第23話 罠に嵌めなければならない

古いレンガ造りの廊下の片側には、等間隔に嵌め込まれている窓ガラスから差し込んできている月の明かりが、石造りの床を照らしていた。

もう片方の壁には部屋の扉が建付けられ、白く塗料で塗られた天井にはいくつも亀裂が走っており、魔導の灯りが光を放っている。

亜里亜が自室へ入り扉を閉めると、来た道を戻り歩き始めていた。

壁を隔てた向こうから虫の鳴き声が聞こえてくる静かな夜だ。

嵐の前の静けさと言った感じかしら。

亜里亜が忍ばせていた隠密型の機械兵により、私の存在は外にいる機械兵達に知られてしまっている。

500個体の機体が私を待ち構えているが、実質的には『絶対回避』の効果を持つアダマンタイトで武装した黒鉄色の機械兵との戦いでしかない。

とはいうものの、まだ機械兵達を討伐する神託は降りてきていないため、現時点での戦闘は避けたいというのが本音である。


亜里亜はというと、人類へ侵攻しようとする機械兵達のためにアダマンタイトを錬金していた。

機械兵の世界が終焉を迎え、地上世界の生態系を破壊しないことを条件にし、こちらに受け入れた機械兵達は約束を違えた。

機械兵を処刑する神託が降りてくる予感がするのだが、まだ何かが足りないようだ。


玄関へ向かい歩く先には、タキシード姿の紳士と、私を同世代と思われるメイド服姿の女が私を真っ直ぐ見つめていた。

その背後には屋敷の使用人と思われる3人が立っている。

5名が強張った表情をしており、何か言いたいことがあるようだ。

5人を代表するように前に立っていた年配の侍が、不安そうな声で話しかけてきた。



「三華月様。これから帝都へお戻りになられるのなら、私達も一緒に連れていってもらえないでしょうか。」



彼等彼女達は、亜里亜の世話をする者として帝都から一緒に来た者で、機械兵側の者ではない。

屋敷を奴等に囲まれているこの状況は、精神的にきついものと想像できる。

聖女として、助けを求めてくる者達を見捨てるわけにいかない。

そう。ここで5人を見捨ててしまい万が一のことが起きると、それは見殺しにした行為とみなされ、信仰心が下がる可能性があるからだ。

だが、屋敷の周囲は機械兵達に囲まれている。

私としては機械兵の掃討は神託が降りてきてから実行したい。

このまま時間だけが経過してしまうと、隕石落としにて辺境の都市を一部破壊した行為により信仰心を下げられてしまう。

まずい。まず過ぎる。今の私は八方塞がりの状態に陥っているのではなかろうか。

どうする。私。

最良の選択は、機械兵を掃討することなく、5人の使用人を連れて包囲網を突破することだ。

ここは『陽動』をかけるしかない。


――――――――――藍倫には囮になってもらいましょう。


藍倫が囮となり、機械兵達の注意を引き付け、包囲網が崩れたその隙に5人の使用人を屋敷外から脱出させるのだ。

護衛にアンデット王を付けておけば藍倫の命は大丈夫だろうし。

とはいうものの、藍倫へ囮になってほしいと素直に頼んだとしても、快く承諾してくれるとも思えない。

さてどうしたものかしら。

藍倫にうまく罠にかけ、機械兵の注意を引いてもらうスキームを思案し始めていた。

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