第70話 魔王へ進化するのが既定路線
気持ちいい風が吹いている。
岩石で構成されている天井から放たれる光が迷宮内を明るく照らし、草原地帯の草木達が緑色に生い茂っていた。
見通しがよく綺麗な空気が流れている。
城塞都市の地下迷宮内で遭遇した世界一レアな魔物とされているメタルスライムは、月の加護を受けなければ仕留められないほどの奴であった。
メタルスライムはSSS級の魔物ではあるが、攻撃値ゼロであり、実際にこちらに攻撃を仕掛けてくる様子がないところをみると、地上世界に害を与えるような存在ではないため、仮に討伐したとしても信仰心がアップすることもないだろう。
つまり私にはメタルスライムを狩る意味は無い。
この時点で無駄な戦闘は中止させて頂きます。
運命の弓の召喚を解いた私の様子を見た勇者と強斥候が、何を血迷ったのか勇気づけようと鼓舞してきた。
「三華月。諦めるには早いんじゃないか。メタルスライムを倒すと、お前が大好物な信仰心がアップするかもしれないぜ。」
「三華月様以外にメタルスライムを倒す事が出来る者はいないっす。諦めたらそこで試合終了ですよ。」
適当に信仰心と言っておいたら、すぐに反応をしてしまうお馬鹿な聖女とでも思っているのかしら。
諦めたらそこで終わりって、妥協の塊のような奴に鼓舞されると、腹がたってくる。
その時である。逃走を図るわけでもなく、適当な距離をとりこちらの様子を眺めていたメタルスライムが、前触れもなくおかしなことを話しかけてきた。
≪三華月様。孤独な僕に誰かいい人をマッチングしてもらえないでしょうか。お願いします。≫
彼氏のいないフリーな女子を紹介してくれみたいな言い回しだ。
そういうお願いは、パーティーピープルのような陽キャラの役目であり、私の不得意な分野だ。
そもそも、エンカウント率が恐ろしく低い魔物であるメタルスライムが、他にいるとは思えない。
魔物からのお願いを断っても信仰心に影響はないし、メタルスライムからの申し出は断っても問題ないだろう。
「あなたの仲間がどこにいるのか知らないため、残念ながらそのご要望には応えられません。」
≪三華月様。そんな殺生なことを言わないで、僕の婚活に協力して下さい。≫
「やはり婚活のお願いでしたか。結婚相手を探す行為は、聖女の仕事ではありません。他を当たって下さい。」
≪三華月様のお役にたって見せますので、なにとぞよろしくお願いします。≫
その時、メタルスライと会話をしている様子を見ていた勇者がいたい子だなみたいな目で、こちらを見ていることに気が付いた。
私以外の者は、魔物の言葉を聞くことが出来ないと忘れてしまっていた。
その勇者と強斥候が交わしているヒソヒソ声が聞こえてくる。
「
「こういう時は、そっとしておくのがエチケットなんすよ。」
いちいち反応するのも面倒だし、ここは聞こえないふりをしておこう。
メタルスライムについてどうしたものか扱いについて困っていると、本日2個体目の『強欲の壺』をエンカウトした。
メタルスライムの向こうから強欲の壺が姿を現したのだ。
勇者と強斥候もその存在に気が付いた様子だ。
「チッ。メタルスライムとの戦闘後で疲労しているところに、強欲の壺が出てきやがったか。俺の運気が最強なのは理解したが、もう対応ができないぜ。」
「戦闘らしい行為は全く出来てはいませんが、確かに疲労こんぱいであるのは間違いないっす。」
「三華月。メタルスライムが無理ならば、ここは強欲の壺の方を狩った方がいいんじゃないのか。」
「何度も言いますが、オーバーキルしないように気をつけて下さい。」
勇者と強斥候が謎のアドバイスをしてきているのが、私に強欲の壺を狩る動機はない。
二人からの言葉については無視していいだろう。
何気なく、付いてくる満々の気配を見せているメタルスライムへ視線を送ると、『真眼』が発動していないにも関わらず、ステータス画面が表記されていた。
――メタルスライム――
・クラス SSS
・HP5
・攻撃0
・防御∞
・速度∞
・回避∞
・三華月の眷属になった初期ボーナススキル 爆食
・進化ポイント 0
いつの間にか、私の眷属になっている。
それに『初期ボーナススキル』と『進化ポイント』が付加されているし。
爆食とは捕食した者の経験値に変換し、自身のステータスを上げるスキルである。
爆食を獲得することにより、進化が可能になったのかしら。
スライムといえば進化して魔王と成り、そして街づくりを始め世界を支配するのが定番だ。
恋愛相手を探すというふざけたお願いをしてきた奴ではあるが、将来魔王になる可能性があるということか。
試してみたいという衝動にかられてしまい、メタルスライムへ視線を送り合図をしてみた。
「メタルスライム。GO。爆食を発動させ強欲の壺を狩り、進化ポイントを稼いでこい。」
≪承知致しました。スキル『爆食』を発動します。≫
合図とともに、メタルスライムが神速の動きで向こうに現れた強欲の壺の背後をとった。
更に体を風呂敷のように変形させ、壺の魔物へ覆いかぶさっていく。
壺の防御値がS級相当の魔物並みに高いが、攻撃値0のメタルスライムに狩れるのかしら。
だが、それは杞憂に終わったようだ。
壺に覆いかぶさると、租借音を出すことなく少しずつ元のサイズに戻っていく。
これが『爆食』の効果なのか。
壺の行方についての疑問をメタルスライムに訪ねてみた。
「強欲の壺は一体どうなったの。あなたの胃袋の中に入ってしまったのかしら。」
「三華月。もうそのくらいにしておいたらどうだ。」
「強欲の壺を狩られてしまったのは仕方がないですが、見ていられないっすよ。」
背後から勇者と強斥候が声をかけてきた。
何気なくメタルスライムへ視線を送ると、再びステータスにメッセージが流れている。
――――———スライム進化ポイント10
進化ポイントを獲得している。
おいおいおい。本当に魔王に進化するのかよ。
何だかよく分からないが、小さく拳をグッと握っていた。
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