第145話 絶望的という言葉を分かりやすく表現してみた

星が輝く夜空が広がっていた。

月の明かりが反射している海上では、魔界から召喚してきた四十九and月姫vs海龍との戦闘が開始されたところだ。

空気が張り詰めている。

一般の人間である少年神官と伐折羅提督はその圧力に耐えきれず気を失い海賊船の甲板に倒れていた。

A級相当の魔物である土竜はなんとか正気を保っているものの、海龍から発せられる圧力によりへたり込んでいる。

月の加護を受けている2人の少女達の戦闘力は、海龍と拮抗していた。

互いの力量が接近している場合、戦術もしくは外的要因が勝敗を左右する傾向がある。

こういう時は、戦局を読み先手をうつのが定石だ。


まず先に海龍が動いてきた。

フィールド属性を活かすために海中へ潜行しようとし、白い蛇状の龍が体長1000mほどある巨体を沈めようとしてきたのだ。

だがその行為は、魔界の少女から発せられている『影』に阻まれてしまっていた。

四十九が発動している漆黒の『影』が、海一面を覆いつくしていたのだ。

海龍の巨体に『影』が絡み付き、海中へ潜ることを許さない。

海龍をディスりながら、その裏では『影』で大海を支配しようとしていたのか。

狡猾さでは、海龍を遥かに凌いでいる。

だが、四十九は大海を制圧しきれていないため、白い龍は少ないながらも大海から加護を受け続けていた。

2人の少女達が連携をし、策を講じたとしても、この状況下では海龍を絶滅させるまで追い込むことは出来ないだろう。

自身の行動を『影』により阻害されてしまった白い龍は、感情が抑えられないようで怒りを爆発させ、影を振りほどこうと巨体を揺らし暴れまわっていた。



「人間ごときがいい気になるなよ。そこの聖女から貰っている月の加護が無いと、お前らなんぞ上位種である我の前ではカス同然の存在なんだぞ。」



中二病患者の言葉は、安定の上から目線である。

怒鳴り散らすことで相手に恐怖心を抱かせて、自分が偉い存在だと思わせようとしているのだろう。

どこかの会社にいる承認欲求が強い駄目な中間管理職と一緒だな。

その海龍は、四十九が大海を覆い隠していた『影』を突破しようと、体長が1000m程度ある巨体を大きくよじらせ暴れ続けていた。

海龍の最善策は、月の加護が消える時間帯がくるまでディフェンスに徹すること。

分かっていても感情に支配されてそれが出来ない性格のようだ。

こういう自信過剰で支配欲の強い者は、有利な立場を失った時点で弱々になる。


四十九の方は、海龍を精神的にいたぶっているものの、余裕はない様子だ。

暴れまわる海龍を大海へ潜行させないように『影』を広く展開させているので、当然と言えばそうなのだろう。

月姫については、グレイプニイルの鎖を手元で動かしながら魔界の少女の様子を心配そうに見守っていた。

いつでも参戦できるように体勢を整え、四十九から声がかかる時を待っている。

攻略法を見つけていない状況下においては戦力を温存するのが定石であり、月姫が参戦を控えている判断は正しい。

ここは状況を打開する一手をうたなければならないところだ。

四十九についても同様の理解をしているようで、戦術についてのアドバイスを求めてきた。



「三華月様。あの中二病。思ったより、出来る。戦術、助言、求む。」

「戦術の助言ですか。四十九達があいつに勝利する為には、大海から受けている加護を何とかする必要があります。」

「あたしの『影』。この海域、完全制圧、不可能。」

「そのようですね。」

「このまま、戦況、続くと、三華月様、胸サイズ。」



なんですか、その意味不明な言葉は。

何かの謎々なのかしら。

どうせくだらない事なのだろう。

苦しい状況下においても、よく遊んでいられるものだ。

その時である。月姫が慌てた様子で四十九へつっこみをいれてきた。



「四十九ちゃん。このままだと戦況が三華月様の胸のサイズって、どういう意味なの?」

「月姫。考えろ。」

