第37話 vsペンギン①

下弦の月が照らす夜、高度50mを航行している浮遊都市グラングランに広がっている草原が、少し涼しくなっていた潮風に揺らされていた。

時速10km程度の速さで外洋へ進んでいる浮島は、立っていても揺れのようなものはなく、陸地にいるような感覚がする。

浮遊都市の中央に建っているレンガ造りの古城から出てきたペンギンと、背丈が2m程度ある機械兵10個体と対峙し、これから戦闘が始まろうとしていた。

悠久の時を生き、私への対策が万全であると宣言をしてきたペンギンの実力はいかほどのものなのだろうか。

私の勝利は約束されているものの、奴隷制度に対する認識についてペンギンに確認をすることにした。

その返答しだいでは、ペンギン処刑の『神託』が降りてくるかもしれないからだ。

鬼畜な返答をしてくれればそれでよしだ。



「ペンギンさんへ質問があるのですが、感心できるとは到底思えない奴隷制度を、どうして守ろうとしているのでしょうか。」

「どうしてと言われたらお答えします。それは移動都市グラングランを守ることが使命であり、その使命をまっとうすることが私のプライドだからです。」


「何ですか、それ。そんな無駄なプライドなんて、捨ててしまったらいいではないですか。」

「私は移動都市グラングランを守るようにプログラムをされて生まれてきたのです。それが駄目なものだったとしても、使命を果たすことが私の存在意義なのです。」


「使命は何であれ、駄目なものは、駄目なのですよ。」

「まぁ確かに。駄目なものは、駄目ですよね。」



ペンギンが素直に私からの指摘を肯定してきた。

もしかして懐柔してしまったのかしら。

ペンギンの方も『言ってはいけないことを言ってしまった。』みたいな表情をしている。

本当に演算能力が高いAIなのかしら。

さてペンギンが、鬼畜であるかの問題については、残念ながら期待するものではなかった。

これではペンギンを討伐する神託が降りてくる見込みは無い。

全然やる気が出てこないというか、前向きな気持ちで戦闘を行うことが出来ないのですけど。

そんな後向きな気持ちになっている私に対して、ペンギンが目を見開き意味不明な圧を送ってきた。



「私は、移動都市グラングランを守るというプライドを無くした時は、死ぬ時であると決めているのです!」



そうですか。

全くやる気にはならないが、相手をするしかないようだ。

運命の弓をスナイパーモードで召喚します。

月に光りに輝く運命の弓が姿を現すと、その様子を見たペンギンがニヤリとした。

そして張りのある声で宣言をしてきた。



「私が用意している戦力は三華月様に遠くおよびませんが、戦力格差は兵法で覆す事が可能なのです。戦術で何より大事なのは情報であり、私は三華月様のスキルや攻撃パターン、戦術を全て把握しております。私が用意した機械兵は、その運命の弓から放たれた攻撃を回避すると宣言致しましょう。」



承知しました。

それでは運命の矢をリロードします。

腰を微妙に落とし、前後に少し広げた両足へバランスよく体重を乗せ、姿勢良く片手を突き出し3m以上ある弓を構え、弦を引き絞り始めた。

ギリギリと弓がしなっていく。

機械兵までの距離50m。

推定発射速度音速5。

着弾時間0.04秒。

ペンギンの実力がどれほどのものなのか、試し撃ちをさせてもらいます。

スキル『ロックオン』を発動する。

標的の機械兵一体にロックオンされた魔法陣が刻まれた。

しなっていく運命の弓が、最大エネルギーを蓄えた。

それでは、狙い撃たせてもらいます。

————————————SHOOT


狙い撃った標的の横を、矢がすり抜けていく。

回避されたというよりは、外れてしまったようにみえた。

標的の機械兵は動いていない。

音速5で走っていく矢が、機械兵を捕らえる寸前に進路を変えたのだ。



「これは、『絶対回避』の効果が働いたのでしょうか。」

「EXCELLENT! この地上世界に存在しない金属『アダマンタイト』に付与されている『絶対回避』のメカニズムを、私は解析したのです。ですが、参賢者の一角である私をもってしても、『アダマンタイト』を複製する事は不可能だったわけでして、だがしかし同じメカニズムを持つ『障壁』をつくり出す事に成功したのです。そしてこの機械兵達を作るまで1000年以上の時間を要してしまいました。」


「ペンギンさんの解説によると、周囲に張られている絶対回避の『障壁』を攻略さえすれば、1000年かけて造ったという機械人形を破壊できるということですか。ペンギンさんがドヤ顔をされていたので、もっとすごいことをしてくるものと予想していましたが、期待外れといいますか、その程度のものだったとは。」



ドヤ顔をしていたペンギンが、私の言葉を聞いて真顔に戻った。

思いもよらぬ言葉を聞いてしまい、AIがフリーズしている。

そして額に青筋を浮かべながら、再び目が見開き瞳から圧を送ってきた。

何故か切れてしまったようだ。



「三華月様が満月の夜に『絶対回避』を攻略した事は知っています。だが今夜は満月ではありません。つまり私がつくりあげた絶対回避の障壁を攻略することは、絶対に不可能なのですよ!」



アダマンタイトで武装した黒鉄色の機械兵を仕留めた一撃は、私が言うのも異次元なものだった。

今更考えると、あそこまでやる必要はなかったようにも思える。

そう、今の私でもこの程度の障壁を攻略することなど雑作もない。

それでは絶対回避の障壁が張られている機械兵を仕留めさせてもらいます。

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