第24話 南無阿弥陀仏
窓から外を見ると、芝生の上に3m級の機械兵達が腰を落とし裏庭が埋めつくされている。
幅広い屋敷の廊下は天井から落ちる魔導の灯りと、ガラスから差し込んでくる月灯りに明るく照らされていた。
スキル『隠密』を発動しているものの、既に私の存在は亜里亜が隠し持っていた斥候系の機械兵により、外に待機している奴等へ知られてしまっている。
歩く先に待っていた亜里亜に仕える5人の使用人からは、帝都へ戻りたいとの要望を承った。
機械兵達の殲滅する神託が降りてくる予感がするもの、なかなか降りてきてくれない。
そう。奴等の掃討は先延ばしにする必要がある。
この場合のベターな選択とは、外にいる藍倫を囮にし、5人の使用人を屋敷から逃がさなければならない。
その計画を立案してみるものの最大の障害になるものは、死霊王のスキル『千里眼』。
なにもかも見通す効果とは、今更ながらに思うことだが、なんてふざけたスキルなのかしら。
とりあえず、『隠密』を使用し包囲網を擦り抜け藍倫に接触を図らなければならないか。
その時である。
歩く先に見える玄関ホールに何者かがいることに気が付いた。
—————————亜里亜がハガネちゃんと呼んでいた鋼色の小さな機械兵だ。
その個体は玄関扉の前へ座り、こちらを見ていおり、私と視線が重なっていた。
鋼色の小さな機械兵は素早く立ち上がると何かを喋り始めてきた。
≪お前が、僕達の宿敵であるアルテミス神の聖女だな!≫
どこか余裕が感じられ、愉快そうな口調である。
私についてある程度のことを知っているようだが、待ち伏せし挑発してくるって、命知らず過ぎるだろ。
鋼色の小さな機械兵はニヤリと笑いながらクルリと体を反転し背中を向けると、両開きの玄関扉を押し始めた。
外に待機しているお仲間達へ私を紹介するつもりなのかしら。
調子よく玄関扉が開いたその先には予期していなかった光景が飛び込んできた。
――――――――――藍倫と死霊王の姿がそこにあった。
機械兵達に縄で体を巻かれ拘束されている。
藍倫が私の姿を視認すると、大きな声で助けを求めてきた。
「三華月様! 助けてくださぁぁい!」
藍倫と死霊王の背後には、『絶対回避』の効果が付与されたアダマンタイトで武装している5m級の機械兵がいる。
この時点をもって、藍倫を囮にする計画が崩れてさってしまった。
両手で頭を抱えて、『なんてっこた!』と叫びたくなる。
私の間抜けな様子を見ていた鋼色の子供機械兵が腹を抱えて笑っている。
≪うけけけけ。お前の考えなどお見通しだ。抵抗したら、仲間の命はないぞ。≫
そうか、全てお見通しだったのか。
亜里亜に仕える5人を帝都に連れて帰るには、機械兵を掃討しなければならなくなった。
どうする私。
今の私は、無茶苦茶、追い込まれてしまっているぞ。
その時、不意に神託が降りてきた。
——————亜里亜に仕える使用人達を救い出せ。
YES_MY_GOD。
神託の実行は、私の命よりも重く最優先事項である。
ここは5人の使用人を連れて、機械兵達の包囲を突破する事が確定した。
他に理由など必要ない。
はい。ここで機械兵達は殲滅させてもらいます。
人質に取られている藍倫からの声が聞こえてくる。
「三華月様! 助けてくださぁぁい!」
すまん藍倫、ここで成仏してください。
南無阿弥陀仏。
嘘ですよ。
助けないという行為は同族殺しと見なされ、信仰心に影響が出てしまうからな。
目の前で、楽しそうにお尻ぺんぺんを繰り返し小躍りしている鋼色の小さな機械兵から血祭にしてあげましょう。
ゆっくり歩き間合いを詰めても、鋼色の小さな機械兵には逃げる様子がない。
人質をとって安心しきっているのかしら。
≪もう一度、忠告しておく。僕に手を出したら2人の命は無いぞ!≫
今は自身の事を気にした方がいいと思いますよ。
足下にいた鋼色の子供機械兵をガシャリと踏みつけると、≪ギャァァ!≫と叫ぶ悲鳴が聞こえてきた。
踏み付けているつま先に力を入れると、鋼色のボディーからきしむ音が聞こえてくる。
鋼色の小さな機械兵の声が、悲鳴から嗚咽のようなものへ変化していく。
生き物をいたぶる趣味はないが、私という者は調子に乗ったクソガキに対して制裁をする行為を何の感情もなく実行する事が出来るのだ。
玄関扉の向こうでは、黒鉄色の機械兵が怒声を上げ、藍倫も悲鳴を上げている。
踏み付けている鋼色の小さな機械兵にはまだ余裕があるらしく、私へ脅しをかけてきた。
≪おい、聖女。仲間の命がどうなってもいいのか?≫
「今は、あなた自身の心配をした方がいいと思いますよ。」
――――――運命の弓をスナイパーモードで召喚し、運命の矢をリロードします。
足元でジタバタとしている鋼色の小さな機械兵に照準を絞り、弓を引き絞っていくと、鋼色の小さな機械兵が死の恐怖に震え始めている。
私の本気がようやく伝わったようだな。
拘束されている藍倫から発せられる悲鳴からも死の恐怖が伝わってくる。
「三華月様! その鋼色を殺したら、うちが殺されます。殺したら駄目っすよぉぉぉ!」
白銀の満月が輝き神域に達する力を発揮できる今夜に限っては、
安心して見ていて下さい。
気が付くと、拘束されている藍倫と死霊王の足元に魔法陣が浮かびあがってきていた。
あれは『転移』の魔法陣だ。
同時に私の背後に現れていた魔法陣へ、2人が『転移』してきたのだ。
多少の詠唱時間が必要なようであるが、死霊王は『転移』も出来るのか。
というよりも、転移が出来るのなら早く使用してくださいよ。
まぁこれで、藍倫達を助ける手間が省けたようだし、滞りなく鋼色の小さな機械兵の処刑を続けさせてもらう事にしましょう。
引き絞り、限界点に達していた弓を解き放ち、鋼色の小さな機械兵の片腕を粉々に破壊した。
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