第77話 魔界へ繋がる回廊
城塞都市の地下ダンジョン。
私を捕らえるためにダンジョンマスターの十戒が用意した闘技場のように大きくとられていた空間に月姫とメタルスライムを従え、やってきていた。
高く取られた天井から落ちる光が、床に敷き詰められている石板を明るく照らしている。
少し乾いた風が流れ、過ごしやすい気温だ。
正面には『転生』に失敗し、ゴブリンになってしまった十戒が、月姫の操るグレイプニールの鎖に捕縛され動けないでいた。
その十戒が命乞いをしてきていた。
≪申し訳ありませんでした。心からお詫びいたします。どうか命だけはお助けください。≫
定型どおりのその場しのぎの軽い言葉だ。
嘘を見極める事が出来るスキルを取得していなくても、苦し紛れで言っている事くらい分かる。
とはいうものの、真面目女子の月姫へ、十戒の命乞いをしている言葉をそのまま伝えてしまうと、コロリと騙されて、解放してしまう可能性がある。
多少アレンジをして、通訳みたいなことをしてみると、思っていた以上に月姫がブチ切れてしまった。
「あの十戒は月姫へ、『俺の命を助けてくれ。その代わりに、俺様が世界の王となった時には、ハーレム嬢の姫の1人として養ってやってもいいぞ。』と言っています。」
――――――ブチッ、ブチブチブチ!
月姫の表情は変わらぬ穏やかであるが、額には青筋をうかべており、眼鏡の奥にある瞳が笑っていない。
これで、月姫もこちら側の人間になってしまったようですね。
うむ。めでたいことだ。
さて、十戒の処分であるが、とりあえずといった感じで一度ブチ殺し、期待していた以上の『転生』した姿を見ることが出来たので、満足したというか遊び飽きてしまった感じになっている。
十戒をすぐに殺さないように月姫をなだめなければならないか。
「月姫、少しご機嫌斜めのようですね。」
「斜めどころか直角ですよ。」
ほんの数秒の間に十戒はグレイプニールの鎖でグルグル巻きにされていた。
普通のゴブリンは単体ではスライムにも勝てないF級相当の激弱の魔物であるが、スキル『転生』が完全消滅をしていない状態では、殺しても違う姿で生き延びてしまう。
それに、スキル『ミラー』を持ち、『俺だけレベルアップできるゴブリン』であるらしいし、処分するなら、全てのスキルを破壊してからの方がいいだろう。
「月姫。その不謹慎な
「私は冷静です。このクソゴブリンをどうやって殺そうか、たんたんと考えていたところです。」
月姫からは『ゴォォォォ』と発せられているような凄みを感じる。
眼鏡をキラリとさせている月姫が、真面目キャラの委員長ではなく、インテリヤクザのように見えてきた。
このままだと、十戒はドラム缶に詰め込まれて海底に沈められてしまいそうだな。
私と月姫は『幻影通り』に戻り、鳥居の奥にいた。
周辺を『魔道の精霊』達が飛んでおり、私の前に体長15mあるA級以上の魔物であるサーペントが正座をしている。
なぜ、サーペントが正座をしているのかしら。
そして、月姫の鎖によって全身をグルグル巻きにされて、ミノムシのように地面に転がっていた十戒の全てのスキルを破壊するために、『SKILL_VIRUS』を撃ち込んでいた。
これで、十戒は7日後にただのゴブリンとなることが確定した。
月姫は、ダンジョンマスターである十戒に支配をうけていないサーペントに対して、十戒の扱いについて命令をし、私がその通訳をしている。
「十戒を7日間ほど護衛して、その後に幻影通りから放り出しなさい。」
ゴブリンは集団戦を得意としているのだが、世界最高難易度を誇る城塞都市の地下ダンジョンには、弱すぎるゴブリンは存在していない。
万が一、ダンジョンから脱出できたとしても、ここは四方を岩砂漠が広がる寒冷地帯であり、仲間と合流することは出来ないだろう。
仮に合流を果たしたとしても、進化が出来ないただのゴブリンは、種族内で奴隷のような扱いを受ける。
進化可能なゴブリンはレア種だけであり、ただのゴブリンである十戒は、経験を積むとある程度強くなれるのだが、ただのゴブリンのままなのだ。
生き残ったとしても地獄が待っている。
表情を崩さない月姫であるが、眼鏡の奥の瞳が怪しく笑っていた。
◇
体調が回復した四十九を魔界へ送り届けるために辿り着いた最深部には、天井・幅共に100m程度ある回廊があった。
この回廊を抜けると魔界である。
ここから先に行ける者は、魔神の加護を受けた者、もしくは地上世界で唯一『自己再生』を獲得している私であるはずなのだが、『影使い』に飲み込まれていた際、月姫が『闇耐久』を獲得しており魔界への適正を得ていた。
スキル『影使い』を獲得しているものの、まだ使いこなせていない四十九を単独でこの先に行かせてしまうのは不安であるが、グレイプニールの鎖を自在に扱っている月姫と、メタルスライムを同行させていれば魔界で、無双をするだろう。
私は、四十九と、月姫と、メタルスライムと別れて地上世界に戻る事にした。
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