第47話 もう一つの鎖について
無限回廊とは死刑を超える刑罰と位置づけられており、帝国領の大海にある孤島の地下に古代遺跡にそれがある。
一切のスキルが無効となり、出口のない道が延々に続いていると言われており、かくゆう私も試しに『無限回路』へ入ってみた事があるのだが、何の変哲もない通路であり簡単に出ることができた。
あの時に感じた期待外れ感は今も覚えている。
神託に従い星運の処刑を行うため、ペンギンと四十九を連れて砂漠の都市で最大の規模を誇るホテルの裏庭へ出向いていた。
そこで、水落、星運、万里の3人へペンギンが『ジャッジメント』にて罪の重さを推し量った結果は、水落は無罪で、星運と万里の2人は『無限回廊送り』が確定した。
結果を聞いた星運は悲鳴を上げ、知的なお姉さんといった感じの万里は何のリアクションも起こすことなく無表情に佇んでいる。
水落からすると、星運については順当な裁決であると思っているのだろうが、自身と同じ境遇に置かれていたと信じている万里も『無限回廊送り』になってしまったことに、信じられない表情を浮かべながらペンギンへ詰め寄ってきていた。
「万里ちゃんが人を殺してしまったのは、私と同じように奴隷契約で星運に逆らえなかったのよ。どうして万里ちゃんだけが有罪になるのよ!」
「うむ。
―――――――――水落は、万里が奴隷では無いという事実を知らない。
正確に表現するなら、万里は既に対価を払い終えて奴隷契約を終了し、自由になっていたのだ。
この真実を知らなければ、水落は万里に対して『私だけ無罪になった』という罪悪感を持ちながら、これから生きていくのかもしれない。
水落は真実を知るべきなのだろう。
ペンギンへ再度『ジャッジメント』を行うように詰め寄っている少女へ、真実を聞く用意があるか尋ねてみた。
「水落さん。何故万里に無限回路堕ちの裁決が下されたのか、あなたにその真実を聞く覚悟があるのなら、その理由を教えて上げましょう。」
思ってもいない言葉を聞いた水落が顔を強張らせ、言葉を飲み込み、顔を真っ青にしながら静かに頷いた。
46話で、水落の心臓に巻かれていた奴隷契約の鎖を破壊した際、それとは別に巻かれていたもう1本の鎖が原因である。
その鎖は『盗魔の鎖』といい、奴隷として『契約の鎖』が巻かれた際に設定された対価を完済するために、星運の奴隷として水落が積み重ねてきた成果が、全て万里のものになる効果がある代物だ。
つまり、この『盗魔の鎖』が心臓に巻かれている限り、水落は一生奴隷なのである。
全ての話しを聞き終えた水落は号泣しており、無表情で話しを聞いていた万里へ真意の確認をするために叫んだ。
「万里ちゃん。私の稼いだ対価を盗んでいたって本当なの!」
「本当なのか万里!お前、水落になんて酷い事をしていたんだ!」
水落の質問に反応したのは万里ではなく、自身に『無限回廊送り』の裁決が下されて嗚咽をあげていた星運であった。
星運に怒鳴られた万里は、万里が口角を釣り上げながら軽蔑した眼差しで星運へ向け、今までになく卑猥な表情を浮かべてきた。
「星運様。それは無いでしょう。自分だけ良い人間であるアピールをして、罪を軽くしようとする魂胆ですか?」
「聖女様。俺を信じて下さい。俺は本当に知らなかったのです。俺も万里にいろいろ騙されていたんです!」
水落でなく、私へ釈明をしてくるのか。
自分も騙されていた話しを延々と訴え始めた星運へ、万里か前触れなく腰にぶら下げている刀の鞘をフルスイングし、星運の体をしばいた。
不意を突かれ星運の体がくの字に曲がり、鈍い声を漏らしながら、地面に転がっていく。
「私達のステータスを繰り返し『スキャン』して見ていたお前が、『盗魔の契約』が水落の心臓に巻かれていたことを知らないはず無いだろ。」
「万里。てめぇ、許さなねぇぞ!」
万里は、地面を転がりながら怒り狂う星運を汚いような目でみながらもう一度蹴り上げると、星運はそれを両手でブロックした。
悪党とは互いの利益が一致すると高い相乗効果を発揮するが、利益が一致しないと簡単にもう一方を切り捨てようとする。
まさにこの状況がそうなのだろう。
芋虫のように転がり無抵抗な星運をもう一撃蹴り飛ばした万里は、視線を水落に移してきた。
「水落のおかげで、私はすぐに奴隷契約を終了する事が出来ました。ブサ面の星運の性処理を全てしてくれた水落には感謝するしかありません。」
号泣する水落を見るその瞳は笑っていた。
ついに本性を現してきたようだ。
泣き崩れてもう喋れることができない状態の水落は四十九に体を支えられており、その代わりにといった感じでペンギンが万里に質問をしてきた。
「万里。奴隷契約が終了していたのにも関わらず、星運に従っていたのは何故なんだ?」
「仮にも星運は一級商人だったし、お金に困らないからだよ。それ以外に理由なんてない。」
「つまり、星運からの命令に従えないふりをして、自身の意志で人を殺害してきた事を認めるのだな。」
「ふん。そんな事よりも私より星運の方が悪党だろ。どうして私が、地面に転がっている星運と同じ罪の重さになったんだ。この結果はおかしいだろ。」
星運と万里はなかなかどころかクソ外道の逸材のようである。
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