第89話 被弾しました
足元には真っ白な雲のじゅうたんが広がっていた。
遮るものが何もない頭上からは太陽光が降り注いでいる。
ここは上空10000m。
S王国へ向かい音速の速さで馬型の機械人形が疾走していた。
機械人形が進む先には、足場のようなフィールドが生まれてきており、飛んでいるというよりは、空を駆けている感覚がする。
はたから見ると、ひなたぼっこびよりの快適そうな環境に見えるが、ここは酸素が薄く気温マイナス50℃の世界。
まさに死の世界と呼ぶにふさわしい場所だ。
機械人形は古代人が作った生命体であり、増殖機能、治癒機能を有している。
現在人よりも早い速度で進化をしており、近い将来、彼等が世界の統治者になるかもしれない。
空を疾走し続けて約25分が経過した頃、遠い向こうにS王国首都の姿が見えてきた。
その規模は、帝都と比べると1/10程度であるが、それでも大陸第2位の大きさを誇っており、首都の中心にある城は高い丘の上に建っている。
丘のふもとからは入り組んだ道の古い町並みが続き、無計画に街が広がっている感じだ。
貿易に特化し整然と計画された帝都とは対象的に、S王国首都は軍事防衛に特化された都市であるためだ。
首都周囲には古代兵器が多く配置されているが、メンテナンスできる者が不在なため動くことは無い代物になっていた。
私が駆る機械人形が減速をかけて、着地するポイントを探していた時。
――――――――スキル未来視が発動した。
距離4000m向こうに配置されている動かなくなったはずの8門の連射式機関砲から、35×228mmの貫通弾が私に向かい一斉斉射されてくる未来が見えたのだ。
何故、動かくなった機関砲が。
そう言えば、
『千里眼』にて私の行動を把握し、動かなくなっていた古代兵器をメンテナンスし迎撃してきたのかしら。
月の加護を受けないこの状況では、運命の弓を召喚し、8門の機関砲から連射されてくる貫通弾を全て撃ち落とす事は不可能だろう。
機械人形については、当然、狙われていることに気が付いていない。
消去法になるが、私は被弾する事を覚悟して耐えきるしか選択肢がないようだ。
―――――――――約4000m離れた8門の砲弾から一斉斉射された貫通弾を視認した。
着弾まで約3秒。
痛いくらいでは済みそうにない。
私は信仰心により防御力を上昇させます。
防御力を最大まで上げた聖衣が貫通弾をはじいてくれるはずなのだが、それでも衝撃を100%軽減することは難しいかもしれない。
ある程度のダメージを受ける覚悟が必要ということか。
私を撃ち抜こうとする貫通弾の斜線がはっきり見える。
3、2、1…
―――――――――被弾する。
シールドとして3重に展開させていた聖衣が、貫通弾をはじいている映像がスローモーションのように見える。
そして、続けて受け流しきれなかった衝撃波が私の体に襲いかかってきた。
骨が砕け、内臓がぐちゃぐちゃに破壊されていくのが分かる。
視覚が真っ暗になり、鼓膜も既に破れているが衝撃音が直接脳へ伝わってきていた。
思考が停止する。
次に目覚める時はいつになるのかしら。
気が付くと、真っ暗になっていた景色が徐々に回復を始め、空にいくつもの貫通弾が通過していく弾道が見えていた。
意識を失っていた時間は一瞬だったようだ。
破壊された神経回路の回復はまだのようで痛みは感じない。
心臓は起動を再開し、失った血液も精製を始め、意識がクリアーになっていく。
バランスを回復させていた機械人形が落下中の私を拾い上げてくれていることに気がついた。
神託に従い行動する私は常に正しい。
だが私の行動が、人類、魔物、その他諸々の全種族達にとって望ましいかと言えば、そうでは無いと認識している。
私は狡猾で非道な事が大好きだし、神託ならば現最強生物であるドラゴンでさえも殺処分をしようとする。
いずれズタボロにされるのだろうなと覚悟をしていたが、最初にやってくれたのは死霊王だったとは。
私の人生も、まだまだ何が起こるか分からないものだ。
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