第72話 エロの力を舐めるなよ!

四十九を魔界へ帰すためにやってきた城塞都市にて、私のボディラインを貧弱という言葉で表現した十戒を処刑するために地下ダンジョン内へ侵入したところ、『精霊』からのSOSにより『幻影通り』へ辿り着いていた。

結界が張られて、商店街の賑やかな音は遮断され、静かな空間が広がっている。

魔導の精霊達の誘導に従い白い砂地の上を歩いていくと、四十九から生み出されていた『影』が大暴走しており、影の池に巨大なサーペントが引き摺り込まれようとしていた。

そのサーペントの頭部には『影』を暴走させていた張本人の四十九が、自ら生み出していた影にて巻き付いており、気持ち良さげに寝ている姿がある。

そして月姫は、直径30m程度に広がっている影の池の畔から四十九が巻き付いているサーペントを、釣竿で岸へ上げようと孤軍奮闘していた。

目測したところ、影に引き摺りこまれようとしているサーペントは、全長15m、5t以上の重量くらいはあるだろう。

月姫の力で吊り上げられる代物ではないはずだが、何故踏ん張っていられるのかしら。

スキル『隠密』を発動させながら状況の確認をしていると、月姫と視線が重なってしまった。



「三華月様。見学していないで助けてください。サーペントの重さを利用しながら、何とか釣り上げようと試みているのですが、私には『影』に引き摺り込まれないようにするのが限界です。」



何故、『隠密』を発動している私の存在に気付いたのかしら。

サーペントの重さを利用して釣り上げるって、どういう理屈なの?

それって、万有引力の法則を無視していることだよね。

月姫のJOBは、あらゆる装備品を使いこなせるという『たまねぎ』だ。

釣竿の性能を限界まで引き出していたとしても、やはりおかしい。

かもしれなと思っていたことであるが、月姫は『チートキャラ』ではないかという疑惑が生まれてきた。



「三華月様が来るのが遅すぎて、四十九から溢れ出してくる『影』の量がこんなに大きくなってしまいました。」



何気に、助けに来るのが遅いと抗議をされてしまった。

確かに、ここに来るまで道草ばかり食っていたが、それはそれだ。

適当に謝罪をし、それらしい言い訳をしておけば、いつも通り乗り切れるだろう。

なんせ私は最も尊敬される聖女だからな。

世の中には優しい嘘をいう言葉がある。

はい。ここは、私のために優しい嘘をつくことに致しましょう。



「遅くなってしまい、申し訳ありません。四十九が『影使い』を使いこなすための修行をする時間が必要と思い、あえてゆっくり来たのです。可愛い子には旅をさせろとか、ライオンは子供を崖から突き落とすと言うではないですか。」

「三華月様。59話で私達が『影』に落ちていく様子を楽しそうに眺めていたようですが、本当に私達の事を思って行動しているのでしょうか。」



思ってもいない鋭い答えが返ってきた。

月姫は、四十九を助けるために闇へ引き摺りこまれていくあの状況下で、私が楽しそうにしている姿を冷静にチェックしていたのか。

終わったことは仕方がないではないですか、と言いたいところだが、それを言ってしまうと話しがややこしくなりそうだし、ここは適当に話題を変える方がいいだろう。

闇の池に引き摺り込まれそうになり、もがき苦しんでいるサーペントの頭の上で寝ている四十九を指さした。



「あそこに見える四十九ですが、サーペントの頭部に巻きついて呑気に寝ているようですが、大丈夫なのでしょうか。」

「はい。まだ大丈夫ですが、このままでは危険です。四十九ちゃんは、『影使いのコントロール、諦めた。三華月様、なんとかしてくれるまで、アタシ、昼寝して、気長に待つ。』と言っていました。」



承知しました。

何とかしてみましょう。

ここに来るまで、『影使い』の暴走を止める策について世界の記憶『アーカイブ』にて調べており、私が獲得している『闇耐久』を四十九に付与すれば、『影使い』への耐久力が上がることが分かった。

とはいうものの、加護を付与するためには、四十九へ直接触れる必要がある。

スキル『壁歩』の効果なら広がっている影の池を歩くことが出来るのだが、それをしてしまうとあのサーペントのように、影へ絡めとられてしまうだろう。

ここは、『転移』の効果を使用させてもらいましょう。

―――――――私はスキル『スキルロックオン』と『転移』を発動する。


四十九の胸に『ロックオン』と『転移』の魔法陣が刻まれた。

『転移』の効果がある展開されている魔法陣のサイズは、手のひら程度のものであるが、私の手を入れるだけなら充分な大きさだ。

転移の効果により距離を縮めて、手を現れた魔法陣へ突っ込み『闇耐久』を付与するというスキームだ。

では、手筈とおり行い、事を終わらせましょう。

サーペントに巻き付いている四十九の胸に手を押し当てるために、目の前に浮かび上がってきている魔法陣に手を押し入れた。



手応えが無い。



四十九の体が、実体のない『影』に同化をし始めているようだ。

つまり、一般的な物理攻撃と特殊攻撃の両方が通用しない状態になっている。

これでは『月の加護』が届かないこのダンジョン内ではお手上げだな。

―――――――ふと足元にいたメタルスライムへ視線を移すと、スキル『爆食』を発動させて、四十九が生み出した『影』をモグモグと食べ始めていることに気が付いた。



「あなた、影を『爆食』することが出来るのですか。」

≪僕は三華月様に嫁を紹介してもらいたいのです。そのためなら僕は何でもやらせてもらいます!≫



確か、婚活に協力してくれと頼まれていたはずだが、いつの間に嫁の紹介をする話しになっている。

勝手に眷属になってくれているし。

その『爆食』の効果については、四十九が生み出している影の沼の大きさはほとんど変化がない。

メタルスライムはというと、苦しそうな表情を浮かべていた。



≪畜生!僕のエロの力を舐めるなよ!≫

「嫁の紹介から、今度はエロの力って。あなた、馬鹿でしょ。」



馬鹿な雄がいるのは、スライムも共通のようだな。

その時、月姫にジト目で見られている事に気が付いた。

そのジト目はあれですよね。

魔物へ話しかけている可哀そうな聖女だと思っているのですよね。

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