第129話 S級サングラス
天空に輝く太陽光が、白い砂浜を焼いていた。
気温は30度を超えているものの、空気は乾燥しており、すごしていて不快な感じはしない。
コバルトブルーの海が透き通り、泳いでいる魚の姿までクリアに見える。
静かにバカンスを過ごすには絶好の環境だろう。
入り江には、軌道性を重視した設計になっている全長30mの帆船が停泊している。
私の討伐対象となっている伐折羅提督の海賊船だ。
砂浜の影には、箒を持っている魔法使い専用の真っ黒なドレスを着ている女がこちらを見ていた。
伐折羅海賊団の1人。九毘羅である。
安全第一のヘルメットと片手に大きなスコップを装備し、サングラスをしている土竜は九毘羅を警戒するように対峙していた。
そしてハイテンションになっていた少年神官が、九毘羅に対し意味不明な挨拶を開始した。
「僕は九毘羅姫の大ファンなんです。ミステリアス感、大人の女性といった落ち着き、知的な雰囲気がもう最高です。」
少年神官は、ボブカットに亜弐羅へ、自身がいち推しで古参のファンだとアピールしていたが、その過去は無かったことになってしまったのだろうか。
女なら誰でもいいという疑惑が生まれてきた。
九毘羅は、黒をベースした魔法使いふうな衣装で統一しており、髪はおとなしめに下げているが、少し化粧は濃い目の感じだ。
醒めた表情で私達を品定めしているような魔法使いに対し、前に出ていた少年神官が更に謎のアピールを続けてきた。
「僕は九毘羅姫を応援し続けます!」
「物騒な話しをしておいて、応援するって、信じられるわけがないだろ。」
「え。僕たちが物騒な話しですか?」
「義賊の呼ばれている私達が乗る海賊船を、破壊しようとする話しをしていたじゃないか。上空にいた私へ、ちゃんと聞こえていたぞ!」
「それは誤解です。僕は九毘羅姫の味方なんです。信じて下さい。」
「そうか。しかし、そちらの聖女さんとその魔物は私を敵視しているようだ。それでもあなたは、私のために戦ってくれるというのか?」
「待って下さい。こちらの聖女様と戦う行為は非現実的なんです。」
「つまり、私のためには戦えないと言っているということなんだな?」
「違います。三華月様と戦ったら終わります。終わるんです。分かってください。」
「結局は、その女と戦わないということなんだろ。お前がいい加減な男であることが、よく分かった。」
少年神官の説得は失敗した。
安定に結果だな。
九毘羅の味方と宣言していたが、その先の会話についてどうなるか想定していなかったのかしら。
その時である。
絶句して、言葉を失っていた少年神官に対し、我関せずと決め込んでいた土竜が爆弾発言をブチかましてきた。
「廉廉君は若くて可愛いタイプの女の子が好みだと認識していましたが…」
「土竜君。いきなりどうしたんだ。九毘羅姫のこを言っているのか?」
「そうです。熟女も守備範囲だったことに驚いております。」
熟女には明確な定義がない。
30代以上の女を熟女とする者もいるし、50代以上であると思っている者もいる。
つばの長いとんがり帽子で九毘羅の顔は影になり明確に視認することは出来ないが、20代後半くらいには見える。
そう。一般的には熟女には含まれないはず。
土竜の言葉を聞いた少年神官が、顔を真っ赤にして怒りの声を張り上げてきた。
「いくら土竜君でも、言っていい事と悪いことがあるんだぞ。」
「何かおかしなことを言いましたでしょうか。」
「女子の年を言い当てるような行為は失礼なんだ。」
「まぁ確かに。そうかもしれません。」
「年齢を聞いてしまい、『いくつに見えます?』と聞きかえされたらどう答えるつもりなんだ!」
「九毘羅の年齢ですか。それは60歳くらいじゃないですか。」
「え。九毘羅姫が60歳だと!」
「はい。60歳くらいです。」
「土竜君。いい加減なことを言ったら駄目だぞ!」
「いえいえ。間違いありません。」
「どう見ても、20代後半にしか見えないじゃないか。」
「魔法メイクで若作りをしているようですが、この超S級のサングラスを誤魔化すことはできません。」
「魔法メイクだと!」
少年神官が口を大きく広げ、あんぐりとしている。
超S級のサングラスが一体どんな効果を秘めているか気になるところだが、九毘羅の年齢が60歳くらいというのが衝撃的だ。
魔法メイク、恐るべし!
少年神官については、泥酔し三半規管が破壊されてしまった酔っ払いのように、陽気な笑顔を浮かべながら千鳥足でふらついている。
あまりも衝撃に、まともに立つことが出来ないようだ。
「土竜君。嘘だと言ってくれ。」
「簾簾君。元気を出して下さい。」
「僕はとんでもない詐欺にあっていたのかよ!」
「年齢を詐称していたわけではないので詐欺には該当しないと思いますよ。」
少年神官がガラクタ状態になってしまった。
とはいうものの、それほど平時と大差はないか。
その向こうでは、九毘羅が人差し指を伸ばし正面に古代文字を書き始めていた。
魔法使いのJOBが使用するスキル『文字魔法』だ。
書かれる文字には魔力が込められており、魔法陣を完成させるとスキルを発動させる効果がある。
『文字魔法』には数多くのスキルを使用できるという長所がある。
短所としては、完成するまでに時間を要すること。
そして相当の胆力を要することがあり、実戦向きではない。
九毘羅については相当に鍛錬しているようで、驚く速度で書き上げていく。
――――――どうやら実年齢を知ってしまった私達の口封じをするつもりのようだ。
『魔法文字』を見ている限りではあるが、効果が分かりかねる。
その完成度はそれほどでもないのだろうが、それでも攻撃をされてしまうと少年神官がダメージを食らい、取り返しのきかない事態になる恐れがある。
ここは、運命の矢で撃ち抜かさせてもらいましょう。
運命の弓を召喚しようとしたタイミングで、土竜が前に出てきて声を掛けてきた。
「三華月様。ここは、忠誠値100%の下僕であるこの私にお任せください。使える土竜であることを証明したく思います。」
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