途方もない時間が必要なのではなかろか。
月の加護を受けている今の私ならば、
ここは正攻法でまず、空飛ぶ魚から串刺しにして差し上げましょう。
その時である。
突然、ステータス画面が現れた。
―――――召喚リスト―――――
・ペンギン : 可
・四十九 : クールタイム
・月姫 : クールタイム
・メタルスライム : 可
・土竜(転生した英雄イアソン) : 可
□ OKボタン
―――――――――――――――
月の加護を得ている夜は眷属の召喚が可能というなのかしら。
まずペンギンから吟味していくと、戦力外となるため召喚する必要はないだろう。
そして四十九と月姫であるが、汎用性の高い能力をもつ2人ならば、この状況にも対応できるはず。
召喚は出来ないのが残念だ。
メタルスライムは微妙だな。
うむ。今回も見送りでいいだろう。
そして最後。土竜であるが…。
知らない情報が書かれている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます