第116話 とある考古学者は◯◯◯である

荒れ狂う海に船内が不規則に揺られ続けていた。

通常の者なら立ってはいられないくらいの激しいものだ。

エンジン室からコクピット室へ繋がる通路にて事件が発生した。

そこに置いてあった遺体を葬り収める棺へ、私の手が触れてしまったのだ。

私自体は問題ない。

その姿を見たペンギンが額に青筋を浮かべながら、絶叫してきたのだ。



「ぐぎゃぁぁぁぁ、三華月様がまた絶対にやってはいけない事を、やってしまった!」

「いきない何ですか。そんな言い方をされてしまうと、私が駄目女みたいに聞こえるではないですか。」

「マジですか。マジで自身が駄目女でないと思っているのか。やはりというか、三華月様って、他人に迷惑をかけている自覚が無いのでしょうか!」

「まぁ確かに、少しくらいなら駄目な行為もしているかもしれません。だが、私はそれ以上に世界へ貢献しているはず。実際に、私は史上最も神格が高い聖女になっているではないですか。」

「三華月様は、神格が高く、世界に大きく貢献されているのでしょう。だが、しかし、駄目な行為は少しくらいならではなく、災害級の大迷惑なもの。世界に貢献したからといって、その行為は帳消しになるものではありません。自身の行動を振り返ってみて下さい!」



世界へ迷惑をかけた度合いが災害級だったとしても、それ以上に貢献しており、差し引きするの大きくプラスになっている。

いやいや。災害級に迷惑をかけているとは言いすぎだろ。

そもそもだが、何となく伸ばした手が、棺に触れてしまっだけのこと。

なんて酷い言われようなのかしら。

その棺に触れても、何ら違和感はない。

いたって普通な感じなのだ。

その中に収まっているものは、ペンギンがいう遠い存在だとは到底思えない。

棺の中が空っぽだったりする可能性もあるではないか。

そう。すぐそこにあるように見える棺に手が届かないって、どういう理屈なのだ。

この棺は蜃気楼なのかよ。

絶望的な悲鳴を上げていたペンギンは過呼吸状態に陥り、酸素不足になった金魚のように口をパクパクとさせている。

棺をポンポンと軽く叩いてみせると、ペンギンが顔を近づけ、更に激しい口調で言葉を叩きつけてきた。



「三華月様、だから、やっていい事と悪い事があるって言っているでしょうが!」

「この棺には、遠い存在といえるものが本当に入っているのでしょうか。それって、ペンギンさんの勘違いかもしれないですよ。もし、そうだとしたら、私のことをやらかしたと言ってくれましたが、ペンギンさんの方がやらかしてしまった事になってしまいますよ。」



その時である。

軍船が不自然な感じでブルブルと小刻みに震え始めた。

荒れる狂う海からの外圧によるものとは明らかに異なる揺れだ。

――――――軍船が崩壊し始めたものだと直感した。

ペンギンの指摘のとおり私が棺に触れてしまった事が原因で、軍船の崩壊が始まったのかしら。

更にペンギンから飛ばされてきた言葉が胸に突き刺さってくる。



「やってはいけない事をどうしてもやってしまうにしても限度があるのですよ!三華月様にとっては、ただの木箱なのかもしれませんが、棺に収められているものは、普通は絶対届かない存在なのです。届かないはずのものを触れてしまうのって、おかしいでしょう。三華月様が普通の存在でないにしても、触ったら駄目だって分かりますよね!」



