第74話 とりあえず1度ブチ殺しますので
要塞都市にある地下ダンジョン内の狭間に隠れている幻影通りの最奥は、一般の者が侵入出来ないように結界が張られていた。
澄んだ神聖な空気が流れている。
至るところに鬼火のように魔導の精霊達が浮遊し、その精霊達から落ちる光が一面に敷かれている白い砂利に反射していた。
精霊達を守護しているというサーペントの上位種の姿は視界から既に消えており、『影』に体力を奪われ続け、消耗していた四十九が仰向けになり寝息をたてている姿がある。
先に目覚めていた月姫には、ここを捜索したいと言うので、護身用に『グレイプニールの鎖』を渡しておいた。
グレイブニールの鎖とは神獣を繋ぎとめることが出来る伝説級の鎖で、私をもってしても使いこなすことが出来ない代物だ。
月姫ならと思い渡してみたところ、四苦八苦しながらも器用に動かしていたのは、さすがとしか言いようがない。
これを使いこなせたならば、ドラゴンさえも簡単に捕獲出来てしまうかもしれない。
四十九についても言えることだが、この眼鏡女子も、アンデッド王をも凌ぐ可能性を秘めている。
しばらくすると、全身を鎖でグルグル巻きにされた体長15mほどあるサーペントを、月姫が底引き猟をしているように引き摺りながら歩いてきた。
その上位種のサーペントはA級~S級に位置する魔物のはずだ。
学級委員長みたいな眼鏡っ子女子が、5t以上の重量がある魔物を1人で引き摺っている行為は、質量と速度の積から求められる運動力の法則を無視しているぞ。
何がどうなっているのかしら。
一応であるがどうやってサーペントを捕らえたのかを聞いてみると、意味不明な答えが返ってきた。
「適当に罠を仕掛けてみたらサーペントが引っかかっちゃいまして。えへへへへ。」
世界最強の装備品と言われている『オニオンシリーズ』を使いこなすことはできるJOB『たまねぎ』とは、これほどまでに凄いものなのか。
予測していた範囲を超えているにしても、流石にこれは超え過ぎだろ。
何だか月姫をこのまま放置していてはマズイ気がしてきた。
「四十九が回復するまで、もう少し時間がかかりそうですし、目覚めるまでの間に城塞都市のダンジョンマスターである十戒を狩ろうと思います。月姫も私に付いて来なさい。」
「えっ。私なんかが、三華月様の狩りに同行させてもらってもいいのですか。全然役にたたないと思いますが、よろしくお願いします。」
直した眼鏡の奥にある月姫の瞳がキラリと光っていた。
言葉とは裏腹に、やる気満々なようだ。
ちなみにサーペントについては、キャッチ&リリースみたいな感じで解放しておいた。
『幻影通り』に迷い込んでから2日間が過ぎていた。
つまり、『SKILL_Virus』の効果にて、十戒が獲得しているスキル『転生』は、30%ほど崩壊が進んでいる。
そろそろいい頃合いの、狩り取り時期になってきているのだ。
滑走路のような数百メートル真っ直ぐ伸びる大通りにお店と住宅がズラリと軒を連ねている『幻影通り』を出ると、景色が一変しダンジョン内に戻ってきた。
どこかの体育館といった感じの大空間で、岩で出来た高い天井からは明るい光が地面を照らしている。
正面に、少年の姿をしたダンジョンマスターの十戒が立っていた。
幻影通りから出てくるのを待ち構えていたようだ。
その十戒が自信満々な様子で両手を広げてきた。
「ようこそ俺の世界へ。」
61話で宣言したとおり、私を下僕にするために現れてきたのだ。
スキル『捕食』によりギルド紺翼のマスター飛燕が持っていた空間を歪め、攻撃してくるものを反転させるスキル『ミラー』の獲得に成功したのだろう。
これから私に処刑されるとも知らず、能天気なものだ。
飛んで火にいる夏の虫とは、このことだな。
「この闘技場のような空間は、気の強い聖女ちゃんを、俺様専用のペットへ調教するために、わざわざ用意した場所なんだぜ。」
空間を歪め反転させるスキル『ミラー』を獲得し、勝利を確信しているようだ。
最悪、敗北したとしても『転生』という保険もあるので安心しきっていると見える。
―――――――――――とりあえず、軽くブチ殺して、差し上げましょう。
背後にいる月姫へ目配せし、少し後ろへ下がってもらった。
私は、スキル『ロックオン』と『転移』を発動します。
少し生暖かい空気が流れる中、明るく静かな空間に魔法陣が浮かび上がってくる。
少年の姿をした十戒の心臓部に発動させたスキル『ロックオン』+『転移』の魔法陣が重なると、半笑いをした十戒が両手を挙げて忠告をしてきた。
「ちょっと待て。俺様は、空間を歪めて攻撃を反転させるパッシブスキル『ミラー』を獲得しているんだぜ。つまり、俺様への攻撃は全て聖女ちゃんへ戻ってしまうんだぞ。そんな俺様へ攻撃したら駄目じゃないか。」
「それでは私からも忠告させて頂きましょう。ここを見て下さい。」
十戒の心臓部に浮かんでいる『ロックオン』と『転移』の魔法陣と同様のものが刻まれている私の心臓部を指差した。
つまり、私は2つの目標をロックオンしたのだ。
1つは十戒の心臓。
そしてもう1つは私の心臓だ。
十戒については、言葉の意図を理解していないようだ。
なぜ私が、自身の心臓をロックオンしたのか、その理由をもう少し砕いて教えてあげましょう。
「私は2本の矢を、同時に撃ち放たせてもらいます。その2本の矢は、私と
「何を言っている。どういう事か、分かるように説明しろ。」
「
答えは、空間を歪めて反転させてしまったら、私の心臓に放たれた矢は
私も、心臓を貫かれてしまうため激痛を味わうことになるが、『自己再生』があるので問題ない。
十戒がようやく私の説明を理解したようで、ガタガタ体を震えさせ始めた。
「なかなかクレージーな方法だな。俺と刺し違えるつもりなのか。教えてやろう。俺には切り札があるんだぜ。」
「切り札とは『転生』のことでしょうか。」
「ほぉう。俺が『転生』出来ることを知っていたのか!」
黄金色に輝く瞳『真眼』が、十戒を殺しても復活した原因である『転生』の存在について教えてくれていたのだ。
最後は絶対に復活出来るという自信を持っていた十戒の顔が、私がその存在について知っていた事実を聞いて顔を歪めた。
そしてもちろん、刺し違えるつもりなどない。
「話しの続きをしますとスキル『転生』は攻略済みです。」
「何っ。俺の切り札を攻略済だと?」
「はい。今までどおり、まともに転生することは出来ないはずですよ。」
「ど、どういう事だ!」
「
「ハッタリだ!そんなはずがあってたまるかよ!」
「信用頂けていないようで残念です。でもまぁ、これから
十戒は目を見開き、顔を真っ赤にさせている。
その表情からは余裕が消えていた。
既に、
それでは私は運命の弓を召喚し、運命の矢を2本リロードする。
矢の先端を正面に浮かんでいる『転移』の魔法陣に向けながら、弓を引き絞り始めた。
これより、面白い劇場の開演をさせてもらいます。
弓に溜まったエネルギーを解放させた。
――――――――――TWIN SHOOT
放たれた矢が『転移』をして、私の心臓と、十戒の心臓を同時に貫いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます