第68話 「俺だけ不死身の英雄譚」とか言いそうな奴だな

20m以上ある天井からは眩しいほどの光が放たれており、湖が広がっている地下ダンジョン内を昼間のように明るく照らしていた。

少し風が吹き、新鮮な空気が流れてくる。

少年の姿をしたダンジョンマスターの『十戒』に羽交い絞めにされていた飛燕は、力の限りに暴れようとしているが、十戒の力の前になす術が無いといった感じだ。

十戒の目的は、丸のみした者の能力を獲得するスキル『捕食』にて、飛燕のスキル『ミラー』を捕食して自分のものにすることだろう。

スキル『ミラー』のカウンター効果を利用して、白翼のギルドマスター達を殺してきた飛燕であるが、その行為は正当防衛と判定されていたようで、十戒に殺されようとしているその男をこのまま見殺しにしてしまうと、同族殺しと同等の罪にとわれて私の信仰心が下がる恐れがある。

そう。私は殺されようとしている飛燕を見殺しにすることは出来ないのだ。

状況が呑み込めていない勇者と強斥候は、背後にて気配を消して事態を静観していた。

十戒の力に抗えない飛燕から助けを求めてくる声が聞こえてくる。



「俺は全てを総べる王に成るんだ。こんな所で死ぬわけにはいかない。誰か俺を助けてくれ。もし助けてくれたら何でもしてやるぞ。」



凄い上から目線の言い方なのは平常運転なのだな。

なんだが、助ける意欲が半減してしまったが、私の信仰心が下がる可能性もあるし、ぼやいていてもいられない。

ここで、十戒を仕留めさせてもらいます。

―――――――――――召喚していた運命の弓に、運命の矢をリロードし、更にスキル『ロックオン』を発動する。

弓を構えて、少年の姿をした十戒の頭を『ロックオン』していたタイミングで、十戒がスキル『捕食』を発動させたらしく、少年の口が異常に大きく開き始めた。

私に狙撃される前に飛燕を丸呑みするつもりなのだろう。

だが、遅い。

飛燕が丸のみされてしまう前に、仕留めさせてもらいます。

限界まで引き絞っていた弓を解き放った。

――――――――――――SHOOT


音速で発射された矢が意図を引くように走ると、飛燕を丸のみしようとしている十戒の頭を正確に撃ち抜いた。

少年の姿である十戒が背後から地面に落ちていく。

確実に仕留めた手応えがある。

これでミッション終了だ。

十戒に開放された飛燕は地面にへたれこみ、隣に少年の死骸が転がっている。

気配を消していた勇者と強斥候が、拍手をしながらこちらに歩いてきていた。



「さすが、三華月だぜ。」

「鬼可愛いは最強っす。」



その時である。

——————殺したはずの十戒が復活していたのだ。

私は油断してしまった。

別の少年の姿になって復活していた十戒が、スキル『捕食』の効果で大きく口を開いて、安心しきっていた飛燕の体を丸のみにしてしまっていた。

別の少年の姿になった十戒の体が、異常に膨らみ、おかしな体型になっている。

先ほどは完璧に仕留めたはずだ。

確実な死を与えたとも確認している。

なぜ、姿を変えて復活しているのかしら。

異常を感じ取った私の瞳が黄金色に輝き、スキル『真眼』が発動し、十戒が発動させていたスキルの正体を教えてくれた。

————————十戒は『転生』をしていたのだ。

私から逃れるために、遊郭から下の層へ落ちた際、死亡してしまい『転生』していたとしたら、少年の姿で現れたことについても話しが整合する。

十戒は盛りがついた息の荒い犬のように、ニタリとしながら舌をダラリと出していた。



「俺はここで失礼するぜ。飛燕のスキルを自分の物にしたら、次は聖女、お前を従服させてやるからな。」



その十戒が『ダンジョンウォーク』で開いた通路に消えていく。

ダンジョンウォークの通路が閉じられると私の背後で息を潜めていた勇者と強斥候が生産性の無い活動を再開し始めたようだ。



「あの野郎。俺がトドメを刺す寸前で、逃げていきやがるとは許せん!」

「三華月様、十戒が逃げていくっすよ。」

「安心して下さい。十戒やつをブチ殺すタクティクスは出来上がっております。必ず仕留めないと気が済みませんし。」


「おいおいおい。気が済まないって、穏やかではないな。奴に何か恨みのようなものでもあるのかよ。というか、気に入らないという理由だけで、殺してしまう行為って駄目なんじゃないのか。」

「三華月様、僕から言うのも何なんすけど、聖女のJOBって、人を許すものなんすよ。」



61話で私の控えめなバディの事を貧弱なバディと表現した事については否定はしませんが、ムカつきましたし、私を性奴隷にするって宣言をしていたではないですか。

それに、美人賢者がいないと生き物である2人が諭そうとしてくる行為にもムカつきます。

さて、十戒を始末するには、スキル『転生』を破壊しなければならない。

そのうち『俺だけ不死身の英雄譚。今更戻って来いと言ってももう遅い』とか言いそうな奴だしな。

それでは、空間を歪めるカウンタースキル『ミラー』を『捕食』してしまう前にスキル『転生』を破壊させて頂きます。

まだ、十戒への『ロックオン』は外れていない。

どれだけ逃げたとしても、『転移』で仕留めることが出来るのだ。

———————私は運命の矢をリロードし、リロードした運命の矢に『SKILL VIRUS』をシンクロして、『転移』を発動させる。

転移の魔法陣の列が浮かび上がっていく。

だが今回は殺す事はしません。

まずは十戒あなたの生命線であるスキル『転生』を破壊させてもらいます。

引き絞った弓を解き放った。



—————BREAKSHOT—————

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る