ペンギンが言っていることはその通りなのだろうか。

手を伸ばし棺に触れた私の行動がやってはいけないと言われても釈然としない。

とはいうものの、私のその行為によって軍船が壊れ始めているのも事実であると理解できる。

納得がいっていない様子の私を見ていたペンギンが怒りをにじませた低い声で、とある考古学者の話しを始めてきた。



「三華月様には、とある考古学者の法則について、教えて差し上げましょう。」

「はぁ。とある考古学者の法則ですか。」

「はい。その考古学者は、秘宝を巡って多くの試練を乗り越えますが、最後の最後で、絶対に何かをやらかしてしまうのです。」



そんなどうでもいい話しなど、全然聞きたくないし、今は軍船に起きている異変に対応をするべきところだろ。

だが、ペンギンから感じる気迫におされて、何も言い返すことが出来ない。

ここは、とある考古学者の話しを聞く一択しかないようだ。 

ペンギンが自身を落ちつかせるようにゆっくりとした口調で話し始めた。



「そのとある考古学者は、知恵と勇気を振り絞り、更に幸運を得て、遺跡探索に降りかかる災難を次々とクリアーしていきます。そして最後の最後で油断をした結果、イージーミスを犯してしまい、99%攻略済みだった遺跡を崩壊させてしまうのです。」

「なるほど、人はゴールが見えてしまうと、気を抜いてしまい、足元がおろそかになる傾向があります。話しの流れから察するに、その考古学者は遺跡の崩壊を止めるために、再び知恵と勇気を振り絞るのでしょうか。」

「いえ。それが、その考古学者には自分の失敗を何とかしようとする意思は微塵もなく、一目散に遺跡から逃走を図ろうとするのです。」



何!

知恵と勇気を持って災難をクリアーした者が、自身の失敗を回収することなく逃げるのかよ。

なんて無責任な奴なんだ。

その行動はクソ迷惑なピンポンダッシュと同じだろ。

その考古学者は正真正銘の『うんこ』である。

人はうんこになったらお終りだな。

うんこについてあれこれ考えていると、ペンギンから私の精神をボロボロにさせる強烈な一撃となる言葉が飛んできた。



「三華月様の行動は、その考古学者と一緒なんですよ!」



――――――ちょっと待て。私が、『うんこ』である考古学者と同じ存在だと!

図星を突かれてしまった為か、感情が高ぶっていく。

それだけは絶対に嫌だ。

うんこへの拒否反応を表す棒グラフが急加速して伸び始めていくと、超低空に設定されている怒りの臨界点を遥かに突き抜けた。

そして、本能に従い吠えていた。



「私は、うんこでは無い。それにピンポンダッシュはやらないぞ!」

「………。」



ペンギンの醒めた反応を見ていると、感情に支配されていた頭の熱が急速に冷えていく。

私がうんこであるかという問題については永遠に保留するということでいいだろう。

ここで軍船が沈んでしまうと緋色達および漂流者達、そしてポラリスが海に沈み、私の信仰心が大きく下がると思われる。

うんこ問題も大事ではあるが、信仰心のダウンは私の死よりも重い。

今は、起きている物事に対して、冷静に対応しなければならないところだ。

とは言うものの、私に軍船の崩壊を食い止めることはできない。

怒っているペンギンへ、とりあえずそれらしく謝罪してみることにした。



「鬼可愛い女の子は何をしても許されると知っておりますが、それでも軍船の崩壊のトリガーを引いてしまった行為について、謝罪させて頂きます。申し訳ありませんでした。」

「そこで、鬼可愛い言葉を言う必要ってありますか?」

「あるでしょっ。」

「まぁそうですね。私も三華月様には言い過ぎてしまいました。それから、軍船の崩壊くらいでしたら、私の方で対応可能です。」

「おおお。ペンギンさんは、軍船の崩壊を止めることが出来るのですか。」

「それくらいなら、どうってことはありません。」

「さすがペンギンさんです。」

「既にハッキングを開始し、現在、75%程度は軍船のコントロールを掌握しておりまして、もうまもなく100%の掌握は完了する見込みです。」



ラグナロク領域に侵入してしまったが、その失態を見事にフォローするとは。

性格には問題があるが、さすが最古のAIだ。

残る問題となる、緋色および漂流者達の安否については、軍船を掌握しつつあるペンギンより、軍船内に取り込まれて睡眠状態になっているが全員無事であると報告があった。





次から新章です。

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