第42話 四十九

地平線から出たばかりの太陽光により、砂漠の都市に並ぶ石造りの建物の東側が明るく照らされ、影となっている部分とのコントラストが際立っている。

私はペンギンを抱きかかえ、建物に囲まれて影になっている人の気配がない石畳の道に立っていた。

少し湿気た空気に、太陽光により暖められた風が入り交じっている。

一本隣にある大通りからは子供達が走り回る声や、行商人の馬車の音などが聞こえ、夜が明けたばかりであるが、既に街は目覚めていた。

光学迷彩を使用し、私達を運んでくれたバスの姿は既に消えている。

ここへ来た目的は明確だ。

それは、神託に従い星運を処刑すること。

両手で抱きかかえていたペンギンが、早速といった感じで星運について情報を獲得していた。



「三華月様。砂漠の都市を衛生管理している機械人形からの情報によると、星運達は都市の中心にあるホテルへ泊まっているようです。」

「貴重な情報をいただき、有難うございます。」

「目的地までは、このペンギンめが誘導させてもらいます。」



AI達は情報を共有している。

その頂点に君臨している最古のAIであるペンギンがマザーAIで、全ての情報管理を行っていた。

つまり、地上世界において最も情報量を持っている者なのだ。

更にペンギンは獲得した情報についての話しを続けてきた。



「三華月様。もう一つお伝えしなければならない事がごさいます。四十九と思われる少女の所在が確認出来ません。おそらく、スキルを発動し、影の中へ潜伏しているものと推測されます。」



四十九とは『覚醒』効果によりスキル『影使い』を獲得し、星運と奴隷契約をしている少女の名前だ。

素直に考えるなら、星運からの命令で都市内の索敵をしているものと予想がつく。

私の最優先事項は星運を処刑することだが、その前にやることがある。

抱きかかえていたペンギンを地面に降ろした。



「ペンギンさん。姿は見えませんが、近くから何者かの気配を感じます。」



ペンギンの目がキラリと光り、私の真意を察したようだ。

確定ではないが、四十九という少女がすぐ近くの影に中に姿を隠しているのだろう。

私達が侵入してくるルートを割りだし、この路地裏で網を張っていたのかしら。

地面に降りたペンギンが正面に出てくると、こちらへ頭を下げてきた。



「三華月様。ここはスキル『マルチロックオン』の効果を利用したら、いかがでしょう。」



マルチロック。

ペンギンが創り出した機械人形達との戦闘の際、生み出したスキルだ。

同時に複数体へのロックオンが可能で、自動追尾機能を付加させている。

この状況下で、そのスキルを発動させる狙いがあるとしたら、影に中に隠れている四十九を見つけ出すこと。

地上世界で最も演算能力が高いペンギンの自信満々な様子を見る限り、予想どおりの効果を発揮できると予測がつく。



「ペンギンさんからの提案。承知しました。」



―――――――スキル『マルチロックオン』を発動する。

宣言と共に、影になっている石畳や石造りの建物の壁に、複数の魔法陣が一斉に散らばった。

まさに一瞬だった。

瞬きする間もなかっただろう。

一斉に展開された魔法陣が標的を探し当てたかと思うと、そのポイントを目指し重なり始め、一つになっていた。


視線の先。ロックオンが刻まれた影の中に誰かがいる。

足元でドヤ顔をしているペンギンの思惑どおり、影からゆらりと姿を現した。

私より頭一つぶんほど小柄な者だ。

全身を黒装束で覆い隠し顔も見えない。

太陽や月の元では生きることが出来ない魔界の少女で間違いない。

その心臓には、星運の奴隷である『契約の鎖』が巻かれている。

足元にいたペンギンが、落ち着き払った様子で、再び頭を下げてきた。



「三華月様。ここは私にお任せください。」



四十九の目的は、私達の足止めなのだろう。

魔界の少女と戦う理由はないが、邪魔するならば相手にしなければならない。

ペンギンが、説得し戦わなくて済むのならそれでいい。

小さく頷くと、ペンギンはドヤ顔をしながら体を反転させ、全身を黒装束で覆い隠している少女へ向かい語りかけた。



「四十九。分かっていると思うが、もう君は捕捉されている。私達に従いたまえ。その代わり、必ず魔界へ連れて帰ってあげる事を約束しよう。」



魔界に帰りたいと強く願っていると言われれば、そうなのだろう。

その気持ちを刺激して懐柔しようとしているのかしら。

なんとも説得するには安易すぎる言葉だな。

私の不安をよそに、黒装束で全身に隠した少女がコクリと頷いた。

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