「何、それ。もしかしてだけど、『このままだと戦況が絶望的だ。』と言いたいの?」

「月姫、正解。三華月様の胸、絶望的。」

「私達のサイズも同じくらいじゃない。」

「同じサイズでも、未来ある。三華月様、アーメン。」



なるほど。私の胸のサイズを絶望的と表現してきたのか。

その言葉の意味を解読してしまう月姫もいかがなものかと思ってしまう。

この2人は事前にネタ合わせをしているのではないかという疑惑が生まれてきた。

そもそも私は自身の胸のサイズには満足している。

満足気な表情をしている四十九が再び話しかけてきた。



「三華月様。別の案、求む。」

「はいはい。別の案ですね。大海から加護を抑えられないのならば、戦力を増強する。もしくは、勝てないにしても負けない戦術に切り替えてはいかがですか。」

「納得。理解。戦力増援。メタルスライム、召喚、求む。」



メタルスライムとは、嫁探しをしてもらうために私の眷属になった、規格外のステータスをしている奴のこと。

月の加護を得て更に大幅に数値を向上したら、海龍をも凌ぐ能力になるかもしれない。

だが、童貞のまま死にたくないとか、エロのパワー不足をなめるなよとか、ふざけた言葉を並べていた奴を召喚したくはない。

魔界へ送ったメタルスライムの様子について訪ねてみた。



「二人に召喚前のメタルスライムについての様子を伺ってもよろしいでしょうか。」

「もちろんです。ですが、私達は三華月様と違ってメタルスライムと会話は出来ません。」

「月姫。召喚時、メタルスライム、状態、伝えろ。」

「召喚時かぁ。三華月様から呼びかけに承諾するステータスボタンを必死に連打していました。」

「連打するメタルスライム、爆乳美人妻を見る、童貞小僧の目。危険。」



メタルスライムが召喚に承諾するボタンを押していた時の様子が、爆乳の人妻をエロイ目で見ている感じだったと言っているのか。

爆乳好きであるところが引っかかる。

人妻好きなところも危険だ。

そんな危ない者を召喚するわけにはいかないだろ。

奴の召喚は、却下で決定だ。



「メタルスライム召喚は見送ります。」

「寝取り、OUT。」

「巨乳人妻を寝取るような行為の手助けなど、出来るはずがありません。」

「爆乳、三華月様の敵。」

「三華月様。ちょっと待って下さい。巨乳妻を寝取る行為は駄目だと思いますが、四十九ちゃんが言っていることは何ら根拠のないことです。この戦局を打開するための策が他に無いいじょう、メタルスライムを召喚するべきではないでしょうか。」

「月姫。火のない所、煙は立たない。」



いやいや。火のない所に煙を立てようとするのが四十九だろ。

何にしても、あいつを召喚してしまうと嫁を紹介しろとか面倒くさいことを言ってきそうだ。

やはり召喚は見送りの一択しかない。

策については、ないことはない。



「四十九、月姫。負けない戦いへ切り替えることにしましょう。」

「負けない戦術。承知。」

「三華月様。その負けない戦いとはどうするのですか?」

「これから召喚を解除します。」

「魔界への帰還。承知。」

「私達が魔界に帰ることが、海龍に負けない策となるのでしょうか。」

「はい。月姫には、グレイプニルの鎖で、海龍も魔界へ連れて行って下さい。」

「中二病患者、魔界行き。魔界の住人、いい迷惑。」

「召喚を解除することにより、私達が海龍を魔界に引き摺りこみ、そして加護を受けている大海からあれを引き剥がす戦術というわけですか。」



四十九については、目線が違うようだ。

中二病を魔界へ送ることを危惧しているのか。

それはともかく、海龍を魔界へ引き摺りこむことに成功したら、大海から受ける加護がなくなってしまう。

海龍は、だだのドラゴン以下の存在になる。

魔界に戻ると、2人の少女は月の加護が無くなってしまうが、メタルスライムもいることだし何とかなるだろう。

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