第42話 四十九

砂地へ朝日がオレンジ色に反射し、黒色になって見える影とのコントラストが鮮やかで美しい。

砂漠の都市は、元々機械人形が管理していた古代遺跡があり、そこに帝国が500年前に、地上世界へ出ることができないはずの魔物が砂漠に現れることを警戒して要塞を建設したのである。

現在に至っては、魔物は砂漠から出れないこと、そして砂漠の都市へ攻撃することがないと分かり、貿易の拠点として繁栄をしていた。

都市は要塞を中心に住民達が無計画に建物を建てていったせいで迷路のような道路となってしまい、自由にどこからでも入る事が出来る街になっている。


神託に従い砂漠の街で逃げ込んでいる星運を処刑するため、人の気配がない場所を選び、光学迷彩を施したバスが土で固められている道を、ゆっくり音を出さないように進んでいた。

夜が明けたばかりであるが、街全体から活気ある人の声が聞こえてくる。

砂漠の都市は日中になると気温は50度近くになるため、住民達は朝と夜に生活活動を行っているのだ。

光学迷彩を施したバスは、石造りの四角い建物が不規則に立ち並ぶ間の細い裏路に停車すると、私とペンギンを降ろし静かに街の外へ消えていった。

夜明け前は氷点下にまで下がっていた気温が既に10度近くまで上がっている。

まずやるべきことは星運を探しだすことであるが、抱きかかえているペンギンが既にその場所を割りだしていた。



「三華月様。砂漠の都市を衛生管理している機械人形からの情報では、星運達は都市の中心にあるホテルへ泊まっているようです。」

「さすがですね。貴重な情報をいただき、有難うございます。」



ペンギンは各古代都市の衛生管理をしている機械人形から情報を吸い上げることができるのか。

そもそも人類の上位種である思考性型AIの中でもペンギンは最上位らしいし、それくらいは簡単なことなのだろう。

更にペンギンは獲得した情報についての話しを続けてきた。



「もう一つお伝えしなければならない事があるのですが、星運が宿泊しているホテルに、四十九と思われる少女の姿がないようです。」



四十九とは『覚醒』効果によりスキル『影使い』を獲得し、星運と奴隷契約をしている少女の名前である。

星運からの命令で、都市内の索敵をしているのだと予想がつく。

さて私の最優先事項は星運を処刑することなのだが、その前にやることがある。

抱きかかえていたペンギンを地面に降ろした。



「ペンギンさん。姿は見えませんが、近くから何者かの気配を感じます。」



ペンギンの目がキラリと光り、私の真意を察したようだ。

確定ではないが、四十九という少女がすぐ近くの影に中に姿を隠しているのだろう。

光学迷彩を施しながら街へ侵入したのであるが、それでも見つかってしまったという事は、予め私達が侵入してくる場所を予測して、この路地裏で網を張っていたのかしら。

ドヤ顔をしているペンギンが、気配は感じるものの姿が見えない相手への対応について、提案をしてきた。



「三華月様。スキル『マルチロックオン』の効果を利用すれば、隠れている者を捕捉できるものと推測しますが、試してみてはいかがでしょう。」

「そうですね。ペンギンさんの言う通りスキル『マルチロックオン』を発動してみましょう。」



スキル『マルチロックオン』には複数の敵をランダムに捕捉していく効果があるのだが、隠れている者まで見つけることが出来るかまでは分かっていない。

だが地上世界で最も演算能力が高いペンギンの自信満々な様子を見る限り、それができるのだろうと予測できる。

提案のとおりスキルを発揮させてみた。

―――――――スキル『マルチロックオン』を発動する。

石造りの建物の壁。土を固めた路地。雲がない空に、無数の魔法が展開され、生きているかのように動きながら標的を探していく。

そして、石畳の地面にいた何者かをロックオンした。



すると、ロックオンした標的からゆらりと影の姿をした者が現れてくる。



影の大きさから小柄な者であると分かる。

心臓に星運の奴隷となる『契約の鎖』が巻かれている四十九だ。

ペンギンからの情報では、魔界の住人であり、異界の神に仕える信者の『召喚』により強制的に魔界から呼び寄せられ、地上世界にいるらしい。

異界の神に仕える信者とは、地上世界を混沌に陥れようとする迷惑な奴等のことである。

足元にいたペンギンが、落ち着き払った様子で頭を下げてきた。



「三華月様、ここは私にお任せください。」



私には四十九と戦う理由はないものの、星運の処刑を阻むのならば、相手にしなければならない。

相手の事情を把握しているペンギンが、説得してくれるならそれでよしだ。

少し調子をこいている態度が気になるところではあるが。

ペンギンは一歩前へ足を出し、四十九に向かって語りかけた。



「四十九。姿を現したまえ。分かっていると思うが、こちらの聖女様が影に隠れている君を捕捉している。この聖女様は人の姿をしているが神である。君を必ず魔界へ連れて帰ってあげる事を約束しよう。」



魔界に帰りたいと強く願っていると言われれば、そうなのだろう。

その気持ちを刺激して懐柔しようとしているのかしら。

それから、何だか勝手に約束をしようとしているし。

話しの流れ的に魔界へは私は連れていかないといけないのだろうか。

というか、私が神のように可愛いというのは否定できないが、どう見てもこの姿は人間だろ。

なんとも説得するには安易すぎる言葉だな。

私の不安をよそに、石畳からムクムクと黒装束で全身に隠した少女が姿を現してきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る