第128話 基地

半円形状の次元回廊内は、照明で昼間のように明るく照らされていた。

新鮮な空気が流れ、息が詰まるような感覚はない。

掘り進めていていた古代機械は業務を停止し、静かな時間が経過していた。

4人掛けデーブルの上に置かれている連帯保証人になるための用紙へサインを書き終えると、藍倫の表情が、ドス黒いものから天使のような爽やかなら笑顔へ変わっていく。

何だか年季の入ったプロの取り立て屋みたいだな。

聖女として大成していくものと思っていたが、何か違う存在へ成長していっているようだ。



「三華月様。まいどおおきに。今後ともご贔屓にして下さい。」



藍倫からの怪しい方言を喋ってきた。

手を出してはいけないものにかかわってしまった感覚に陥る。

藍倫は土竜へねぎらう言葉をかけながら肩をポンポンと叩くと、死霊王と共に乗車してきた車へ乗り込み、入ってきた扉から戻っていった。

ようやく帰ってくれたか。

土竜については、こちらへ一礼してくると、安全第一と書かれているヘルメットを被り直し、何事も無かったように図面を広げて掘削作業を再開した。

神官用の黒衣を着ている少年神官は、テーブルで読んでいた神聖学の本を再び開き熟読し始めている。

二人は何事もなかったように普通にしているのはどうしてなのかしら。

そして数時間が経過した後、ようやく最初の目的地となる伐折羅提督の基地があるという島への回廊が開通した。



「三華月様。僅かなトラブルがあったものの、ほぼ工程通り施行が完了しました。」



あの闇商人の取り立てが僅かなトラブルに相当するというのかよ。

まぁしかしだ。

今は、七武列島近海に出没するという伐折羅海賊団を殲滅することに力を注ぐべきところだろう。

土竜が開通させた回廊から出てきたそこには、青空が広がっていた。

回廊を掘り始めた時は深夜であったが、昼間の時間帯に経過しているようだ。

太陽の光が照り付ける白い砂浜が眩しく輝き、コバルトブルーの海がある。

波の侵食作用によって出来たと思われる入り江には、全長30m程度の帆船が浮かんでいた。

全長と全幅のバランス比が良く、高い速力と機動性を両立した設計になっている帆船だ。

少年神官が入り江に停まっている船を指さし、大きな声を張り上げた。



「三華月様。あれは伐折羅海賊団の船です!」



やはりあの船は伐折羅提督の海賊船だったか。

伐折羅海賊団は、提督と3人の女子で構成されているという。

亜弐羅については、ペンギンの元へ護送済だ。

ということは、ここに伐折羅提督と残り2人の女子がいるのかしら。

最後に回廊から出てきた土竜が、入り江に停泊している海賊船を指さしながら聞き捨てならない一言を告げる声が聞こえてきた。



「伐折羅海賊団には何の恨みも無いが、これも三華月様のためだ。ここで海賊船は海のもくずにしてやろう。」



伐折羅海賊団の討伐は、土竜からお願いをされて行う流れになったはず。

私のためって、どういう理屈なのかしら。

商業ギルドが瀕死の状態に陥ってしまった原因の一端に伐折羅海賊団の存在があり、土竜はやりきれない思いを吐いていた。

いや。それは違うか。

私に付いてきた話しは、全て藍倫からの助言によるものだったということか。

何にしても、消滅しかかっている商業ギルドを救わなければならないことには変わりない。

そう。自身のやるべきことは決まっている。

まずは、海賊船を航行不能な状態にさせてもらいましょう。

土竜がした海賊船を沈める発言に対し、少年神官が抗議している声が聞こえてきた。



「土竜君。あの船には九毘羅姫と迷企羅姫が乗っている可能性があるんだ。むやみに攻撃しないでくれ。2人の姫に何かあっては駄目だろ。」

「2人の姫とは、知的のお姉さん、クールビューティな女子のことですか。」

「そうだ。土竜君。僕達は親友だろ。」

「それでは、2本のマストを破壊するくらいにしておきましょうか。」

「有難う、土竜君。船本体には傷付けないように注意をしてくれよ。」

「え。その言葉からすると、まるで私が破壊するように聞こえますが、どういうことですか?」

「話しの流れからして、当然、土竜君がマストを破壊するんじゃないのか。」

「私が手に持っているこの最強のスコップでは、遠くにある物を破壊することなど出来ませんよ。」

「土竜君。まぎらわしい言葉はやめてくれよ。」



少年神官に同意だ。

やれやれです。

誰がマストを破壊するかと言えば、消去で私しかいないのだろう。

もちろん、それくらいのことなら対応させてもらいます。

だが今は、上空に浮かんでいる敵から先に排除しなければならない。

回廊から出てきてから、箒に乗っている女が私達を見下ろしていたのだ。

真っ黒なつばの長いとんがり帽子をかぶり、金色のラインをあしらったレースが付いた魔法使い専用のドレスを着ている。

その魔法使いの女が、箒に乗ってゆっくり降下を開始してきた。

私の視線の先を追った少年神官が彼女を見つけて叫んだ。



「あのお姉さんは九毘羅姫だ!」



九毘羅とは伐折羅海賊団の一人で、少年神官の説明では、綺麗系の知的なお姉さんと言っていた者だ。

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