第57話 世界の◯◯親父達への謝罪

地上世界を支配している神からの加護を持たない魔界の住人は、地上世界では生命力を奪われ続けるため生きることが出来ないのであるが、魔界から召喚されてきた少女には、高位の聖女である私の加護を与えることにより、地上世界での生活が可能となる。

そして魔界においては、魔神の加護を持たない地上世界の者は生命力を奪われ続けるのだ。

経緯や理由は定かでないが、幻影通りで出会った眼鏡女子である月姫は、四十九と一緒に魔界へ行く約束をしていたため、月姫かぐやへ魔神の加護を与えられるかもしれないと思い、3年前に破壊した魔神の神殿へ立ち寄ってみた。


魔神の傭兵神官からクロノス神に仕える神官となっていたイケメン親父が一人で造っていた地下礼拝堂は、天井が高く取られており、80ほどの椅子が並べられている。

祭壇のある奥になる真っ白な壁には大きく綺麗な十字架が貼られ、規模は違えど帝都の礼拝堂にあるものと変わらないくらい立派に造りこまれていた。

神聖な空気が流れている礼拝堂内では、私へ頭を下げて片膝を床に付いていたイケメン神父の両手を掴み、頬を赤くし視線を合わせようとしている四十九と月姫の姿がある。

2人はイケメン親父に対して嫁に立候補をしているという、謎な展開になってきていた。

私としては、魔神の加護を月姫に付与してもらえればそれでよかったのであるが、まさか魔神の傭兵神官を辞めてしまっているとは、ここに来たのは無駄骨の一言だ。

トドメを刺さないで放置していたのに、簡単に魔神の傭兵神官をやめないでもらいたいものだ。

中途半端な親父だと言わざるをえない。



「一つ伺いたいのですが、司祭あなたは何故、魔神の神官になったのでしょうか。」



どうでもいい質問に対して、イケメン神父が恥ずかしそうにしている。

いい親父が恥ずかしそうにしている姿は気色悪いな、と思っていたら私の隣にいた四十九がその親父の姿を見て「愛くるしい」と呟く声が聞こえてきた。

あの親父のどこに愛くるしい要素があるのだろうか。

親父が少女に手を出したら、私の勝手な判断で犯罪であると認定するのだが、この状況は少女達が親父に手を出そうとしている。

有りか無しで言えばどちらになるのかしら。

月姫は恥ずかしそうにイケメン神父の袖をクイクイと引っ張っていた。



「司祭様が、何故、邪神の傭兵神官になってしまったのか、私も知りたいです。」

「アタシ。旦那の過去、知っておきたい。魔神の傭兵神官、成った理由。教えてほしい。」



気が付くと四十九も、月姫とは反対側の袖を引っ張り、イケメン神父を見上げていた。

また旦那と呼んでいるが、どうやら本気で言っているような感じに見える。

2人の少女に言い寄られて照れている親父を見ていると、彼女いない歴30年以上の男達のために、このイケメン神父を処刑するべきであると思うのだが、神託が降りて来る気配はない。

残念ながら野放しにしておくしかない。

世界の童貞親父達、スマン。

そのイケメン神父であるが、少女達の熱い眼差しに耐え切れず魔神の傭兵神官になった動機を話し始めてきた。



「僕が魔神の神に仕えようと思ったのは、世界最強になりたかったからなのです。今更ながらに恥ずかしく思います。」



世界最強だと。

世界最強を目指しながらハーレムを築くことを夢みる中二病だったのかよ。

痛々しくて聞いていられないぜ。

私の思いとは対照的に四十九と月姫は謎の肯定的な反応を見せてきた。



「アタシ達。世界最強、応援する。」

「はい。四十九と一緒に司祭様をお支えします。」

「いやいや。応援してくれるのは嬉しいんだけど、僕は世界最強になる事は諦めたというか、無理だとよく分かったから、もういいんだ。昔し、世界最強の傭兵神官と言われたりして、調子にのっていた時期があったんだけどね、3年前に三華月様から一方的な攻撃を受けて力の差を思い知らされたというか、全く抵抗出来なかったんだよ。」



3年前の月が出ていた夜に、私が10km圏外からのこちらの建物を砲撃した時の事だろう。

月の加護を受けている私からすると、S級冒険者でも、雑魚過ぎる存在になってしまうからな。

私がイケメン神父の命まで取らなかったのは、聖女として慈悲の心によるものではなく、また悪さをしてもらい私の信仰心の餌となってもらう為であったのだが、改心してしまうとは期待外れもいいところだ。

四十九と月姫であるが、イケメン神父の全てを肯定していた。



「三華月様。移動都市グラングラン、海に沈めた。要危険な反逆者。邪神官。三華月様の餌。」

「数時間前、三華月様は黒龍を討伐しました。世界最強に成るという目標を辞めたのは賢明な判断であったと私は思います。」

「三華月様は本当に無敵なんですね。知っている魔神の神官の全員を説得して辞めさせてよかったです。」



なんだと。生き残っていた魔神の神官達は、前にいるイケメン親父の説得によって、全滅してしまったということか。

本当にここに来たのは無駄骨になってしまった。

地下礼拝堂には、適正JOBを見定める事が出来る礼拝堂にお決まりのクリスタルが鎮座している姿がある。

せっかくなので四十九と月姫の適正JOBでも見てもらいましょうか。

イケメン神父の指示に従い、四十九が地下礼拝堂のクリスタルに手をかざすと、適正JOBが『女忍者』であると表示された。

スキル『影使い』に高い適正を獲得しているし、暗器とか使いそうな性格だからそうなのだろうな。

そして眼鏡女子である月姫の適正JOBについてであるが、私の予想では『学級委員長』となるだろう。

真面目そうな容姿をしており、推薦されたら断れない感じに見えるからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る