第73話 ◯◯のまま死ねません。
静かな闇が広がる空間に魔導の精霊達が自由に飛びまわり、カラフルな光を放っていた。
人の姿はなく、神聖な空気が流れている。
白い砂利が敷かれている中、直径が50mほどある影に池が広がっていた。
その中央には、魔導の精霊達を守護してくれているというサーペントが影に絡めとられ、何とか引き摺りこまれないように必死な形相で暴れている。
影を暴走させていた四十九がその頭部に絡まりながら気持ち良さげに寝ている姿があり、池の畔では、サーペントを吊り上げようとしている月姫の姿があった。
勝手に私の眷属になってなり爆食の効果にて影を吸いながら『エロのパワーを舐めるなよ』と叫ぶメタルスライムからは凄みを感じるものの、肝心の影はいうと減っているようにはみえない。
焼け石に水のような状態なのだろう。
影の暴走を止める手段は、四十九に『闇耐性』を刻み込むこと。
影に同化し、現在進行形にて物質で無くなろうとしている四十九に触れることが出来ない状態になっていたが、メタルスライムの姿を見て影攻略の突破口を見つけてしまった。
どういう理屈か分からないが、メタルスライムは『影』に触れる事が出来るようだ。
メタルスライムを経由すれば、四十九へ『闇属性』を付与できるかもしれない。
だが問題もある。
絶対回避の効果が付与されているアダマンタイトボディへ、私が触れる必要があるからだ。
迷宮内で遭遇した時は、あらゆる攻撃を回避されてしまっていた。
回避∞のステータスであるメタルスライムへそっと手を伸ばすと、何ごともなくすんなりと触れることが出来た。
触れることが出来た原因は、私の眷属になったからなのだろうか。
鋼色の冷たい見た目とは違い、体温を感じる。
メタルスライムは何かを感じとったようで、震えた声で質問をしてきた。
≪三華月様。僕に何かをするつもりなのですか?≫
「あなたをサーペントの頭部に掴まっている少女まで投げ飛ばしますので、その少女の体を固定していてください。」
≪え。それはつまり、影を生み出しているあの少女に、へばり付けと言われているのでしょうか?≫
「はい。よろしくお願いします。」
≪それって危険なように思えますが、僕は大丈夫なのでしょうか。≫
「多少の危険はあるかもしれませんが、これも少女を助けるためです。」
≪僕は童貞のままで、絶対に死にたくないんです!≫
「童貞のまま死にたくないという気持ちは、当然だと思います。だから、死なないように頑張ってください。」
≪え。その言い方だと、このミッションは多少でなく、相当危険であると聞こえてきますよ。≫
メタルスライムが暴れ始めた時には、既に両手でガッチリと固定をし、逃げられないように持ち上げていた。
はいはい。無駄な抵抗はしない。
メタルスライムから悲鳴を聞こえてくる。
あなたが生き残るためには、これから行うミッションを成功するしかないことを理解願います。
嫁探しがしたいのならば、覚悟を決めて下さい。
暴れまわるメタルスライムを、四十九へ向けて放り投げた。
「行け、メタルスライム!」
≪童貞のまま死にたくないんです!絶対に僕を投げないで下さぁぁぁい!≫
放り投げてしまった後にいくら訴えられても、どうする事もできません。
美しい放物線を描いて飛んでいくメタルスライムは、支離滅裂に童貞のまま死にたくないと繰り返し叫びながら、サーペントの頭部をスヤスヤと寝ている四十九へ張り付いた。
ナイススローイングだ。
そしてメタルスライムはというと、実体化していない四十九に掴まっている。
ここまでは上手くいったのだが、これから先にも問題がある。
予測どおり『影』が、敵と判断したメタルスライムを剥がしとろうとしていた。
このまま放置してメタルスライムの断末魔を聞きたいという衝動を抑えつつ、私はやるべき事をさせてもらいます。
発動させたスキル『転移』を利用して、四十九に張り付いているメタルスライムへ、手を押し当てた。
――――――――――メタルスライムを経由して四十九へ『闇属性』の付与を開始します。
メタルスライムボディを挟んで、四十九へ『闇耐久』を付与している手応えが伝わってくる。
これで上手くいってくれたらいいのですが。
『影使い』の暴走が少しずつ収束し始めていく。
影に同化していた四十九は物質に戻り、月姫も緊張の糸が切れたようにぐったり仰向けになっていた。
全長15m程度ありそうなサーペントはというと、逃げるように姿を消していった。
四十九と月姫の2人が回復するまで少し時間が必要そうだ。
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