第78話 クソ迷惑な異界の神に仕える信者の野望

四十九達を魔界へ送り届けた後、城塞都市の地下迷宮にて『神託』が降りてきた。

その神託の内容とは、

――――――――――異世界から召喚されてきた佐藤翔という者が、S王国で起こそうとしている暴虐を鎮圧することである。

たまに異世界からこちらの世界へ召喚されてくる者がいる。

異界の神に仕える信者達が、異世界にて現状に不満を持っている適当な者を選び出し、こちらの世界へ召喚させてくるのだ。

召喚者達の中には、稀に『チートスキル』を獲得する者がおり、その者は異界の神に仕える勇者として認定される。

誰にも相手にされなかった者が、人に必要とされると嬉しいものだ。

無価値だった者が何の代償も無くチートスキルを獲得し、『世界の調和者になって下さい』とおだてられ気持ちよくなる。

そして異界の神の信仰を広めるために利用されてしまうと、駄目人間が更に堕ちいく定型ルートへ入っていく。

もちろん召喚される者の内、多くの者は常識的な行動をとるのだが、今回、処刑対象となってしまった佐藤翔は駄目人間であり、クソ迷惑な奴に該当するようだ。


地上世界に召喚された後の佐藤翔の行動であるが、入ったギルドから無能という理由で追放をされ、その後S王国に新しくギルドを立ち上げ、獲得していたチートスキルを活かして既存の商業系ギルドを潰しまくっているらしい。

ここまでくると佐藤翔も、異世界の信者達にそそのかされていると気付き始めているのだろうが、無価値だった自身が物語の主人公になったような気持ちになり、歯止めが利かなくなっているといった感じだ。


ここから先の佐藤翔のは、S王国の商業系ギルドを全て潰してしまい、S王国の全交易の権限を全て握る事になる。

大きな権力を得てしまうと、気持ちの弱い者は失敗を取り戻すための行動を突き進み、失敗に失敗を重ねる魔のサイクルに嵌り堕ちていく。

佐藤翔は国王となり、中身の無い『抜擢・改革』を繰り返し、S王国を崩壊させた後、私に抹殺・処刑される運命だ。

ここに至るまでの犯した罪を考えると佐藤翔の魂は地獄堕ちとなるルートで確定だろう。

私の使命はS王国の崩壊を止める事であり、『佐藤翔の暴虐』を阻止しなければならない。



現在、城塞都市から更に北にある『死霊の世界』という地に来ていた。

見上げると夜空には白銀のカーテンのようなオーロラが見える。

空気が澄み切った塵ひとつない世界は、本能的に死を身近に感じさせるものだ。

まさに最果ての地という言葉が似合う景色である。

ここにきた目的は、『次元列車』に乗車するため。

世界の記憶『アーカイブ』に北の氷雪地帯にその『次元列車』が眠っていると記載されており、S王国までに移動手段に利用しようと考えたのだ。

目的の場所には氷盤の上にある小さな駅に、それが停車していた。

古代文明でいう路面電車を改良して、造られたものだ。

全長が12mの一両編成で、乗客席が向かい合わせに設置されている。

使い古して非常に傷んでおり、おんぼろというのが第一印象だ。

次元列車と聞き想像を絶するそのテクノロジーを期待していたが、逆の意味で想定外だった。

いくら何でも名前負けし過ぎだろ。


現在、レールの上を時速20km程度で走り心地よく揺れていた。

思っていたよりも遅い。

だが、このおんぼろな姿を見てしまうと、いま走っている速度が限界かもしれないと思えてしまう。

佐藤翔がいるS王国までの距離は約2000km。

単純計算で100時間後に到着する予定だ。

何もない氷雪地帯に、どういう理屈なのか、レールとエネルギーとファンタグラフに接する電線が走る先に出現していた。

次元列車のAIに急ぐようにお願いしてみた。



「次元列車さん。お願いがあります。」

「はぁ。一応話しだけは伺いますが、かしこまってされるお願いって、お金を貸してくれとか、いま食べているそのケーキを少し頂戴とか、図々しいものが多いんですよね。」



いきなりため息をつかれてしまった。

そして応諾するものの、目一杯な嫌そうな声を出し、お願いしづらい雰囲気づくりをしてきている。

これは過去に何らかの原因があり、人間不信に陥っているときの状態に近い。

たんに、面倒くさい性格という可能性もあるか。

何にしても、神託が降りてきたからには先を急ぎたい。

私からすると、駄目元でもいいので、ここはお願いをする一択しかないところだ。



「次元列車さん。私は少々急いでおりまして、勝手を言うようですが次元を歪めてS王国までワープなんかをして貰えると有難いのですが、ご検討願えないでしょうか。」

「はぁぁぁ。次元列車という名前だからといってワープなんか出来ませんよ。見てのとおり僕は路面電車をベースに改良されておりまして、例えるならば『ぽん酢』を買ってきてくれと母に頼まれた父が、ラベルに『ぽん酢』と貼ってあるミツカン酢を買って帰ってしまったら、これは『ゆずぽん』やと、父が母に怒られる様なものなのです。」



私のお願いに次元列車がため息を吐いたと思うと、鬱陶しそうに訳の分からないことを喋り始めてきた。

ぽん酢の話しとは、『ワープが出来そうな名前なのに、紛らわしくてすいません。』と言いたいのかしら。

一般的に認知されている『ぽん酢』の入れ物には『味ぽん』というラベルが貼られている。

そして『ゆずぽん』の入れ物の方へ、『ぽん酢』のラベルが貼られていた。

こういう勘違いによる事故は日常でも起こりうることなのだ。

とはいうものの、疑問がないこともない。



「次元列車さん。先ほど言われた例え話について質問があるのですが、母に頼まれて『ぽん酢』のラベルが貼られた商品を買って帰った父は、言われたどおり物を購入したにもかかわらず、どうして怒られてしまったのでしょう。」



父は母に頼まれたとおり買い物をして帰ったはず。

そもそも母が、父へ『味ぽん』を買ってくるように頼めばよかったのだ。

間違っているのは母であり、父が怒られるのは筋違いだろう。

これは、母の逆切れなのだ。



「三華月様。それは家事をやっていない人が言う言葉です。確かに父親は間違えてはいないのでしょう。でも家事をやっていたら、そんな間違いはしません。『ポン酢』と言えば普通は『味ぽん』の事なのですよ。普段、家事手伝いをしていない父は、自身を反省しなければならないのです。」



なるほど。

父の行動は、『やらされているもの』であり、『積極的に家事をしよう』と思っていないことが原因で、家事に対する思考は停止していたことが大惨事を招いてしまったということか。

それから、次元列車の喋る言葉を聞いていて、浮かんだ疑問について確認させてもらいましょう。



「次元列車さん。もう一つ質問をさせて下さい。先ほど、自身は『路面電車』をベースに改良されたと言っていましたが、ワープが出来ないとしたら、何を改良されたのでしょうか。」

「僕は異世界に行けるように改良をされました。異世界転生とか、転移される人達を元の世界に戻す役割があるのです。」



異世界の航行は、ワープの遥か上位存在だ。

ワープ出来るだけの能力を持ちながら、使い方が分かってないだけのことなのだろう。

それを指摘してしまうと、きっと逆切れされてしまう。

ワープの件は諦めるしかないとことか。

ここまで話して分かったことがある。

この次元列車は、能力的に言えばペンギンよりも優秀かもしれないということだ。

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