第43話 プロテクトハート
石造りの建物が煩雑に建っている砂漠の都市へ、地平線から出てきたばかりの太陽から白色光線が差し込んできていた。
好き勝手に蛇行している道路からは人がどんどんと姿を現しており、発展している街から溢れてくる人のパワーを感じる。
街の熱気が伝わってくる中、私とペンギンは人の気配がない裏路地で、黒装束で全身を隠している少女と対峙していた。
少女の名前は四十九。
異界の神を信仰する信者が地上世界を混沌に陥れるために魔界から呼び寄せた少女であるが、スキルに目覚めることがなかったため、奴隷として移動都市に売られてきた者だ。
現在、星運と奴隷契約を結んでいる。
つまり、少女の心臓には『契約の鎖』が巻きつけられており、星運の気分次第でいつでも殺せる状態になっていた。
ペンギンは、星運へ逆らえない状況にある四十九に対して、魔界へ帰すことを約束するかわりに私達に従うように提案し、魔界の少女は静かに頷いてきた。
「アタシ。魔界に帰りたい。本当に、魔界に帰えること、出来るのか。」
「うむ。三華月様がいれば、何もかも上手く運ぶと約束しよう。こう見えても神に最も近いお方だからな。」
ペンギンは手を私の方へ伸ばし、自信満々に喋っていた。
こう見えても、という言葉が引っ掛かる。
それに、断りなく勝手に約束しているし。
とはいうものの、私も少女を傷つけたいわけでもないし、ここはペンギンに任せるべきところなのだろう。
ペンギンがどこからともなく、黒金色の重厚感がある手錠を引っ張り出してきた。
―――――――――その手錠の名前は『プロテクトハート』。
世界のアーカイブに記載されている伝説の手錠である。
私でさえも現物を見るのは初めての代物だ。
全ての効果を無効にする代償として、一切のスキルが使用できなくなる。
そう。その黒金色のて手錠をつけると、『契約の鎖』の効果を抑制し、星運から四十九を守ることが出来るだろう。
ペンギンから四十九へ黒金色の手錠を自ら付けるように話し始めた。
「この手錠には『契約の鎖』から四十九を護ってくれる効果がある。私の言っていることを理解したのなら、手錠を自身の手首へ嵌めたまえ。」
「さっきの話し。魔界に連れて帰ること。ペンギンには無理!」
黒装束で顔を覆っている少女が、首を左右に振った。
北の台地にある
そこは世界でも最も危険とされている迷宮だ。
四十九が指摘したとおり、ペンギンが魔界に行く事は無理だろう。
そうなると、消去法で私が連れていくしかない。
背中を向けていたペンギンをつま先でチョンと小突くと、ペンギンは奇声をあげてパタリとうつ伏せに倒れてしまった。
力の加減を間違えたようだ。
ペンギンが体を震わせ、額に青筋を浮かべながら立ち上がってくると、いつものお約束の流れで激怒してきた。
「三華月様。いきなり背後から蹴飛ばしてくるのは、マジでやめて貰えませんか!パワハラ行為は信仰心に影響が出るんじゃないですか!前から言おうと思っていたのですが、癒し系の姿をしている私へ対する三華月様の態度って、おかしくないですか!いや、絶対に変ですよね!」
「いやいやいや。ペンギンさんは癒し系とは対局に位置する親父系ではありませんか。」
「親父系って、どう言う意味ですか。全くひねりが無いと言うか、壊滅的に面白くありません。そもそも古代文明においてペンギンは可愛い生き物ランキングの上位の常連ですよ。マジで美的センスもぶっ壊れているんじゃないですか!」
立ち上がってきたペンギンが地団駄を踏んでいる。
その姿は癒し系かもしれないが、ふてぶてしい態度をとるあなたは癒し系では無い。
とはいうものの、いきなり背中から小突かれたら切れても仕方がないのだろう。
さて、背中を向けていたペンギンをつま先で小突いた件であるが、もちろんその行為には訳がある。
「ペンギンさん。一つ質問があるのですが、聞いてもよろしいでしょうか。」
「はい、はい。質問ですか。分かっています。三華月様は、誰が四十九を魔界へ連れていくつもりであるのかを、聞きたいわけですよね。」
何故、上から目線で喋ってくるのかしら。
すると突然、ペンギンの目が『カァッ』と見開いた。
その動作って何の意味も無いというか、無駄でしかないだろ。
黒装束で表情が見えないが、四十九もペンギンの行動に呆れているようだ。
うつむき加減にドヤ顔をしながら、よく通る声で私の問いに答え始めた。
「誰が四十九を魔界へ連れていくかと言えば、それは私なのでしょうか。答えはNOです。では一体誰が。それはもちろんMINE_KAISERである三華月様をおいて、他にいるわけが無いじゃないですか!」
「やはり私でしたか。」
「三華月様が四十九の願いをきき入れる確率が100%と試算しています。」
「承知しました。四十九を魔界まで送り届けましょう。」
ペンギンが物凄いドヤ顔をしていた。
参賢者の一角にして最優秀なAIであると聞いている。
だが、ただ無駄に演算能力が高いような気がする。
とはいうものの、四十九を放っておくこともできない。
ペンギンとのやりとりを黙って見つめていた四十九がボソリと呟いた。
「アタシ、ペンギン、信じない。三華月様、信じる。」
四十九が受け取った黒金色の手錠を、自身の手首に取り付けた。
黒装束の少女が震えている。
現状が不安で仕方がないのだろう。
その恐怖を少しでも和らげてあげたい。
「四十九。まずは、あなたの胸に刻まれている『奴隷の鎖』を破壊してあげましょう。」
「うぉぉぉ。神技『SKILL_VIRUS』を使用されるのですか!」
ペンギンが大きなリアクションをし、無駄にテンションを上げている。
見えないものを破壊するスキルは、『SKILL_VIRUS』の他にも存在するが、これほど万能なものはない。
とはいうものの、ただのS級スキルだろ。
「無駄に大きな反応しないで下さいよ。『SKILL_VIRUS』は、ただのS級スキルではないですか。」
「ただのS級スキルですか。三華月様の感覚って、本当に鬼ヤバですよね。」
ペンギンがやれやれのポーズをしながら呆れている。
これ以上会話を重ねても面倒なだけだし、相手にする必要もないだろう。
四十九に近づき、震えている黒装束で覆われている胸へ手のひらを軽く当てた。
心臓に巻かれている鎖の存在を感じる。
意識を集中し、その鎖へスキルを発動させた。
————————CURSE_BLAKE
手応えがあった。
四十九の心臓を縛る『奴隷の鎖』の崩壊が始まった。
その手応えは四十九本人にも伝わっており、涙腺が崩壊している。
「7日後には完全に『奴隷の鎖』は崩壊します。」
「三華月様。有難う。」
「はい。
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