第164話 半身、半神

真っ青な空の高い位置に流れる雲の速度が速い。

太陽光が大地を照り付けるものの、薄い空気のせいか肌寒く感じる。

段々畑のような形状になっている斜面には、地肌を覆うように足元の高さまでしか草が伸びていない。

緑地帯の中に建ち並ぶ古い石造りの遺跡は、ながい時間をかけて現在進行形で朽ちていっている最中のようだ。

私とオカッパヘアーの少女の前には、ふざけた内容が書かれているステータス画面が浮かび上がってきていた。



――――緊急クエスト発生――――

(内容)暴走した架空艦ノーチラスを探しだせ。

(詳細)地上世界へ行ってしまった船を紅蓮の英雄から取り返す。

(報酬)この階層の支配者になれる。


――――緊急クエスト補足――――

紅蓮の英雄がいる所在なら把握しています。


――――選択せよ――――

① 俺にその者がいる場所まで案内してもらう。

② その者がいる所在を聞く。

③ 俺からのフォローを適宜受ける。



何を選択肢したとしても、結局のことろ『俺』と書かれている者の手助けをしなければならないようになっているようだ。

私が異世界に来た目的は空を航行できるという架空艦ノーチラスを探すこと。

そういうお願いは、田舎でスローライフをすごそうとするが、おせっかいな性格がゆえやについつい手助けをして忙し過ぎる生活を送ってしまうテンプレ主人公へ依頼願いたい。

だが、私の思いとは異なり、おかっぱヘアーの少女はステータス画面に書かれている『紅蓮の英雄』というワードに食いついてしまっていた。

紅蓮の英雄と名乗る者は、新人の闇商人を見つけ出し金品を巻き上げる盗賊のこと。

鳳仙花もその被害にあった者の1人であり、強い恨みを抱いていたのだ。

少女の指が、選択せよと記載されているステータス画面に近づいていくものの、選択する項目に迷っていた。

やはり巻かれた餌にくいついてしまったか。

何を選ぶべきなのか決めきれない様子の鳳仙花が、切羽詰まった感じでこちらへ振り向いてきた。



「三華月様。このステータス画面に書かれている『俺』さんとは一体何者なんでしょう。めっちゃ気になりませんか。」

「いえ。全く気になりませんし、その者とはできるだけ関わり合いになりたくないと思っております。」

「信仰心に関係しないことには、マジで全く興味がないんですね。ちなみにですが、私はその『俺』さんは、この階層を管理している者ではないかと考えています。」

「つまり鳳仙花は、この世界を管理している者は全員共通しての最低な奴ばかりだと言っているのでしょうか。」

「勘弁して下さいよ。そんなこと言っていないですし、三華月様の感情が駄々洩れしているだけじゃないですか。」



その時である。

正面に突然、少年が姿を現した。

年齢は15歳くらいで、細身の体型をし身長は170cmくらいだろうか。

私よりも若干低いくらいだ。

素顔がわからないくらい化粧をし、髪はドレッドテールにしている。

両手の全ての指には派手なリングが巻かれているものの、何故か着ている服は、軍服をイメージさせる真っ黒のコートで、膝下まである安全ブーツを履いていた。

統一感がないというか、深い樹海で行方不明になっているような謎のファッションセンスだ。

何故か笑顔をつくりフレンドリーな感じで、2本の指を振りなが挨拶をしてきた。



「チィース。俺が聖女様の言っていたうんこ野郎で最低なチャラ男でーす。」




自身がうんこ野郎であることを肯定する点においては潔いものの、なんてふざけた挨拶なんだ。

どうやら、突然現れた少年はステータス画面に記載されている『俺』の正体らしい。

チャラ男とは、女性慣れしコミュニケーション能力が高いと聞く。

まさにパーティーピーポーといった感じだ。

個人的には、かかわり合いになりたくない人種だが、拒否反応があるほどではない。

鳳仙花については、私の背後に隠れながら不審者を見るような視線を送っていた。

コミ障に加え、人見知りなのだろうか。

私とは初対面にもかかわらず、始めから全開で打ち解けてきたのは、やはり同志という理由が大きかったのかしら。

チャラ男は、あからさまに警戒している鳳仙花へ、あえて視線を送りながら陽気な感じで自己紹介の続きをしてきた。



「うぃーす。俺っちが、聖女様が探している架空艦ノーチラスの半身なんすよ。」




ドレッドテールの男が架空艦の半身とは、どういうことだ。

細胞分裂のように、1つの個体が2つに分かれたとでもいうのかしら。

そもそも架空艦号とは空を航行する船のはず。

うん。話しが全く理解できない。

だが、チャラ男は人の姿をしているものの、人間ではないことは分かる。

AIとも違うようだ。

どちらかというと魔物。いや魔獣といった感じかしら。

まぁ、この者の正体については、私にとってはそれほど重要ではない。

そう。私の役に立たない存在ならば、放置しておく対象なのだ。

鳳仙花については、北風と太陽の話しのように、チャラ男が軽いノリをするほど警戒感を強めている。

ドレッドテールの男はマイペースにリズムを刻みながら、ノリノリな感じで話しを続けてきていた。



「つまり俺、半身。聖女様、半神。イェーイ。分かってもらえたっすか?」

「はい。あなたという者は、死んでもらって結構な存在であると理解しました。」

「オーマイゴッド。聖女様。ベリークール。」

「…。」

「つまり可愛い聖女様には、俺っちの手伝いをお願いしたいわけ。よろしくお願いしまっす!」



これほど可愛いという言葉が伝わってこない存在は、勇者と強斥候以来だな。

うむ。どうでもいい存在であると確定だ。

そのチャラ男は、私に半身を連れ戻す手伝いをさせたいらしい。

同族からのクエスト依頼ならいざ知らず、人外からのお願いなど受ける理由がない。

私は、困った者がいれば種族に関係なく助けるような慈愛に満ちた聖女ではないからな。

とはいうものの、鳳仙花はチャラ男からの話しに食いついている。

どうしたものかしら。

場所が分かっているのなら難しいクエストでも無いだろうし、ここは鳳仙花に最後まで付き合わざるえないところか。

おかっぱヘアーの少女が、至近距離から見上げ、私からの言葉を待っている。

目を輝かせ、期待をしているようだ。

断ることができねぇ。

場所が遠くでなければ、少しくらいの寄り道なら仕方がないか。



「チャラ男さんからのクエスト依頼。承知しました。」

「俺っちの手伝いをしてくれるんっすか。あーざす。」

「それでは、あなたの半身とやらがいる場所へ連れていって下さい。」

「そうしたいのはやまやまなんすけど、俺っちにその力はないんすよ。お恥ずかしいっす。」

「ん。チャラ男さんは、伝説の架空監ではないのですか?」

「いやぁ。実は俺っちは、架空艦が悪さをしないようにしていた善の魂でして、人を運ぶような機能は、別世界へ行ってしまった兄弟が有しているんすよ。」

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