第48話 思い殺りゲーム開始

都市を囲む砂漠から、熱く乾いた風が吹き込んできていた。

空気が乾燥し、少し砂っぽい。

万里からは知的系のお姉さんみたいな雰囲気は消え、笑いながら星運を蹴り飛ばしていた姿に狂気的なものを感じる。

その万里に刀に鞘でフルスイングされ、芋虫のように転がっているところを何度も蹴られていた星運は、私へ土下座をして命乞いをしてきていた。



「聖女様。俺は本当に『盗魔の鎖』の事を知らなかったんです。信じて下さい。俺にチャンスを下さい!水落、お前からも三華月様に懇願してくれ。一生に一度のお願いだ。頼む!」

「絶対に嫌です。」



性奴隷を強要していた女の子に対して、俺を助けるように助力を頼むのか。

さすが、神託で処刑命令が出てきただけのことはある。

外道の中の外道で間違いないな。

星運からどれだけ懇願されたとしても、神託を遂行することは私の命よりも遥かに重く、背くことは決して無いため、星運あなたの罪は軽くなる事はありませんよ。

――――――――そんなことよりも、相当な外道である万里を、このまま無限回廊送りにするのは惜しい存在だ。

これほどの逸材ならば、万里処刑の神託が降りてくるのではなかろうか。

ここは、万里処刑の神託が降りてくるように策を練るところだろう。

皆に聞こえるように、足元にいるペンギンへ質問をしてみた。



「ペンギンさんに質問があるのですが、よろしいでしょうか。」



問いかけにこちらを見上げてきたペンギンは、私からの不穏な思考を感じ取ったようで、顔を歪めて『駄目な事を言いそうだな』みたいな視線をこちらに送ってきた。

さすが最古のAIだ。

よく私のことが分かっているではないか。

仕方がない感じで、頷いてきたペンギンへ質問を開始した。



「私の下した決定と、『ジャッチメント』にて出された裁定と相違があった場合は、どちらが優先されるのでしょうか。」



ペンギンが『訳の分からない事を言い始めたぞ』みたいな顔をし、星運は地面に額を擦り付けており、万里は無表情で様子を伺っていた。

泣き崩れていた水落は少し落ち着きをとり戻し、四十九は水落を気にかけていた。

これから星運と万里の2人には『思いやりゲーム』をしてもらおうと思うのだが、その動機づけが必要なため、この質問をしたのである。

そしてペンギンは予測どおりの返事をしてきた。



「もちろんジャッチメントの判決よりも、三華月様の言葉の方が優先されます。」

「それでは無限回廊送りが確定してしまった星運と万里の二人ではありますが、恩赦のチャンスをあげようと思います。」

「有難うございます!」



ペンギンとの会話を聞いていた星運が地面に頭突きを繰り返しながらお礼を言ってきた。

万里の方はというと、眉間にしわを寄せてこちらを怪しんでいるようだが、興味は示しているようだ。

もう私からの提案に食いついてくるしか選択肢が残されていないからな。



「星運と万里の2人には、『思いやりゲーム』をしてもらいます。その名のとおり、互いを思いやる事ができるか試させてもらうゲームです。」



ルールは簡単だ。

2人に白紙用紙とペンを渡し、カウントダウン開始から10秒以内に、星運か万里かどちらかの名前を記入する。

同じ名前が書かれていたら者は無罪となるのだ。

相手のことを思いやることが出来るならば、確実に1人は無罪放免となるルールだ。

相手を思いやれなかった場合。つまり失敗した場合はペナルティが存在する。

もし用紙に同じ名前が書かれていなければ、私が運命の矢で死なない程度に体を撃ち抜くのだ。

ルール説明が終わると、星運が地面を両手で叩きつけながら叫んだ。



「なんだよ、それ。万里が俺の名前を書かなければ、俺が無罪にならないじゃないか!」



さすがだな。

もうこの『思いやりゲーム』の核心を把握したようだ。

万里の瞳にも怒りが籠っている。

なんだ。

せっかく無罪放免になるチャンスなのに、『思いやりゲーム』をやらないのか。



「それでは、『思いやりゲーム』はやめておきますか。」

「俺はやります。俺は万里には自由に生きてほしいと思っていました。俺は万里の名前を書きます。」

「私もやります。1人だけ生き残れるなら、私は星運様の名前を書かせてもらいます。」


「さすがです。しかし、二人が互いの名前を書いてしまったら、失敗になってしまいますよ。」

「万里。お前には本当に悪いと思っていた。だから俺は万里の名前を書く事にするよ。」

「私は星運様の名前を書きます。1人しか助からないのです。星運様は生きてください。」



2人共、ノリノリなのだな。

星運が万里へ土下座をし、万里は星運を真っ直ぐ見つめながら正座をしている。

お互いを思いやる言葉が心に染みてくる。

正論を振りかざし論破してくる者に、人を動かすことは出来ない。

相手を理解し、相手のために考えて行動する気持ちこそが思いやりなのだ。

そろそろ頃あいかしら。



「それでは、カウントダウンを開始してもよいですか?」



星運と万里が頷いた。

ペンギンは死んだ魚のような目をしており、とても和やかなこの雰囲気が受け入れられないようだ。

これから素敵な猿芝居が見られるというのに。

四十九に星運と万里に白紙用紙と鉛筆を配ってもらい、同時にカウントダウンを表示する電光掲示板が頭上に姿を現した。



「カウントダウンを開始します。」



宣言をすると、星運と万里は迷いなく用紙にペンを走らせた。

この10秒間はドキドキするというよりも、ワクワクする。

そしてカウントダウンがゼロとなり、四十九がそれぞれ用紙を回収した。

――――――――結果は、星運1、万里1。

うん、私を絶対に裏切らない結果だな。

だが、その結果を聞いた星運が吠えた。



「なんだそりゃぁ。万里、お前、俺の名前を書くって言っていたじゃねぇか!」



怒号を響かせる星運を、万里が腰に刀の鞘で星運をぶん殴った。

星運はガードをするものの、あまりの痛さに地面にのたうち回っている。

本当に和気あいあいといった和やかな光景だ。

万里が、芋虫のように地面を転がっている星運を蹴りながら罵声を浴びせている。



星運おまえの名前を書くわけがないだろっ。このくそ不細工!お前のせいで私がこんな目に合っているんだろうが!私の名前を書きなさいよ!」



互いを罵り合う姿を見るのはいいものだ。

和やかな会話を交わしている2人に水を差すようになるが、『思いやりゲーム』が失敗した場合、2人にはペナルティを与えなければならない。

私は運命の弓をスナイパーモードで召喚します。

白銀に輝く3m以上の弓が姿を現すと、怒号を交わしていた2人が静まりかえった。



「『思いやりゲーム』が失敗したペナルティとして、2人の体を撃ち抜きます。」



2人の顔が青ざめていく中、運命の矢を召喚し、弓をギリギリ引き絞った。

――――――――――TWIN_SHOOT

超音速で走っていく矢が、星運と万里の左手を撃ち抜いた。

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