第117話 少年神官れんれんによると

陽射しが降り注いでくる青い空には、獲物を探し滑空を始めようとタイミングを図っている海鳥達がとんでいた。

水平線の先にある空には分厚い雲が浮かび、陸地へ向けて潮風が吹いている。

まもなくスコールが降ってきそうな天候だ。

ラグナロク領域から脱出した帝国旗艦ポラリスは、緋色のスキル『フロート』の効果により沈没することなく、食糧不足に陥っている七武列島の首都港へ入港していた。

甲板から見下ろすと、港には数千人はいそうな群衆が集まってきている。

帝国から物資を運んで来た船が入港した話しを聞きつけ、暇人達が集まってきていたのだ。

清楚系の美人の聖女を大歓迎したい気持ちは分からなくでもないが、さすがにこれは盛り上がりすぎだろ。


ようやく帝国から受けていた七武列島に物資を運ぶ、クソ簡単なはずのクエストが完了した。

信仰心については、下がらなかったという結果となっただけでよしとしておこう。

ポラリスで運んだ物資は教会の者達が一般市民へ分配するスキームになっており、緋色達漂流者達には教会の手伝いをお願いし、ペンギンへはまた誰かがラグナロク領域へ迷い込まないように地上世界から繋がる次元の狭間を閉じるように依頼をした。

後のことは他の者に任せ、私は『隠密』を発動させ、群衆から見つからないように七武列島首都の街へ進入しようとしていた。


太陽光が照り付ける土を固められた道路の両端には店舗が軒を連ねているものの、シャッターが閉じられているお店がほとんどだ。

昼間の商店街にもかかわらず、人が少ないのは港の方へ集まっているせいかもしれない。

私が見つからないように船から降り、首都の街を歩いているのには理由がある。

ラグナロク領域から脱出した際、『神託』が降りてきたのだ。

私にとって神託とは、何よりも優先される。

そう。熱烈な歓迎などされている暇はないのだ。

さて、その『神託』の内容とは…



七武列島の食料不足を解決せよ、である。



なんて漠然としたクエストなのだろうか。

食糧不足になった原因が自然災害によるものだとしたら、新たな川をつくるとか、堤防をつくらないといけない。

雲を掴むような難易度の高いクエストに見えていても、必勝法に照らしあわせてみると案外簡単に攻略方法が見えてくるものだ。

ポンコツ女神から貰ったゴミスキルが実は最強の内政スキルでしたとか、入った酒場が異世界に繋がる食堂だった、その辺りいるようなマスターが実は元最強ランクの冒険者でした、みたいな展開になれば簡単にクエストを遂行することができる。

何故か、可愛い聖女にはそのクエストに無賃乗車できるという特典もあるときく。

そう。私のような可愛い聖女は、酒場にて困ったふりをしていればいいのだ。


早速といった感じで、BARと書かれている看板がある酒場を発見した。

さすが可愛い聖女は何をやってもすぐに目的地に辿りついてしまうものだ。

必勝法に照らし合わしてみると、問題を抱えている可愛い聖女と、街の酒場は重量で引き合うような関係であるかもしれない。

だが、昼間ということもあり、残念ながらシャッターが閉じられており、開店は夜からのようだ。

うむ。ここは出直してくるしかないところか。

周囲を見渡すと、酒場の屋根の向こうに十字架のかけられた建物が見える。

教会の者はポラリスにて運ばれてきた物資を管理するべく港へ出払ってしるだろうが、さすがに留守番の者くらいはいるだろう。

酒場があく時間まで、教会にて食料不足になった原因について情報収集でもしようかしら。


教会は、レンガが敷かれた大きな円状のなった広場沿いに建っていた。

急勾配の赤い屋根で、真っ白な塗り壁には大きな十字架が張り付けられている。

門をくぐり開いていた両開きの扉から建物内へ入ると、天井が高く真っ白な壁にステンドグラスが等間隔で配置された礼拝堂がある。

そこには可愛らしい少年神官が一人で掃除をしている姿があった。

全身真っ黒な服装をした少年神官は私より10cm程度背が低く、笑顔がかわいい男の子である。

私に気が付くと深くお辞儀をして駆け寄ってきた。



「聖女・三華月様でしょうか。僕はここで神官をしています簾簾れんれんといいます。年齢は15です。よろしくお願いします。」

「はい。三華月です。よろしくお願いします。よく私のことがわかりましたね。」

「はい。親友の土竜もぐら君か、派手な十字架のデザインが施された聖衣を身につけている三華月様のことを聞いておりました。」



親友の土竜君。

人の名前なのかしら。

気にすることもないだろう。

とにかく今は、『七武列島の食料不足を解決』することが何よりも優先される。

とりあえずといった感じで、少年神官へ質問をしてみることにした。



「廉廉。知っていれば教えてほしいことがあります。」

「僕に答えられることなら、何なりとお話しします。」

「神託により私は七武列島が食料不足になっている問題を解決しなければなりません。」

「おお。神からの啓示ですね。さすが神に最も近い聖女様。」

「食料不足になっている原因について、何か知っておりましたら教えて下さい。」

「食糧不足に陥っている理由ですか。はい。お任せ下さい。」



心強い答えだ。

駄目元で質問してみるものだ。

異世界へ繋がる酒場の親父から情報収集をする必要がなくなった。

鬼可愛い聖女は何をしても、いい方向に話しが進むものなのかもしれないか。

少年神官が、食糧不足の原因について言葉を続けてきた。



「現在、主な収入源である水産業の漁獲量が酷く落ち込んでいるため、七武列島から外貨がなくなり国が貧乏になっているのです。」

「七武列島で魚が獲れない時期が続いていると聞いています。その原因を教えて下さい。」

「不漁の原因についてですか。」

「はい。不漁の原因を教えて下さい。」

「残念ながら、知りません。」

「え。知らないのですか。」

「僕は情報屋ではありませんよ。」



少年神官が深いため息を吐きながら首を左右に振っている。

欲しい情報の獲得に失敗した。

この少年神官から駄目そうな者が持っている独特の雰囲気が漂っている。

やはり、元S級冒険者のハーレム好きな酒場の店主に頼るしか選択肢はないのだろうか。

少年神官が仕方なさそうな感じで、更に話しを続けてきた。



「三華月様。よろしければ、情報をおおくもっている者を紹介させて頂きます。ご案内しますので僕に付いてきて下さい。」

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